528:セパレートベーノドラゴン-3
「モグモグ……さて、『劣竜式呪詛構造体』の効果を確かめないといけないわね。それと変化した称号の詳細も調べておかないと」
『そうでチュねー』
私は斑豆を大量に食べて満腹度を回復。
それからHPが安全圏にまで回復した事を確かめてから、自分自身の鑑定と称号の確認をした。
△△△△△
『虹霓竜瞳の不老不死呪』
効果:他プレイヤーに対して表示される称号は、強制的にこの称号となる。
条件:プレイヤーである事を保ったまま、異形度20以上になる。呪い『劣竜式呪詛構造体』を得る。
不老不死のカースの一体。それは敵対する者にとってはおおよそ絶望しかない存在である。一時的に退ける事は可能であっても、恒久的な勝利を得る事は世界に挑むに等しい程の難事となるだろう。
最大の特徴は虹色に輝く瞳と、そこから放たれる禍々しき輝きの竜のそれに似た見た目の邪眼。
主虹と副虹、二つの輝きを秘めた邪眼は、一つの守りで満足する者をあざ笑う。
竜の呪いすら飲み干す人間の精神は人間と呼べるのだろうか?
▽▽▽▽▽
『称号、弱体化しているでチュね』
「称号についてはそうね。でもこれ、仮称裁定の偽神呪が特殊裁定で付与してくれていた効果が『劣竜式呪詛構造体』に含まれているから、正式版にアップデートされるのに伴って、こちらからは消えた、という感じね」
『ああなるほど。今の状態が本来あるべき姿なんでチュね』
ステータスはまあ、とりあえず置いておく。
称号については……感覚的に以前よりも強い守りがある感じなので、大丈夫だろう。
人間かを疑問に思われている件については、私は人間ではなくカースなので今更だろう。
「じゃ、肝心の『劣竜式呪詛構造体』ね」
『と言うか、効果詳細分かるんでチュか?』
「呪詛支配力が上がったのか、それとも『劣竜式呪詛構造体』を得たからなのかは分からないけど、おおよその効果は把握できているわね」
では、『劣竜式呪詛構造体』について。
まず、この呪いは五つの呪い……劣竜血、劣竜骨髄、劣竜肉、劣竜瞳、劣竜皮を一つに統合したものである。
その効果を大まかに言えば、血、骨髄、肉、瞳、皮膚の五つの部位を竜呪のそれを劣化させたもの、あるいは劣化竜呪のそれに変化させる事となる。
「一番分かり易いのは劣竜肉ね。最大HPが三倍になっているのはこれの効果ね」
『トンデモでチュねぇ』
「デスペナが生じるようになったみたいだけどね」
『ちゃんとデメリットもあるわけでチュか』
では五つの呪いを一つずつ確認。
まずは劣竜肉。
これは最大HPを三倍にするが、死亡時にデスペナとして、最大HP低下が最大HPの30%、干渉力低下が最大値の30%、死亡原因に関係なく付与されるようになるようだ。
「劣竜骨髄も分かり易いわね。自然回復の加速だから。代わりに腹が減るけど」
『たるうぃが腹を減らしているのは割といつもの事でチュアアアァァァッ!?』
次に劣竜骨髄。
自然回復速度の向上で、『ダマーヴァンド』の効果と休息状態にある事だけでは説明が付かないほど早くHPが回復するようになっている。
代わりに満腹度の減少スピードも加速するので、食事量もそれだけ増える。
後、いつもの事と言えど、言っていい事と悪い事があるので、ザリチュは抓っておく。
「劣竜皮、これが『虹霓瞳の不老不死呪』の称号にあった効果の正式版ね」
『チュアァッ……つまり、格下殺しでチュか』
「そうなるわね」
劣竜皮。
簡単に言えばザリチュの言う通り格下殺し。
正確に言えば、相手のレベル、異形度、攻撃の位階に応じたダメージ軽減と削減であり、相手と使った攻撃次第では無効化まであり得るようだ。
