543:4thナイトメアプリペア-2
「それでタル。話って何かしら?」
「んー、簡単に言えば、イベント後に『ダマーヴァンド』にちょっと来ないかって話ね」
「『ダマーヴァンド』に?」
さて、ブラクロVS鹿頭のプレイヤーの模擬戦が始まっているが、ザリアと話をするとしよう。
「……。タル、なんだかすごく嫌な予感がするんだけど、聞かないと駄目?」
「別に聞かなくても問題はないけど、メリットしかない話よ?」
まあ、何故だがザリアは既に頬を引きつらせ始めているのだが。
「分かった聞くわ。内容は?」
「新しい呪限無『虹霓鏡宮の呪界』を協力して攻略しないかって話ね」
『たるうぃ!? いいんでチュか!? それを話して!』
あ、ザリアが右手を額に押し当て始めた。
うん、とりあえず一通りの情報を出してしまおう。
「『虹霓鏡宮の呪界』は私の邪眼術の習得状況に応じて拡張されるダンジョンみたいなのよね。で、この前試しに『毒の邪眼・3』に対応するエリアに入ってみたんだけど、酷い目にあったのよ」
「タルが酷い目に……ね。具体的には?」
「入った直後に目一つ分の『毒の邪眼・3』が付与されて、その状態でレベル40のカース5体に襲われたわ」
あ、ザリアが頭を両手で抱えた上で、机に顔面を押し付けた。
今思い出しても、実に殺意の高い組み合わせである。
「ちなみに襲ってきたのは鼠毒の竜呪と言うカースで……ぶっちゃけドラゴンね。低ランクの攻撃の威力を大幅削減してくるから、相当ヤバいわよ」
「いや、もはやヤバいとかそう言う次元じゃないと思うんだけど……」
「呪詛濃度が26もあるせいか、ゾンビ化までの時間が異常に短かったのもヤバかったわねぇ……」
あ、今度は眉間の辺りを指で揉み始めた。
なお、『七つの大呪』に繋がるような情報は出さないように注意をする。
「で、そんな場所が今後、合計で13個発生しそうなのよね。流石にこれを一人でどうにかしようとするのは無理があるかなと思ってザリアに話を持ち掛けたんだけど……どうかしらね?」
「そうね……」
さて、ザリアが手を顎にやって、考え込み始める。
私の言葉に衝撃は受けても、流石はザリア。
考えるべき事はきちんと考えてくれるようだ。
「東の第3マップのカースと『ユーマバッグ帝国』の件があるから、ずっと協力できると断言することは出来ないわね。でも、可能なら探索はしたいわね。素材的にも、レベリング的にも重要そうな場所になりそうだし」
「ふむふむ。じゃあ、大丈夫そうね。ザリアが受け入れるなら、シロホワたちも受け入れるだろうし」
「そうね。でもまあ、とりあえずは私とタルの二人だけで探索をしてみましょうか。後、可能ならその……鼠毒の竜呪とか言うドラゴン系のカースから得た素材なり装備なりを、一応見てみたいんだけど……」
「分かったわ」
うん、ほぼ交渉成立。
これなら大丈夫だろう。
では、求められたことだし、鼠毒の竜呪の歯短剣を見せようと思うが……先日のヒトテシャ討伐直後のアレもあったので、ちゃんと警告もしよう。
「鼠毒の竜呪の素材から作った装備と言うとこれね」
「鑑定をさせる気はないのかしら?」
「ちょっと厄介な話があるのよ」
私は鼠毒の竜呪の歯短剣をテーブルの上に乗せると、『鑑定のルーペ』を向けようとしたザリアを手で制する。
「注意事項は二つ。一つは、こいつは異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、カウンターを撃ってくるわ。具体的にはスタック値100の毒」
「完全に危険物じゃない……」
「もう一つはザリアの『鑑定のルーペ』では鑑定出来ない可能性があると言う事。レベル不足なのか、他に理由があるのかは分からないけど、『虹霓鏡宮の呪界』では鑑定不能の対象があったから、これも鑑定出来ない可能性があるわ」
「分かったわ」
私の注意事項を受けて、ザリアは自分の手持ちのアイテムの状況を確かめているようだ。
と言うのも、この交流マップでは模擬戦中以外では攻撃的な能力の一部が封じられているが、お互いに了承した鑑定に対する、物の能力によるカウンターと言う特殊な条件下ではどうなるかが判断できないからだ。
「じゃ、鑑定するわ」
「分かったわ」
ザリアが鼠毒の竜呪の歯短剣を鑑定する。
結果は……毒を受けなかったようだ。
「なるほど。確かにドラゴンのカースね。能力も高い。これだけでも大量の人を呼び込めそうね」
「でも、人が増えると、それだけ危険物の持ち出しも増えるのよね。だから、私が信用できない相手を『虹霓鏡宮の呪界』に招く予定はないわ。後呼び込むとして……マントデアたち、スクナたち、検証班の一部くらいかしら?」
「そうね。私もその方がいいと思うわ。前歯から作った短剣でこれなら、他の部位も危険物ばかりでしょうし。あ、スクショは大丈夫?」
「勿論大丈夫よ」
で、鑑定の方もきちんと出来たと。
うーん、鑑定カウンターは交流マップでの能力制限の対象と言う事だろうか。
まあ、ザリアが無事ならば問題はないか。
「おっ、タルにザリアじゃん。来てたのか。で、何かかっこいい短剣があるな。俺も見させてくれよ。鑑定っと」
「別に構わ……あ」
「気を付け……あ」
と、ここで模擬戦を終えたらしいブラクロが他のいつもの面々を連れてこっちにやってくる。
で、私とザリアが見せ合っていたことから、問題ないと判断したのだろう、私が許可を出し切る前にブラクロが鼠毒の竜呪の歯短剣を鑑定して……
「ゴフッ!?」
「ブラクロ!?」
「毒100!?」
「兄ぇ……」
「……。何をやっているんだアイツは」
「ブラクロ君がやらかしたと見ようか」
「あー……これは……」
「タルは悪くないわ。これはブラクロが悪い」
鼠毒の竜呪の歯短剣の鑑定カウンターを食らい、毒によって倒れた。
「えぇ……何が起きたんだよこれ……」
「とりあえず一遍死に戻りしてくるといいわ。解毒アイテムが勿体ないし。うん、南無阿弥陀仏」
「ごふぅ……」
どうやら交流マップでは、お互いに了承の上での鑑定ならカウンターは発動しないようだが、完全な了承なしで鑑定してしまうと、カウンターが発動して、ブラクロのような事になるらしい。
「タル、丁度いい検証だったと思っておいてもらえると嬉しいわ」
「そうね。丁度いい検証だったわ。ブラクロの尊い犠牲に感謝を」
とりあえずこれ以上の犠牲者は不要。
と言う訳で、私は鼠毒の竜呪の歯短剣をしまい、ザリアは鼠毒の竜呪の歯短剣の鑑定結果を映したスクショを提示して、残りのメンバーへの説明を始めた。