542:4thナイトメアプリペア-1
「さてイベントね」
本日は2019年9月8日、日曜日。
『CNP』公式第四回イベント『空白恐れる宝物庫の悪夢』の開催日である。
と言う訳で、11時からログインして、私は交流マップに入った。
「む……」
『どうしたでチュか?』
「体がちょっと重いわ」
ログインしてまず感じたのは全身が軽く縛り上げられ、少しの重りを付けられたかのような気怠さだった。
原因は……称号『七つの大呪に並ぶもの』に記載があった、修正前の呪詛濃度が呪詛濃度5以下の空間でペナルティが発生と言う物か。
まあ、多少体が動かしづらいだけで支障はないか。
だからこそ、ザリチュ他私の装備品に存在している周囲の呪詛濃度や私の異形度に応じたデメリットと違って、発動しているのかもしれないが。
「まあいいわ。それよりも周囲ね」
『これまでのイベントとは違う感じでチュね』
体の不調についてはさておいて、私は周囲に視線をやる。
そこに広がっているのは、これまでのイベントの交流マップとは違う街並み。
どことなく東洋圏の様式が混ざっているようにも見える感じだ。
「おい、何だあの姿……」
「相変わらずの痴女だな……」
「なんか見慣れたものが周囲に……」
んー、今までがサクリベスなら、今は……別の文化圏の街を交流マップとして使っている感じだろうか?
「……。ユーマバッグ帝国、かしらね?」
『まあ、一番あり得そうなのはそこでチュよね』
ではさらに詳細を確認。
建物に東洋圏の様式が混ざっているのは先述通りだが、空き地に折り畳み式の持ち運びが可能な遊牧民の建物が建っていたり、馬が繋がれている場所もある。
NPCの顔つきも、微妙に異なる感じがあるし、服装も違う。
と言うか、NPC衛視と思しき人物の装備品がヒトテシャに挑んでいた『ユーマバッグ帝国』の連中とほぼ同一だ。
『今回のイベントは『ユーマバッグ帝国』の誰かの夢でやっている。と言う事なんでチュかね?』
「かもしれないわね。でもそれならそれで納得は行くわ」
今回のイベントは『空白恐れる宝物庫の悪夢』。
イベントの目的は、指定されたジャンルに沿ってアイテムを作成する事。
そして作成されたアイテムは次回のイベント、『盗賊恐れる宝物庫の悪夢』での景品になる。
実を言えば、この流れに違和感を覚えなかったわけではない。
サクリベスで宝物庫を見た覚えはなかったし、仮にあったとしてもサクリベスから物を盗むのかと。
だが、相手がカースっぽいとか、悪徳NPCかもしれないとかで流していたのだが……なるほど、『ユーマバッグ帝国』が相手だったと。
うん、遠慮なく次回のイベントで盗めるな。
『で、これからイベント開始までどうするでチュか?』
「そうねぇ……ザリアとの合流、聖女様の捜索、それと……」
『それと?』
「折角の『ユーマバッグ帝国』内なら、あちら側の重要人物を見ておきたいとは思っているわね」
『なる程でチュ』
私は適当に街中をぶらついていく。
交流マップである事に変わりはないためか、建物や人に差はあれど、扱っているものはこれまでと変わりない。
無料の飲食物が配られ、闘技場でプレイヤーたちによる模擬戦が行われ、それを観戦のために入って来たゲストプレイヤーが興味深そうに見ている。
「アオオオオォォォォン!!」
「「「オオオオオオオオオオオ!!」」」
「ん?」
と、ここでブラクロの遠吠えが聞こえてくる。
どうやら模擬戦で勝利し、勝利の雄たけびを上げているようだ。
で、ブラクロが居るなら、その近くにザリアが居る可能性も高い。
と言う訳で、私は声が聞こえてきた方に向かって歩いていく。
『そう言えば、たるうぃはほぼ裸足で歩いているでチュが、足裏は痛くないんでチュか?』
「ああ、その事?」
言われてみれば、今回の交流マップの足元は微妙に砂っぽい面もあり、これまでと違って裸足で歩くのに適しているとは言い難い。
が、私は別に痛みの類は覚えていない。
どうしてだろうかと思って、少し自分の体に意識を向けてみたのだが……それで理由は分かった。
「ああ、幾つかの呪いがオンになっているわね」
『劣竜皮でチュか』
「そういう事ね」
理由は不明だが、どうやら『劣竜式呪詛構造体』が機能しているようだ。
交流マップでは異形度が3以下になるように調整され、これまでの私は『不老不死』、『増えた目』、『遍在する内臓』以外は発動してなかったのだが……どうしてか『劣竜式呪詛構造体』に含まれる5つの呪いは効果を発揮しているようだ。
「おいアレ……」
「タルだ。交流マップでも霧が濃いな」
「異形度3以下とはいったい」
それはつまり、私の異形度がこの場においても8ある事になる。
その為、無意識的に呪詛の霧も集めて纏ってしまっていたようだ。
うん、さっきから時折こちらに視線を向けて、ひそひそと話がされる原因の一つはこれだったのかもしれない。
まあ、劣竜瞳の攻撃能力のような、他のプレイヤーや住民に危害を与えるような力はきっちり封じられているようだし、別に問題はないか。
「タル!? なんで呪詛の霧を纏ってるの!?」
「あ、ザリア。良かったわ。合流出来て」
むしろメリットもあったか。
私の知り合いが私を見つけやすいと言うメリットが。
「よかったって……」
「イベント後について、ちょっと話しておきたいことがあったのよ」
「そう……なら、適当にカフェに入りましょうか」
「分かったわ」
と言う訳で、私はザリアと合流すると、ブラクロたちの模擬戦の様子が見られるカフェへと入っていった。
05/28誤字訂正