536:ヒトテシャ・ウノフ-1
唐突ですが、本日は四話更新となります。
こちらは一話目です。
「さて、明日にはイベントね」
「でチュね。おかげで此処も賑わっているみたいでチュ」
本日は土曜日。
イベントを明日に控えたプレイヤーたちの行動は?
イベント中に使える素材の種類を増やす為に、デンプレロたち超大型ボスの討伐か、未知のダンジョンの探索である。
まあ、これは当然の話だろう。
より多くの種類の素材を使えて助かる事はあれど、困る事はほぼあり得ないのだから。
「で、たるうぃはヒトテシャに挑むんでチュよね」
「ええそうよ」
「そうでチュか。実はざりちゅにはちょっとした用事が……チュアアアァァァッ!?」
「馬鹿言っていないでいくわよー」
と言う訳で、私たちも使える素材を増やすべく、現在私が挑める中で唯一倒せていない超大型ボス、『焼捨の牛呪』ヒトテシャ・ウノフに挑むことにする。
なので、劣化版ヒトテシャと戦える『怒り呑む捨て場の呪地』に移動したのだが……。
「お、おかしいなぁ……呪詛濃度21まで視界制限は払っているんだけど……どう見ても24とか25どころじゃないんだよなぁ……」
「待って。なんで目が合っただけで不審なカウントダウンが!?」
「見た目が変わってないのに異形度が上がっているとか、不穏すぎる……!?」
「大人気ねぇ。私たち」
「人気なのはたるうぃだけだと思うでチュ」
うんまあ、騒ぎにはなっている。
騒ぎの原因は言うまでもなく私が『劣竜式呪詛構造体』を得た事で異形度が26になった上に、カジノで回収してきた火炎属性耐性のブースターと『死退灰帰』の服用によって、異形度が30に到達。
私の周囲の呪詛濃度も30に達しているからだ。
おまけに劣竜瞳の効果で、今の私が他のプレイヤーを注視すると、注視されたプレイヤーにメッセージが飛ぶと同時に3分のカウントダウンが始まるようで、これが騒ぎを助長している。
「え? ザリチュも結構人気だと思うけど?」
「何処が……」
「黒タルのザリチュエロイ」
「いいよなぁ。あの装備。人間には装備できないらしいけど」
「タルと違って本当に……カウントダウン止めて!?」
化身ゴーレムの注目の集め具合は……割とあると思う。
とりあえず私に対して少々問題のある言動をしたプレイヤーは10秒ほど見つめてやろう。
「さて、此処がそうらしいわね」
「でチュねー」
そうこうしている間にヒトテシャと戦える場所に到着。
高さ数メートルある溶岩の噴水、七つあるそれによって囲まれたエリアの中心に赴けば、劣化版ヒトテシャと戦えるらしい。
「で、反射対策はあるんでチュよね」
「考えてはあるわ」
「駄目だった時は自爆でチュか?」
「そうなるわね」
では、戦闘開始。
エリアの外に居るプレイヤーの姿が消え、戦闘用のエリアに飛ばされる。
そして、私と化身ゴーレムの二人しか居ないエリアに第三の影が現れる。
≪大型ボス『焼捨の牛呪』ヒトテシャ・ウノフとの共同戦闘を開始します。現在の参加人数は1人です≫
「ブモオオオオォォォ!!」
本来のものと比べると、一回り程小さくなったヒトテシャだ。
だがサイズ以外に変化はなく、色々と垂れ流しにしているし、毛皮の金属光沢なども変わらない。
ヒトテシャは私たちを認識すると、すぐさま車など比較にならないような速さで突進を開始する。
掲示板曰く、劣化版ヒトテシャはこの開幕の突進をどう止めるかが最初の難題で、これを超えるのが中々にきついらしい。
とは言えだ。
「宣言する。ヒトテシャ、貴方を大きさが揺らぐ世界へと誘ってあげるわ。citnagig『小人の邪眼・2』」
「ブモウッ!?」
十分な距離がある状態で戦闘が始まったのだから、どうとでもなる。
私は呪詛の槍を飛ばし、呪詛の槍がヒトテシャに重なったタイミングで伏呪付きの『小人の邪眼・2』を12の目で発動。
それから、しばらく目を瞑り、ポーズを取って、目を開く。