まあ、同格、格上相手だと誤差の範疇になってしまう訳だが。
なお、デメリットとして逆鱗とでも呼ぶべき部位が生じており、私の場合では鎖骨の間にある目だけを貫くように攻撃を受けると、被ダメージが大幅に増加するらしい。
「分かりづらいのはこの辺からね。劣竜瞳は……オートアタックみたいな感じかしら?」
『それだけでも凶悪だと察する事が出来るでチュね……』
「実際の使い勝手はそんなに良くなさそうよ? オンオフできないし」
劣竜瞳。
三分間、目視し続けた生物に目一つ分の邪眼術をランダム、ノーコスト、ノーCTで放つ。
なお、『禁忌・虹色の狂眼』は選ばれないし、伏呪が含まれることもない、さらに言えば呪法を乗せる事も不可能なようだ。
加えて、13の目を一体の生物に向けていても、発動する邪眼術は目一つ分だけ。
状況に応じてオンオフする事も出来ない様だし、ゴーレムやゾンビには発動せず、敵味方の識別を出来ないと考えると、使い勝手は割と微妙かもしれない。
「で、劣竜血はオートカウンターね」
『そっちも凶悪でチュねぇ』
劣竜血。
私の血に私以外の生物が触れると、触れた血の量に応じて、目一つから五つ分の邪眼術と同じ効果がランダム、ノーコスト、ノーCTで発動するようだ。
私の血に触れる事が発動条件であるため、近接戦闘でしか効果は発動しないし、劣竜瞳と同じく敵味方の識別は出来ない。
『……。下手な前衛よりもよほど堅くなっていないでチュか?』
「否定は出来ないわね」
以上、五つの呪いを統合したのが『劣竜式呪詛構造体』であり、総合評価としては……ザリチュの言う通り、下手な前衛よりも堅いし、面倒くさい相手だろう。
なにせHPは約4,000、強力なダメージ削減とオートカウンター、リジェネを併せ持ち、視界に収まっているだけで攻撃されるのだから。
自分で言うのもなんだが、一体どこのボスだろうか?
うん、『ダマーヴァンド』のボスだったわ。
「ああそれと、こういう事も出来るようになったわね」
私は自分の掌に呪詛を集める。
見た目としてはそれだけだが、実態は違う。
『……。なんでチュか、それ?』
「『呪圏・薬壊れ毒と化す』の効果範囲を私の表皮から数センチにまで狭めるとこうなるみたいね」
『そうなんでチュかぁ……』
これは『呪圏・薬壊れ毒と化す』の塊だ。
これまではどう頑張っても数メートルは射程範囲があった『呪圏・薬壊れ毒と化す』の範囲操作の制限が緩くなり、こうして手元に集める事が出来るようになったようだ。
『で、それで植物を殴るとどうなるんでチュか?』
「そうねぇ……ていっ」
私は目についた『ダマーヴァンド』の植物……小さな白い花が付いた草を軽くビンタしてみる。
変化は劇的だった。
「ーーーーー!」
「モンスター化……いえ、カース化したわね」
『どれだけ濃い呪いなんでチュか……』
「とりあえず危ないから処分よ。『灼熱の邪眼・2』」
「ーーーーー!?」
私がビンタしただけで白い花は紫色の花になり、花びらの内側には牙が生え揃い、めしべの部分には目が生じた。
そして周囲に毒の花粉を撒き散らし始めた。
纏っている呪詛の霧の濃さからしても、完全にカースになっている。
うん、危険だし、私的には美味しい相手でもないので、即座に根から引き抜いて、焼いて、処分した。
復活する様子もなし。
これなら大丈夫だろう。
「さて、鼠毒の竜呪の残りの素材が大丈夫なのを確認したら、ログアウトしましょうか。ちょっと疲れたわ」
『分かったでチュ』
その後、問題がない事を確かめた私はログアウトした。