547:4thナイトメアミーティング-2
「具体的な話を聞いてもええか? タルはん」
「勿論よ」
「……」
何故、評価を上げないのか?
その理由は単純だ。
「今回のイベント自体の報酬は次回のイベントが有利になる事。次回のイベントの報酬は今回、私たちが作ったアイテム。まず、これはいいわよね?」
「ああそうだな。だから、今回のイベントでは評価が高いだけでなく、同時に自分たちにとって有用なアイテムを作るのが鉄板。そうじゃないのか?」
「せやねぇ。ウチらにとって有用なアイテムを作っても、次のイベントでそれを取り逃したら意味がない。だから、次のイベントを出来る限り有利にしておきたいと思うんが普通やわ」
私の言葉にマントデアが腕を組んだ状態で応える。
ゼンゼは既に私が言いたいことを理解しているのだろう、とても愉快そうな顔をしている。
「次のイベントまで二週間もある上に、確実に入手できるとも限らないなんて、馬鹿らしいと思わないかしら?」
「はっ? いやまあ、それはそうだが……」
「だったら、今回のイベント中に使ってしまえば、イベント後にも効果があるアイテムを作って使った方が、遥かにお得じゃないかしら?」
「あー……まあ、そうだなぁ……」
「そうすれば、今回のイベントの評価なんて無視できるし、次回のイベントは他のプレイヤーが作ったいい品を奪うか、自分用に作られたアイテムを探す事に専念できるようにならないかしら?」
「……」
と言う訳でだ。
ぶっちゃけ、今回のイベント中に評価を上げる意味合いが薄いのである。
私は評価を上げる事に邁進するくらいなら、呪術の一つでも修得したり、マントデアやゼンゼに呪詛薬をあげたりしたい。
そっちのが有用だろうし。
「とまあ、これが表向きの理由ね」
「表向きかい!」
「てことは、裏の理由もあるんやねぇ」
「ええ、幾つかあるわ」
勿論、他にも理由はある。
「一つにはザッハークが不快だったと言うのがあるわね。アイツ、私だけじゃなくて聖女ハルワにも性的な目を向けてくれたのよねぇ……。ぶっちゃけ、あんな奴の宝物庫に有用な品を入れたくない」
「その気持ち分かるわぁ……。ウチも偶然、ザッハークに会ったことがあるんやけど、ノータイムで胸を揉んできたスケベ親父やったんよ。アイツが皇帝やなかったら、色々と刈り落してやろうかと思う程度には不快だったわ」
「お、おう……」
まずザッハークが不快だった。
私に性的な目を向けてきたのはギリギリ許せなくもないが、聖女ハルワにまで向けるのは、流石に不快である。
ゼンゼも似たような経験があるのが、本気の不快感を前面に押し出した表情を出す。
「さらに言えば、私はもう『ユーマバッグ帝国』に期待をしていないのよね」
「期待?」
「もう?」
私の言葉に二人は首を傾げる。
「ヒトテシャの件で『ユーマバッグ帝国』の連中と遭遇したのよ。その時に女狐とやらが用意してくれた道具を『ユーマバッグ帝国』は使っていたんだけど、その道具の使い方がとにかく酷かったの。アレを見たら、私が望むような展開……未知なる技術や道具、戦術、呪術、その他諸々が見れる可能性なんてないわ」
「……」
私は「女狐」と言ったところで、目を一つだけ開き、3秒ほどゼンゼを見つめる。
ゼンゼの反応は……驚きもせず、微笑んでいる。
驚くに値しないと言う反応をすると言う事は……やはりそういう事か。
あの時の不快感から、そうじゃないかと思っていた面はあるが、まあ、普段のマップでの出来事はそちらでの話、今はイベントマップでの話に集中して、協力できる範囲でお互いに協力するとしよう。
たぶんだが、『ユーマバッグ帝国』をそういう方向に向かわせるという話ならば、マントデアよりも協力を取り付けるのは容易だろうし。
「だからまあ、使ってやろうかと思って」
「使うって……どういう意味でだ?」
「そりゃあ勿論、普段は出来ないようなアレやソレよ。具体的に言えば、飲み干せばそれだけでカースと化すような呪詛薬や、内乱を勃発させるような道具とか、それらの方向へ人々を誘導させるような美術品とかね。そう言うのを作って、使って、未知なる反応を見せて欲しいの」
「お、おう……」
私の言葉にマントデアは見るからに引いている。
だが私はそれに構わず話を続ける。
「『ユーマバッグ帝国』は前の時代……リスクを考えずに呪いを利用し、滅亡し、それでもなお災いや負債を残し続けていた連中から変わらない文明。自分たちで新たな何かを生み出そうと考えず、発展の芽を奪って食い、善良なものを虐げ嘲笑い、自分たちさえよければそれでいい、負債は自分たち以外の誰かに負わせればいい。そういう連中よ」
「いや、全員が全員そうと決まったわけじゃ……」
「全員がそうでなくとも、上層部がそうであり、その状態で固まってしまった文明なら、もう手遅れよ」
「あ、はい」
『本当に嫌いでチュねぇ……』
「だから使ってやるの。奴らが他の集団にしてきたように、ね」
「ふふふ、ええなぁ。それ。面白そうやわぁ」
構わず話し続け、周囲の呪詛を支配して武器の形にし、背後に控えさせる。
「と言う訳で、評価的には私は足手まといになるわ」
「ウチは構わんで。あの使えん連中が泡を吹いて倒れるところとか見てみたいしなぁ」
「ふふふ、ありがとう」
私とゼンゼは握手を交わす。
うん、今回のイベント中に限ってだが、実にいい協力関係が築けそうだ。
「お、おう……何だろうな、この、魔王同士の話し合いに参加しちまった端役感は……」
「ところでマントデア。今の私は恒常的に他の一般プレイヤーの3倍のHPがあるんだけど……要る?」
「ようし、『ユーマバッグ帝国』には滅んでもらおう。サクリベスと『ユーマバッグ帝国』ならサクリベスだ。やれることはやらせてもらうぜ」
はい、マントデアも仲間入りっと。
「と、そろそろね。『化身』」
「よっと。うん、いい感じでチュね」
そして化身ゴーレムも作成完了。
「さて、それじゃあイベントを大いに荒らすとしましょうか」
「せやなぁ」
「おう」
「うーん、手を組んではいけない三人が組んでしまった感があるでチュねぇ……」
その後、幾らかの打ち合わせを挟んだ後、イベントは始まった。
タル:ユーマバッグが滅びるなら有効活用して滅ぼしたい
マントデア:この状況で自分の強化を優先して何が悪い
ゼンゼ:どう考えてもタルに協力した方が面白いし、得られるものも多いわー