そうして、各種呪法によって強化がされた上に、耐性を無視する強制付与の呪いがヒトテシャに襲い掛かる。
与えた状態異常は小人(729)。
ヒトテシャの体は10分の1にまで縮んで、普通の牛のようになり、その速さもサイズ相応のものにまで落ちる。
「で、私も縮むと」
「予定通りでチュね」
「予定通りよ。『出血の邪眼・2』」
だが、ヒトテシャの反射によって、私にも小人(729)が付与される。
しかも、感覚的に伏呪まできっちり返ってきているらしいし、反射されたものであるためか、任意解除も出来ない。
まあ、予定通りなので、反対色の『呪法・極彩円』で威力を落とした伏呪付きの『出血の邪眼・2』で、私に罹っている伏呪は解除するだけだ。
「ブモッ!? ブベッ!?」
「ザリチュ」
「分かってるでチュ」
『小人の邪眼・2』の伏呪は早速効果を発揮している。
不規則なサイズ変化と恐怖によってヒトテシャは思うように動けないようだ。
その隙に化身ゴーレムは剣を抜き放ちながら、大きな硫黄の火の残り火を使って巨大化、素早くヒトテシャに向かって行く。
「チュアッハァ!」
「『熱波の呪い』」
「ブギョッ!?」
化身ゴーレムの剣がヒトテシャの胴に突き刺さる。
その衝撃にヒトテシャの体が強張ったタイミングで、私は『熱波の呪い』によって作った呪詛の鎖をヒトテシャの体へと巻き付けて、拘束を試みる。
「ブギッ……ブモッ……」
「たるうぃ!」
「問題ないわ」
『熱波の呪い』も呪術である為だろう。
巻き付けようとした鎖の大半は途中で制御を失い、私の方へと向かってくる。
が、邪眼術と違って回避も迎撃も容易な速さなので、私に向かってくる呪詛の鎖は呪詛の剣で叩き落し、全てが反射されなければ問題ないと思いながら、拘束の為の鎖を増やしていく。
「ブモオオォォ!!」
「きったないでチュねぇ……」
「戦闘が終わったら化身ゴーレムは作り直してあげるから、頑張りなさい」
勿論、ヒトテシャもただ拘束されるだけではない。
火炎放射、爆弾、ナパームは当たるを幸いに散布し続けてくるし、全身から火の粉も出してくる。
なるほど、こんな暴れ方をされたのでは、普通の拘束手段ではそう長くは拘束できないだろう。
だがしかしだ。
「悪いわね。ヒトテシャ。私も私が操る呪詛も炎には強いのよ」
「ブモオオオォォ!!」
『熱波の呪い』による呪詛の鎖にはダメージの判定があり、それによる拘束は可能としているが、物理的な実体がないから、体と地面で挟みつけても切る事は叶わず、私の火炎属性の都合で炎にも強いのだ。
おまけに今のヒトテシャのサイズは本来の10分の1で、筋力も相応に落ちている。
この拘束からの脱出が叶う事はない。
「劣竜瞳は……耐性を抜けないし、反射されたのも無効化されているから、無いような物ね」
なお、時間的にここまでに劣竜瞳が発動しているはずなのだが、私にもヒトテシャにも影響は見られない。
どうやら、目一つ分かつ素の邪眼術ではヒトテシャの耐性は抜けず、反射されて私に返って来たものがあっても、そちらはジタツニの耐性を抜けずに、結果として何も起きていないように見えるようだ。
「まあいいわ。行くわよザリチュ! ytilitref『飢渇の邪眼・2』!」
「分かっているでチュよたるうぃ!」
「ブ、ブモオオォォ!?」
うん、劣竜瞳には期待せずに攻め続けよう。
ヒトテシャの火炎耐性も私と同じく高く、拘束によるダメージはほぼ無い。
だから、ダメージの加速要因として、それから拘束が完了して不要になった『小人の邪眼・2』の伏呪消しとして、呪法と伏呪付きの『飢渇の邪眼・2』を撃ち込む。
与えた状態異常は乾燥(1,377)。
勿論、乾燥の状態異常が返ってくるが、ジタツニに加えてザリチュの耐性もあるので、私に通る乾燥は微々たるものである。
「さあ、ガンガン削ってやるでチュよ!」
「ブミョウッ!?」
化身ゴーレムの剣が再びヒトテシャの横っ腹に突き刺さり、少なくないダメージを与えた。
周囲の気温が少しばかり上がったような気がした。