537:ヒトテシャ・ウノフ-2
本日は四話更新になります。
こちらは二話目です。
「ブモオオオォォォ!!」
「気温の上昇……第二段階ね」
ヒトテシャ戦は戦闘の段階が進む度に周囲の気温が上昇するらしい。
なので、第二段階に入ったのはほぼ間違いないだろう。
ヒトテシャの第二段階は……
「ブモウッ!」
ヒトテシャの足元で地面が隆起し、それを蹴る事で、勢いよく私の方へと射出する。
「おっと、危ないわね」
うんそうだった。
ヒトテシャの第二段階はこうして岩を蹴り、遠距離攻撃を仕掛けて来るんだった。
とは言え、ヒトテシャの全身は呪詛の鎖で縛られている状態だし、小人の状態異常にもかかっているため、本来は岩を飛ばしてくるものが、こぶし大の石を飛ばす程度のものとなっているし、スピードも控えめだ。
と言う訳で、呪詛を操って十数層の壁にして受け止め、勢いを削ぎ、余裕をもって回避する。
「ザリチュ。第三段階に備えて重ねていくわ」
「分かったでチュ!」
「ブモオオォォ……」
その場から動けないためだろう、私に向かってヒトテシャは何度も石を蹴飛ばし、ナパームの痰を吐き出してくる。
私はそれを回避しつつ、深緑色の反対色、明るい赤の呪詛の円を一つだけ展開する。
「『毒の邪眼・3』」
「ブミョ!?」
目一つ分かつ弱体化した『毒の邪眼・3』によって与えた毒は20程度の貧相な物。
が、だからこそ反射されても、ジタツニの耐性によって容易に凌げる。
「ふふふ、いい感じね」
「ブモ……ブモウッ!?」
「おおっ、エグイでチュねぇ……」
そして、それをいい事に、私は目一つ分の『毒の邪眼・3』を重ねていき、毒のスタック値を増やしていく。
後半のダメージソースとする事を考えると、1万ぐらいは欲しいが……そうなると500回か。
途中で『小人の邪眼・2』と『飢渇の邪眼・2』を挟みつつ、地道に重ねていくとしよう。
「こうなると劣竜肉と『貯蓄の呪い』の組み合わせ、それと満腹の竜豆呪が嬉しいわね」
「チューッチュッチュ! あったらないでチュよ!」
「ブモオオォォ!!」
幸いにしてリソースは十分にある。
劣竜肉によるHP3倍化と『貯蓄の呪い』によって、邪眼術含む呪術に使えるHPは1万5千以上で、此処に劣竜骨髄による自然回復の加速もあるので、尽きる事はほぼ無いだろう。
そして満腹の竜豆呪があるおかげで、満腹度が尽きる事もほぼ心配しなくていい。
これならば、私が思うように戦いを進められるだろう。
「ブ、ブモウウウゥゥオオォォ!!」
「第三段階ね……」
「一度退くでチュよ。たるうぃ」
気温が再び上昇した。
それを見て、火炎放射と爆弾を避けつつ攻撃を続けていた化身ゴーレムがヒトテシャから離れて、私の方へと移動する。
さて、ヒトテシャの第三段階か。
つまりは……アレが来る。
「ブモウッ!」
ヒトテシャの口が大きく開かれ、杭のような太さを持つ上に長大で、黄色い液体を纏った舌が私に向かって素早く伸ばされる。
この時、私とヒトテシャ、彼我の距離は40メートルほどで、伸ばされる舌の長さが10分の1になっていれば、決して私に届く事はない距離である。
「させないでっチュよ!」
「なるほどね。舌の長さは50メートルで固定されているの。つまり、小人では防げない、と」
が、現実としてヒトテシャの舌は私の前に立つ化身ゴーレムに届き、化身ゴーレムは盾でヒトテシャの攻撃を弾いた。
どうやら、ヒトテシャの舌伸ばしは呪術の一種であり、ヒトテシャの体のサイズが変化しても、射程は変化しないらしい。
「ブモウッ、ブモウッ! ブモウッ!!」
「たるうぃ! ヒトテシャの口を塞ぐことは出来ないんでチュか!?」
「無理。舌に実体がないみたいで、今更口を封じても駄目みたい」
ヒトテシャは何度も頭を振り、私たちに舌を叩きつけようとする。
化身ゴーレムはそれを剣と盾で上手く弾いて凌いでいるが、何時までもこうしていても仕方がないか。
「ていっ」
「たるうぃ!?」
と言う訳で、私はヒトテシャの舌に少しだけ触れて、微量なダメージを受ける。
「まあ、見てなさい」
ヒトテシャの舌はざらついており、強酸も付いている。
そんな物に触れれば、劣竜皮で守られている私であっても、皮膚が削れ、溶け、出血する事になる。
それはつまりヒトテシャの舌に私の血が付くと言う事であり……。
「ブギョッ!?」
「はい、劣竜血発動」
「ああ、なるほどでチュ……」
劣竜血の効果によって、ヒトテシャに邪眼術が発動する。
それもカウンターかつ体内から発動するような物であったためか、反射される事無く効果を発揮したようで、干渉力低下(15)が入っている。
なお、私が受けたダメージは既に回復済みである。
「ブ……ゲロロロロロ……」
「と、攻撃が変わったわね」
「ばっちぃでチュね……」
と、思わぬ反撃を受けたためか、ヒトテシャは舌を消すと、代わりに口から大量のナパームを吐き出して、周囲に撒き散らしていく。
その量は凄まじく、ヒトテシャの周囲数十メートルの地面が痰で埋め尽くされ……燃え上がる。
「ブモオオォォォ!」
「ザリチュ」
「行きたくないでチュが……ええい! 行ってやるでチュよ!」
まあ、私は範囲外に居るし、遠距離攻撃主体なので、何も困らない。
この程度の炎と黒煙ならば、『熱波の呪い』で一時的にどかして、視線を通すことも出来る。
化身ゴーレムにしてもだ。
「チュラッハァ! 汚いものをばら撒くんじゃねえでチュよ!」
「ブミョッ!?」
奪塩奪水の水をばら撒いた上で突っ込めば、被害なくヒトテシャに接近し、切りつける事ぐらいは出来る。
尤も、ただ切りつけてもらうのも芸がないので、鼠毒の竜呪の歯短剣を一本持って行ってもらい、深く突き刺し、レベル低下を入れさせるが。
「ブ、ブモオオオォォ!!」
「さて第四段階ね」
こちらの与えるダメージの量はさらに増し、閾値を超えた事で、段階が進み、気温が更に上昇した。