532:セパレートベーノドラゴン-6
「まずは毛皮を裂いてっと」
「鼠毒の竜呪の毛皮は生産用の道具をアップグレードしてもきつそうでチュねぇ」
では作業開始。
まずはズワムの毛皮を適当な大きさに切断した上で、切れ目を入れていく。
「まあ、毛皮と言っているけど、実質的にはドラゴンの鱗付きの皮を扱っているような物だもの。そりゃあ取り扱いは難しいわよ」
「そう言えば、毛は鱗が変化した物。という説もあったでチュか」
そうして入れた切れ目を通すように、細く裂いた鼠毒の竜呪の毛皮を通していく。
加えて垂れ肉華シダの繊維も同様に通していき、ズワムの毛皮、鼠毒の竜呪の毛皮、垂れ肉華シダの繊維が入り混じったような見た目にする。
また、口を閉じるための紐としていつもの繊維で作った紐を通しておく。
「ズワムの歯と鱗でいいかしらね」
「袋の形を維持できるようにする感じでチュか」
袋の各所に形を整えたズワムの鱗を取り付ける事で、形が崩れないようにする。
袋の口にズワムの歯の呪いすら砕ける力を持った部分を砕いたものを設置していく。
「でもこれ、何と言うか全長を短くしたズワムのようにも見えるでチュね」
「……。まあ、否定はしないわ。citpyts『出血の邪眼・2』」
私は袋の中に右手を突っ込むと、『出血の邪眼・2』を発動。
出血の効果を発揮させて、袋の所有者が誰であるかを示すように、袋全体へ血を擦り込んでいく。
あ、折角なので『呪圏・薬壊れ毒と化す』も垂れ肉華シダの繊維へと擦り込んでおこう。
「そう言えば劣竜血ってざりちゅには効果がないんでチュよね」
「そうね。発動するのは私以外の生物が私の血に触れるとだから、カースと言うだけで生物扱いされるならともかく、そうでないならザリチュと化身ゴーレムは対象外になる可能性が高いわ」
よし、こんな物だろうか。
良い感じに血と呪いが擦り込めた。
「後はどうやって回収能力を持たせるかだけど……そうね。こうしましょうか。『熱波の呪い』」
私はネツミテを錫杖形態にすると、『熱波の呪い』を発動。
で、ネツミテから攻撃判定を有するようになった呪詛を出すのだが、その形は先端は返しの付いたアンカーに似た形状で、それに紐を付けて、見た目からしてそれっぽい物にする。
そうして出来上がった呪詛の塊を作成中の袋の底から口の外へと通す。
なお、攻撃判定を有すると言っても、非実体の攻撃であるため、袋に穴が開くようなことはない。
「この状態で呪怨台に乗せてっと」
「大丈夫なんでチュかねぇ……」
「大丈夫よ、ほら」
私は『熱波の呪い』を発動したまま、呪怨台に袋に乗せる。
呪詛の霧は無事に集まって来たので、大丈夫そうだ。
で、無事にアイテムは出来上がったようだ。
では、肝心の性能は?
