522:レインボウミラーパレス-2
「何か見えてきたわね」
「でチュね」
移動すること暫く。
呪詛濃度が26になった辺りで、私たちの前に大きな深緑色の円が填め込まれた壁が現れる。
「これが鏡の扉でいいのかしら?」
「ザリチュたちの姿を反射して映しているし、鏡の扉でいいと思うでチュよ」
近づくと分かったこととして、深緑色の円の表面は鏡のようになっており、私と化身ゴーレムの姿を映している。
深緑色の円が填め込まれた壁はこれまでと同じ材質で、華美な装飾が施されたもので、私が今居る場所から左右に向かって道は続いている。
微妙に弧を描いている点からして、恐らくだが最初の場所を中心として、大きな円を描くようにして、この場を一周出来るのではないだろうか?
「入ってみるでチュか?」
「んー……」
深緑色の円に触れてみる。
すると深緑色の円に波紋が広がり、抵抗なく向こう側に行けそうな感じだった。
「先に回廊を巡ってみましょうか」
「分かったでチュ」
私は深緑色の円から手を離すと、右手側へと移動を始めることにした。
念のためにだが、先にこの場で集められるだけの情報を集めておいた方がいいと判断したのだ。
「見えてきたわね」
「うっすら紅色でチュかね?」
「そうね。薄いけど紅色だと思うわ」
そんなわけで移動すること暫く。
次の鏡の扉が見えてくる。
ただ、先ほどの深緑色の円と違い、薄く紅色が付いている。
一応触れてみたが、反応はなく、通り抜けることは出来ないようだった。
なので私たちは移動を続けることにする。
「黄色……いや、レモン色でチュか?」
「その次が橙色、蘇芳色、白、黒……何と言うか分かり易いわね」
その後も薄く色が付いた鏡の扉が続く。
ただ、黒い鏡の扉はこれまでの鏡の扉よりもさらに色が薄く、よく見てみなければ色が分からない程だった。
「そして紫色の鏡の扉は入れる、と」
「まあ、これまでの色からしてそうでチュよね。としか言いようがないでチュ」
で、最初の深緑色の鏡の扉と同じように、中に入れそうな紫色の鏡の扉が現れた。
うん、ここまであからさまならば、私なら分かる。
「つまり、この呪限無……『虹霓鏡宮の呪界』は私の邪眼術の習得状況の影響を受け、第三の位階に踏み込んだ邪眼術に対応する鏡の扉のみ開くことが出来る、そういう事ね」
「そうなるでチュね」
鏡の扉の色は私の邪眼術の色。
鏡の扉の順番は私の邪眼術の習得順。
そうなると……扉の先も影響を受けている可能性が高そうか。
「何処から挑むでチュか?」
「一応、『毒の邪眼・3』に対応している場所から挑みましょう。後、この先の『飢渇の邪眼・2』の扉がちょっと気になる」
「そう言えば『飢渇の邪眼・2』の色は無色透明だったでチュねぇ」
移動再開。
件の『飢渇の邪眼・2』に対応する鏡の扉は、向こう側が僅かに透けて見える鏡だった。
ただ、肝心の鏡の扉の向こう側は虹色のマーブル模様で満たされており、一切の情報が得られないようになっていたが。
どうやら、鏡の扉の先はくぐるまで分からないらしい。
「紺、桃、黄緑、灰……ちゃんと13個あるのね」
「みたいでチュね」
移動を続ける私は、どうせなので『虹霓鏡宮の呪界』に存在している金、銀、プラチナ、宝石によって彩られた建物、ブドウに似た酒精の香りのする果実、香辛料の臭いがする葉、不穏な気配がある土、血のような臭いのする水などの鑑定もしてみた。
が、いずれも鑑定不能と表示されてしまった。
仮称、裁定の偽神呪の実力的にこの空間へ影響を及ぼせないと言うのはあり得ないので、『鑑定のルーペ』の強化が多分足りないのだろう。
なお、香辛料の臭いがする葉や、ブドウに似た果実に手を出したりはしない。
第一印象が安全な程度で、手を出せるほどの蛮勇を私は持ち合わせていないのだ。
「さて、戻って来たわね」
「でチュね」
と言う訳で私たちは無事に深緑色の鏡の扉の前に戻ってきた。
「入った直後に攻撃を受ける前提で準備しましょうか」
「分かったでチュ」
私はまず眼球ゴーレムを深緑色の鏡の扉の向こう側に送ってみようとした。
が、手に持っている状態では鏡の扉の中に入れられたが、手から離した途端に弾丸のようなスピードで鏡の扉の外に吹き飛ばされ、砕け散ってしまった。
また、私が眼球ゴーレムを手に持って入れたと言う事は、私の目の一つが鏡の扉の中を探ったことになるのだが、こちらも手を突っ込んだだけでは虹色のマーブル模様しか見えなかった。
どうやら、私の全身を扉の中に入れて、きちんと向こう側に通り抜けない限りは、どうあっても扉の先の情報を渡す気はないらしい。
「『死退灰帰』を服用してっと」
「ザリチュが先に入る……は、許されないでチュか。面倒でチュねぇ」
では、気合を入れて行くとしよう。
私は『死退灰帰』を服用して、即死する可能性を下げると、邪眼術のチャージも開始。
撃ち込む相手を見つけ次第撃てるようにする。
これは過剰な準備ではない。
何せ、参の位階を習得した邪眼術に対応する鏡の扉しか開かないと言う事は、『毒の邪眼・3』習得時に戦った鼠ドラゴンを倒した前提の難易度になっている可能性が高いからだ。
そうでなくとも此処は呪限無の中層であり、上層よりも危険なのは確実。
油断など出来るはずもない。
「では突入!」
準備が整った私は勢いよく深緑色の鏡の扉に突っ込み、そのまま向こう側に抜けた。
そうして見えたのは……
「此処は……」
まるで熱帯のジャングルのように様々な植物が生い茂る空間。
「ゴブッ!?」
「たるうぃ!?」
それと、いつの間にか受けていた毒(42)の表示だった。