551:4thナイトメア1stデイ-4
「グゴアッ!」
「うおらぁ!」
剛皮の巨人呪の拳がマントデアに向けられる。
マントデアはそれを二本の手で持った棒でいなすと、三本目の手で剛皮の巨人呪の顔面を殴りつけ、たたらを踏ませる。
「グゴッ」
「ほぉ」
が、ダメージ自体はそんなになかったようだ。
大したことがないと言う様子を見せた剛皮の巨人呪は、何処か感心した様子のマントデアに向かって再び突っ込んでいく。
「etoditna『毒の邪眼・3』」
では、マントデアに任せているだけと言うのもどうかと思うので、私も仕掛けるとしよう。
そう思って呪詛の剣を生み出すと、剛皮の巨人呪に向けて剣を飛ばす。
そして呪詛の剣が剛皮の巨人呪の頭部に重なったタイミングで『毒の邪眼・3』を撃ち込んだ。
「む」
「チュお?」
「おもろいなぁ」
「ほー……」
「ギギッ」
「ーーーーー……」
が、私が撃ち込んだ『毒の邪眼・3』は剛皮の巨人呪には入らず、いつの間にか呪詛の剣と重なるように出現していた灌木系のカース……割込の灌木呪に撃ち込まれてしまった。
考えるまでもなく、割込の灌木呪の能力だろう。
たぶんだが、他のカースの身代わりになって攻撃を受けるとか、そういう能力だ。
最初の事も考えると、他のカースに合わせて追撃を仕掛けるとかも出来るかもしれない。
「割り込み、なんて付いとるから、何処かで入り込んでくるとは思ったんやけど、こういう事やったんやね」
「地味に面倒くさい能力でチュねぇ……」
「コオオォォン!」
と、幻惑の狐呪も近づいてきているようなので、そちらはゼンゼと化身ゴーレムに任せるとしよう。
で、まだ他にも居そうな割込の灌木呪については私の方で対処しよう。
たぶん、それが一番早い。
幸いにして耐久度は低めなようなので、『毒の邪眼・3』一発で終わる。
「タル! 剛皮の巨人呪の皮膚が持つ呪いを俺に移すとかって出来るか!?」
「ゴガアアアッ!!」
ここで、マントデアが私に質問を飛ばしてくる。
可能か否かで言えば……まあ、可能だ。
しかし、マントデアの皮膚は既に呪いによって硬質化したもので、追加する必要があるとは思えないのだが……確認しておくか。
「素材があれば出来るわ。でもそんなに優秀なの?」
「おう、優秀だ! 刃を防げる硬さだけじゃなくて、打撃を防げるような柔らかさも併せ持っているぞ! タンク役としては是非とも欲しい!」
「ゴギィ! ガァッ! ゲガァ!!」
剛皮の巨人呪とマントデアの殴り合いはかなり激しい。
一進一退の攻防と言う感じだ。
レベルや総合力と言う意味では確実にマントデアの方が上のはずだが、剛皮の巨人呪の皮膚が持つ能力が優秀であるおかげで、互角に近い感じになっているらしい。
「分かったわ。じゃあ、そのままソロで倒して」
「……。その心は?」
「自分だけで倒せないような相手の呪いを取り込んでも、逆に取り込まれるだけだから」
「オーケイ、やってやる」
ふうむ。
こうなってくると今回のイベントはかなり美味しいように思えるな。
いや、元々これまでのイベントよりも美味しいと思っていたが、上方修正をかける必要がありそうだ。
と言う訳で、私は割込の灌木呪の処理と、ゼンゼと化身ゴーレムによる剛皮の巨人呪以外のカースの戦闘を見つつ、その辺について考える。
「まず単純に経験値が美味い」
此処で言う経験値は、ゲーム的な意味もあれば、プレイヤースキルを鍛える面の意味もある。
初心者ならば地上のモンスター相手で、私たちなら呪限無側でカースを相手にする事で、効率よく経験を稼げるだろう。
生産方面でも、初心者から最前線まで、多種多様な経験を積めるに違いない。
「素材も美味しい」
素材も普段は手に入らない物が大量入手できるのだから、相当美味しいだろう。
剛皮の巨人呪と戦い始める前にも出た話だが、今回のイベント中に手に入る素材は性質がシンプルで、初心者でも扱い易く、使い道は多い。
ここまで扱い易いなら、今回のイベント中に使い切りアイテムに加工して使うだけでなく、第五回イベントで取り返す前提で、素材の詰め合わせセット的な美術品を作るプレイヤーも出てくるかもしれない。
「人脈的にも美味しいわよねぇ」
また、素材の種類の豊富さから考えて、理想のアイテムを作るのであれば、積極的に他のプレイヤーと関わる必要がある。
と言う事はそれだけ人脈を築く事にもなるわけで、その価値は計り知れないものになるだろう。
「うーん、本当に美味しいイベントね」
総じて、今回のイベントはとにかく美味しい。
此処まで美味しいとなると、第五回イベントに備えて罠アイテムを作るよりも、純粋に良質なアイテムを作って得しようと考えるプレイヤーの方が多いかもしれない。
「あ、タルはん。さっきのマントデアはんとの会話が聞こえたんやけど、ウチが幻惑の狐呪の尻尾のような尻尾を呪いで増やしたい言ったら、やってくれる? で、やってくれるんなら、その場合はやっぱりソロ狩りになるん?」
「材料があれば薬は作るわ。ソロ狩りは……このレベルの相手なら必須ね。それぐらい出来ないと、後で飲まれるわ」
「分かったわ。ちょっとウチ個人で頑張るから、ザリチュはんは周りのカースを頼むわ」
「分かったでチュ」
さて、考えをまとめ終わったところでだ。
マントデアとゼンゼが自分の異形度上げのための材料を集めるのにソロ戦闘をしているなら、その間に私の方でやるべき事はやっておくとしよう。
具体的に言えば、複数人で倒したカースの死体の回収と解体、それと……脱出路となるゲートの捜索だ。
そろそろ最低限留まらなくてはいけない一時間も過ぎるし、脱出路の確保は考えておいていいだろう。