544:4thナイトメアプリペア-3
「それじゃあ、月曜日にね。タル」
「分かったわ。いい返事を楽しみにしているわ。ザリア」
『虹霓鏡宮の呪界』について詳しい話をするのは月曜日にリアルで会った時。
そう結論を出して、私はザリアたちと別れた。
「さて次は聖女様ね。ザリチュ」
『んー……聖女ハルワの匂いはあるでチュが、あの糞ビッチ似非聖女の臭いはないでチュね。実にいい事でチュ。ザリチュの気持ちは今、昼間の砂漠に照り付ける太陽のように晴れやかでチュよ。願わくば……』
「はいはい。なら、案内お願いね」
『……。分かったでチュ』
どうやら今回は聖女ハルワは居るが、聖女アムルは居ないらしい。
舞台が『サクリベス』ではなく『ユーマバッグ帝国』だからだろうか?
いやまあ、それならそれで、事情を知らないプレイヤーから、何で聖女ハルワはこの場に居るのかと言うツッコミが入りそうなものだが。
とにもかくにもザリチュの案内のおかげで、カフェで一人お茶を楽しんでいる聖女ハルワを私は見つけた。
「こんにちは。聖女ハルワ」
「こんにちは。呪限無の化け物。よくもまあ、こんな呪いの薄い場所に顔を出せたものね」
「あら、お気遣いありがとうと返すべきかしら?」
「返さなくていいわ」
どうやら聖女ハルワは私が『七つの大呪に並ぶもの』の称号を得て、この場のように呪詛濃度が薄い場所ではペナルティを受けるようになったことに気づいているらしい。
「はぁ……竜混じりの不老不死呪。それも竜を従えるどころか飲み込むだなんて、完全なる化け物ね。普通は逆よ」
「あ、そこまで分かるのね」
「分かるわよ。呪限無の化け物だけじゃなくて、その帽子も竜混じりになったぐらいまでなら姿を見れば簡単にね」
それと『劣竜式呪詛構造体』についても気づいているようだ。
流石と言うか何と言うか……。
まあいい、今は私の要件を進めるとしよう。
「それで、用件は?」
「今回の悪夢について。確認だけど、『サクリベス』には宝物庫なんてないわよね?」
「あったとしても呪限無の化け物に宝物庫の有無なんて話すわけないでしょ。でも、これだけは言えるわ。ここは『サクリベス』じゃないし、夢の主も『サクリベス』と無縁……と言うより、友好的な縁の持ち主じゃないわ」
「なるほどね」
今回の悪夢の主は『サクリベス』と友好的な縁があるものじゃない。
うん、これだけでも十分な情報と言えるだろう。
それって要するに、どんな危険物を叩き込んでも、逆利用されない限りは問題ないと言う訳だし。
自爆させるつもりで危険物を叩き込んで問題ないって事だし。
「手加減は考えなさいよ。呪限無の化け物が本気を出したら、どれだけの犠牲が出るか分かった物じゃないわ」
「手加減と言われても困るわね。そもそも、どういう方向で作るかは他のメンバー次第の面が大きいわ」
「嘘を吐くんじゃないわよ。嘘を。飲んだ人間に呪いをかける薬を作ったりする気でしょうが」
「呪詛薬だって使いようよ。用法用量を守って、服用者が納得の上で飲むなら、批判を受ける謂れはないわ」
聖女ハルワが私の事を睨みつけてくる。
うんまあ、呪詛薬については作る気満々なのは否定しない。
「それよりも悪夢の主がどんな人間なのかは知っているの?」
「知っているわ。紹介はしたくないけれど。碌な事にならない未来しか見えないし」
「あら、未来予知能力なんてあったの?」
「無くても容易に想像できるのよ」
聖女ハルワがため息を吐きながら、そんな事を言う。
と、ここで私は複数の人間がこちらに近づいてくる気配を感じたので、そちらの方を向く。
「何なのだ、この夢は……まったく、怪しげな風体の無礼者どもが街中に溢れかえり、我が都を我が物顔で歩くなど不愉快極まりない。正に悪夢だ」
「これが、呪人が言うところの、フラグ、という奴なのかしらね」
「かもしれないわねぇ」
現れたのは、豪勢な衣服で身を包み、見るからに機嫌が悪そうな顔でブツブツと何かを呟いている40代前後の男。
八人持ちの輿で運ばれているが、その体は良く鍛えられているようで、ガタイはいい。
もしかしなくても、『ユーマバッグ帝国』の皇帝だろう。
「ほう、これは驚いた。夢とは言え、このような美女に会えるとはな」
皇帝の顔が私と聖女ハルワに向けられる。
その顔は好色としか言いようがない物であり、皇帝がそれなりに鍛えられた体をしているおかげで不快感こそ少ないが、どう言う目的で私たちを見ているのかがよく分かるものである。
「命令だ。ちこ……は?」
まあ、少ないと言っても不快は不快なので、皇帝がこちらへ近づこうとしたところで、その顔を掠めるように呪詛の剣を降らせて、地面に突き刺したが。
「他に情報はないの? ハーちゃん」
「ハーちゃ……いや、情報と言われても困るんだけど。私もそんなに詳しいわけじゃないわよ?」
「くぁwせdrftgyふじこlp!?」
皇帝が慌てふためく中で、更に二本三本と呪詛の剣を降らせ、更には呪詛の霧を人型にしたものを幾つも出現させて、笑みを浮かばせる。
そして、私と聖女ハルワはそんな皇帝の様子など目に入ってすらいないと言う風体で、会話を続ける。
「なん、なん……くそっ!? なんなのだこの夢は!? おのれ、貴様ら一体どこの手のものだ!? 朕が『ユーマバッグ帝国』が主、ザッハークだと知っての事か!? 許さんぞ! 貴様らが何処の手のものか知らないが、夢の中と言えど朕に手を出して済むと思うなよ! 皆殺しだ! 一族郎党の首を叩き落して……」
「やっぱり遠慮は要らないんじゃない?」
「民が困るから……なんて、言っていられなさそうね」
私が操る呪詛に追い回されて、皇帝は私たちの傍から去っていく。
なんか、何人か名前も上げ始めているし……このまま現実に返すと、それだけでも被害が出そうな気がする。
「ま、『サクリベス』には被害が及ばないように気を付けるわ」
「はぁ……」
さて、そろそろイベント開始前にある説明開始の時刻か。
今回はいったい誰と組むことになるだろうか?