546:4thナイトメアミーティング-1
「さて誰が来るかしらね?」
『話が通じる相手だといいでチュね』
打ち合わせ部屋に私は飛ばされた。
打ち合わせ部屋は一辺が50メートルほどある立方体状の空間であり、仮にマントデアサイズが三人揃っても大丈夫なようになっているようだ。
「おっ、ラッキーだな」
「あら、マントデア」
『当たりでチュねー』
と、そんな事を思っていたら、身長約8メートル、虫系の顔に四つの目、三本の腕、硬質な皮膚、背中から放電能力のある触手を生やした巨人、人によっては私以上の異形の存在と感じるであろうプレイヤー、マントデアが姿を現わす。
どうやら二人目はマントデアのようだ。
なお、装備品として、柱をそのまま武器にしたような棒や、全身を覆う毛皮系の鎧を身に着けているため、威圧感は更に増しているかもしれない。
「これはまた、随分な面子やなぁ」
「あら貴方はこの前の」
「おっ、ゼンゼか」
『鎌狐でチュねぇ……見た目がでチュが』
頭頂部から狐耳、臀部から狐の尻尾を二本生やした、大きな胸と声だけから判断するなら女性のように見えるプレイヤーが現れる。
三人目はゼンゼ。
初遭遇はシベイフミク戦、そして先日のヒトテシャ戦直後に私を鑑定して爆散したプレイヤーだ。
大きな鎌を背負っているが、恐らくはアレが武器なのだろう。
「打ち合わせ時間は30分。急いで進めましょうか」
「だな」
「せやな。ところで打ち合わせ部屋に入った直後から、≪タルに見られています≫と言うシステムメッセージと共に、3分のカウントダウンが始まっとるんやけど、これ放置して大丈夫なんか?」
「あ、それは俺も出てるな」
「あ、それは私が最近獲得した呪いの効果ね。3分経つと、私の習得している邪眼術がランダムに放たれるから、目を閉じるわ」
「危なっ!?」
「確認しておいてよかったわぁ……」
どうやら、この打ち合わせ部屋からは普段通りのようだ。
いやまあ、考えてみれば当然か。
私だっていつものアバターに戻っているわけだし。
とりあえず私は私自身の目は閉じて、代わりにザリチュのつばに眼球ゴーレムを乗せ、それを目の代わりにする。
「じゃあ、改めて自己紹介ね。名前はお互いに知っているけど、情報はそれだけじゃないし」
『この流れで自己紹介に平然と行くんでチュか……』
「お、おう……」
「これが呪術関係のトッププレイヤーなんやな……」
では、自己紹介を始めよう。
お互いの名前や使う呪術については多少知っているが、今回のイベントにおいては、それだけが交わす情報ではないからだ。
「私の名前はタル。『ダマーヴァンド』の主であり、火炎属性素材、カース素材、状態異常関係の素材についてはそれなりのものが提供できると思うわ。アイテム生産についても、今身に着けているのは全部自分で作ったものだから、だいたいの物は作れると思うわ」
そう、今回は自分が提供できる素材と、何が生産できるかを話す必要がある。
もっと言えば、今回のAI判断で組まされたパーティに何を提供できるかを、話さなければいけないのだ。
「俺はマントデアだ。雪山のダンジョン、『ガルフピッゲン』の主。氷結属性、電気属性、それと巨大化に関係するような素材は充実していると思う。アイテム生産の腕前については、見ての通りの図体なんでな。力仕事は任せて貰っていいが、細かい作業については期待しないで欲しい」
マントデアと私の相性はかなり良いと思う。
属性の都合上、マントデアが知らない素材は私が知っていて、私が知らない素材はマントデアが知っている可能性が高いのだから。
「ウチはゼンゼと言います。特に何処かのダンジョンと関わりがあったりはしません。素材は……広く満遍なくになるんかなぁ? お二人の隙間を埋めるくらいは出来るかもやけど、期待はせんといて欲しいわ。アイテム生産については、身代わり系……カース鑑定のカウンターや危険な状態異常を凌ぐ使い捨ての道具はよく作っとるな」
ゼンゼは……本人も言う通り、私とマントデアの二人ではカバー出来ない範囲の素材は知っていてもおかしくないか。
アイテム生産の腕前は……まあ、自信はあるのだろう。
あったからこそ、先日は私に鑑定を仕掛けてきたのだろうし。
「まあ、二人の足を引っ張らないように頑張らせてもらいますぅ」
「その心配はしてないけどな。『CNP』のAI判断はかなり正確だし」
「そうね。むしろ足を引っ張るという点では、私の方が問題かもしれないわ」
なお、改めてゼンゼの姿を見てみるが……うん、やっぱりゼンゼの性別は男でよさそうだ。
こうしてゆっくりと見ることが出来れば、ゼンゼの喉と胸に、狐耳と狐尻尾と同じように呪いを纏っていて、後付けされたものである事がよく分かる。
まあ、そうでなくともゼンゼの体の骨格は男だし、動かし方は女を装っている男のそれなので、性別の判断についてはほぼ間違いないだろう。
「ふうん、それはどういう意味なん?」
「は? それはどういう意味だ? タル」
『あ、早速話すんでチュね。たるうぃ』
ま、ゼンゼの性別についてはどうでもいいか。
女であることを装って、不快な行為をするなら話は変わるが、そうでなければ気にする必要はない。
それよりも重要な事がある。
今の打ち合わせ時間中に絶対に伝えておかないといけない事だ。
「私、今回は特定の人物にしか使えないような装備品や、飲んだら異形度が上がるような危険な薬ばかり作る気なのよ。つまり、評価と言う意味では、大いに足を引っ張る事になると思うわ」
「「……」」
私の足を引っ張る発言に、マントデアは悩ましそうな顔を、ゼンゼは面白い物を見たような顔をした。