534:セパレートベーノドラゴン-8
「さて、ゴーレムの再作成と配置は終わったでチュね。次はざりちゅの戦闘での試運転でチュか? それともざりちゅの渇砂操作術に新たな呪術を加えるでチュか? 新しいゴーレムの構想ならあるでチュよ?」
「それもいいけど、先にこっちね」
「チュア?」
私は日にちが経ったことで、腐りかけになりつつある鼠毒の竜呪の肉をザリチュに見せる。
「腐りかけでチュね。もうこうなったら食べられないと思うんでチュけど……正気でチュか? いや、たるうぃなら腹を壊したりはしチュアアアアアァァァァァ!?」
「食わないわよ」
馬鹿な事を言い出したザリチュの事を抓りつつ、私は鼠毒の竜呪の肉以外に、これからの作業に必要なアイテムを並べていく。
具体的に言えば……いつの間にか名称が『虹霓瞳の不老不死呪』の毒杯から『虹霓竜瞳の不老不死呪』の毒杯に名称だけ変わっていた毒杯から得た毒液。
長らく世話になっている『ダマーヴァンド』の斑豆(生)。
いつもの垂れ肉華シダの葉。
『出血の邪眼・2』によって得た私の血。
『ダマーヴァンド』各所で得た香草。
『塩砂湖畔の呪地』の岩塩と、揺らめく硫黄の火の残り火の殻も少量。
「あー、もしかして、いつぞややった品種改良でチュか?」
「ええそうよ」
これらを一つの容器にまとめて投入。
潰すと、よく混ぜ合わせていく。
だが、ただ混ぜるだけではない。
原始呪術も、『呪圏・薬壊れ毒と化す』も、『熱波の呪い』も、最大限に発揮しつつ混ぜ合わせていく。
「今更でチュが、垂れ肉華シダは『呪圏・薬壊れ毒と化す』に反応をしなくていいんでチュか? 一応、植物でチュよね?」
「本当に今更ね。そして今更だから、向こうも気にしてないんじゃないかしら。もう垂れ肉華シダが普通の植物でない事は明らかなんだし。私たちが他のプレイヤーに喋ろうとしなければ、非干渉を貫くと思うわよ」
「他のプレイヤーも既に垂れ肉華シダがおかしい事には気づいていると思うでチュけどねー」
するとどうなるか?
まあ、当たり前の話として、おかしなことになる。
混ぜ合わせている私の手に何かが齧り付くような感覚があるし、纏わりついてくるような感覚もある。
「はいはい、黙って混ぜられていなさいな。esipsed『魅了の邪眼・1』」
「これも物理的に黙らせる、になるんでチュかね?」
「さあ?」
意思があるなら『魅了の邪眼・1』によって魅了(畏怖)を付与すれば問題はない。
と言う訳で、今後も考えて魅了によって黙らせたところで、以前と同じように私の手の爪と同じかそれより少し大きいくらいの球体を作っていく。
で、無事に出来上がったところで呪怨台に乗せる。
「さあ、他者の腹を満たす事を望みとする呪いとなって復活しなさい。魔物と化しなさい。どんな時でも飢えと渇きによって食べることを望む蠱惑的な豆に。一つ食べれば燃え上がる火のような活力を得られる豆に。けれど人の身では決して口にする事を許されない禁忌の豆と化しなさい」
「あー……あー……無茶はするんじゃないでチュよー」
呪詛の霧が勢い良く集まっていく。
私はそれに干渉をし、呪詛の霧に含まれているあらゆる呪いを活性化させていく。
今の呪怨台には少なく見積もっても100を超える呪いが集まってきているが、特に割合が多く、勢力としても大きいのは私の『呪圏・薬壊れ毒と化す』に由来する呪いと……やはり『七つの大呪』か。
だが、『七つの大呪』にこの豆を渡す気はない。
この豆は……私のものである。