△△△△△
鼠毒の竜呪の埋葬袋
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
各種カースの素材を用いて作られた袋。
専用の呪術を用いる事で、死体に直接触れることなく収納できる。
どれほど危険な物でも中に入れてしまえば、取り出さない限りは安全。
どれほど重い物でも中に入れてしまえば、重量はなくなる。
どれほど大きな物でも、一部が中に入れば、容量が許す限りは入れられる。
その容量は小さな家ならば、丸ごと入れる事も不可能ではないほど。
注意:『虹霓竜瞳の不老不死呪』タル以外に使用できません。
注意:入れた者が忘れた物質は取り出せません。
注意:呪詛を吸収し、復活する可能性を持った死体にしか使えません。
注意:『陽憑きの錫杖呪』ネツミテとリンクしています。
注意:レベル不足のため、収納の成功確率が低下しています。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『陽憑きの錫杖呪』ネツミテ
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:20
様々な素材を組み合わせて作られた、着用者の意思に応じて様々な姿を見せる杖にして指輪。
この世ならざる者に通じる気配を漂わせており、正当な所有者以外が着用すれば、恐ろしい呪いに襲われる事だろう。
与ダメージ時:毒(周囲の呪詛濃度×2+10)、干渉力低下(周囲の呪詛濃度-3)、灼熱(周囲の呪詛濃度×3)、乾燥(周囲の呪詛濃度) ※これらの効果は錫杖形態でのみ効果を発揮する。
周囲の呪詛濃度と気温に応じて強度が上昇する。
装備者による火炎属性攻撃の威力が12%ほど上昇する。
装備者による呪詛属性攻撃の威力が12%ほど上昇する。
装備者の周囲15メートル以内に存在する呪詛の支配を助ける。
周囲の呪詛、エネルギーの一部を吸収する事で耐久度が回復する。
耐久度が0になっても、一定時間経過後に復活する。
装備者の意思に応じて、指輪形態と錫杖形態、どちらかの形態に変形させる事が可能。
自己意思こそないが、呪いの塊であるその身は幾つかの呪術を習得しており、装備者がトリガーを引くことで使用が可能。
『太陽の呪い』『熱波の呪い』『埋葬の鎖』
注意:この装備をタル以外が装備した場合、1分ごとに着用者の最大HPと同値の恐怖が付与される。
注意:装備者は一定時間ごとに火炎属性ダメージ(微小)、灼熱(周囲の呪詛濃度)の状態異常を受ける。
注意:装備者の異形度が19以下の場合、1分ごとに火炎属性ダメージ(大)を受ける。
注意:装備者のレベルが29以下の場合、1分ごとに重力増大(周囲の呪詛濃度)を受ける。
注意:この装備の周囲の呪詛濃度が10以下の場合、着用者の受けるダメージが増える(極大)。
注意:この装備を低異形度のものが見ると嫌悪感を抱く(極大)。
▽▽▽▽▽
「ふむ?」
「ネツミテに呪術が追加されたみたいでチュね」
ザリチュの言う通り、どうやらネツミテに専用呪術が追加されたようだ。
『埋葬の鎖』……墓荒らし、grave robの逆読みだろうか?
まあ、今はまず性能の確認だ。
△△△△△
『埋葬の鎖』
レベル:40
干渉力:150
CT:0.1s-10s
トリガー:[詠唱キー]
効果:条件を満たしたアイテムを鼠毒の竜呪の埋葬袋に収納する。
沈め、太陽の底、炎の海底、重きの中心へと。
強き引力によって引きずり込め。
注意:使用するためには『熱波の呪い』を発動している必要がある。
注意:収納できるアイテムは、呪詛を吸収し、復活する可能性を持った死体のみ。
注意:収納するためには、『熱波の呪い』によって作られた錨を対象に、錨に繋がる紐を鼠毒の竜呪の埋葬袋にまで繋げている必要がある。
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「んー……ああ、なるほど。こういう感じね」
「この錨の先端を対象に突き刺しておくわけでチュか」
確認完了。
私は説明通りにネツミテから紐付きのアンカー……錨を出現させ、紐の方を袋に繋げる。
この状態で錨を対象に突き刺して詠唱すれば、対象を袋の中へ収納できるらしい。
錨も紐も呪詛で出来ているので、動かすのは私の意思通り。
これならば乱戦の最中でも隙を見て復活しそうになったカースを収納、復活阻止をする事は可能だろう。
自動回収にはならなかったが、これで何とかはなるはずだ。
「収納失敗ってどれくらいの可能性で起きると思う?」
「ここ一番で失敗する予感はするでチュね」
問題は私のレベル不足の為に収納の成功確率が低下している事か。
ザリチュの言う通り、この手のはここ一番で失敗するのが相場だし、そうなるのが怖い物でもある。
とは言え……こればかりは試してみる他ないし、確率である以上は失敗した時に備えて対策を考えておくぐらいしか、対処法がないか。
「試しに行くでチュか?」
「いいえ、その前に残りの素材を使いましょう。と言う訳で……」
では、次に移るとしよう。
私はザリチュのつばを掴む。
「ザリチュ。鼠毒の竜呪の毛皮、尾、翼、眼球を使って貴方を強化しようと思っているんだけど、他に何か強化に使いたいものはあるかしら?」
「そう来るんでチュかぁ……だったら『塩砂湖畔の呪地』の素材とデンプレロの素材が欲しいでチュねぇ」
「よろしい。それなら今から狩りに行きましょう」
この日の残りはザリチュの求める素材を集める事に終始する事になった。