「ふっふっふ、ふふふふふ、あははははっ! さあ、さあ! さあ!! 私に従う呪いの一体として、今この場に姿を現わしなさい! 私の毒を呼び水として、限りなき呪いの世界からこちら側に出てきなさい! etoditna『毒の邪眼・3』!」
「たるうぃ!?」
『呪法・感染蔓』含め、各種呪法を乗せた『毒の邪眼・3』を呪詛の霧へと集まっていく。
すると呪詛の霧が深緑色に染まり、激しく脈動する。
そして脈動が止むと同時に呪詛の霧が晴れ、呪怨台の上には一つの深緑色の豆だけが残されていた。
≪呪術『魔物-活性』、『反魂-活性』を習得しました≫
≪称号『七つの大呪に並ぶもの』を獲得しました≫
「では、鑑定っと」
「いや、それどころじゃない気がするんでチュけど……」
「豆の方が重要よ」
「これがたるしかと言う奴でチュかぁ……」
深緑色の豆はよく見ると鱗のようなものが見えるし、虹色も僅かにだが帯びている。
ちゃんと竜呪と私の影響も受けているようだ。
加えて、早く目覚めたいと言わんばかりに、脈動をしている。
と言う訳で、セーフティーエリアの外に向かいつつ、『鑑定のルーペ』を向ける。
△△△△△
満腹の竜豆呪
レベル:35
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:21
『ダマーヴァンド』で、『虹霓竜瞳の不老不死呪』タルによって生み出された豆型のカース。
見た目は鱗模様を持ち、僅かに虹色を帯びた深緑色の豆。
味はとても良く、食べると満腹度がとても大きく回復すると共に、体内の竜の因子を少しだけ強める。
注意:食べると中確率で毒、灼熱、気絶、沈黙、出血、小人、巨人、干渉力低下、恐怖、乾燥、暗闇、魅了(畏怖)、石化、質量増大、重力増大の状態異常を受ける(状態異常に罹るかは個別に判定、付与されるスタック値は50-対象の異形度)。
注意:異形度19以下のものが食べると、1%の確率で即死、10%の確率でランダムな呪いを1つ得て恒常的に異形度が1上昇する。
注意:『ダマーヴァンド』または『ダマーヴァンド』と類似した、呪詛濃度20以上の環境でしか生育しません。
注意:『虹霓竜瞳の不老不死呪』タルの命令しか聞きません。
注意:呪詛濃度15以下の空間では直ぐに腐敗する。
▽▽▽▽▽
「ふむ。ここら辺でいいかしらね」
「なんだか、全体的に嫌な予感しかしないでチュが……」
私は満腹の竜豆呪をセーフティーエリア前にある噴水近くの地面に埋める。
すると満腹の竜豆呪は直ぐに周囲から呪詛を吸収、芽を出し、伸長し、3分ほどで私の背丈ほどにまで自立する形で成長。
虹色に輝く花を付け、開かせ……めしべ部分にある目と目が合った。
「ーーー……」
「うん、これからよろしくね。この噴水の周囲だったら、自由に繁殖してくれて構わないわ」
「ーーーーー!」
「あ、杞憂だったでチュか」
満腹の竜豆呪はお辞儀のような動きをすると、周囲に豆を撒いて、繁殖を始める。
そして、私に数粒の豆を手渡す。
さて折角だ。
最初の一体であるこの子には名前も付けておくとしよう。
「あなたの名前はハオマよ。本来は善なる神あるいは酒の名だけれど、貴方の立場なら悪くはないでしょう」
「ーーーーー……」
「喜んでいる……でチュよね?」
「たぶん」
満腹の竜豆呪改め『満腹の竜豆呪』ハオマは再度お辞儀をする。
ハオマは神聖な酒の名前だが、食料生産を任せるならば、善良な名前の方が都合がいい。
私はそう判断して、この名前を付けた。
「ま、色々と確認をしていきましょうか」
「でチュね。遂にあれが揃ったわけでチュし……」
私は満腹の竜豆呪を口に運ぶ。
うん、美味しい。
05/23 満腹の竜豆呪の効果修正