519:タルウィハング・2-2
「……」
「珍しいわね、ニセムラード。そんな誰の目にも分かるように悩ましい顔をしているだなんて」
ニセムラードが悩ましい顔をしているのを認識しつつ、私は自分の状態を確かめる。
目は13個あるし、呪詛支配も出来る、ネツミテの形態を変える事も自由。
これまでの第二の位階の邪眼修得とはだいぶ趣が異なるようだ。
そして、趣が異なるからこそ、ニセムラードも困惑している……訳ではないらしい。
意を決したような感じで口を開く。
「今回の課題はジグゾーパズルでチュ」
「ジグゾーパズル?」
「ただ、正直な意見を言わせてもらうなら、今回の課題を考えた奴は正気じゃないでチュね」
「随分な意見ね。と言うか、ニセムラード、貴方がそれを言うの?」
口ではそう言いつつ、私は警戒を強めた。
ニセムラードは私を嫌っている。
それはこれまでの課題でよく分かっている。
そんなニセムラードをもってして、正気でないと困惑顔で言わせるジグゾーパズル。
嫌な予感しかしない。
「と言う訳で説明でチュ。まず、ピース数は1,000ピースでチュ」
ニセムラードの背後に机が現れ、ジグゾーパズルのピースが机の上に降り始める。
そのパズルのピースを見て……私は自分の頬が引きつるのを感じずにはいられなかった。
なにせだ。
「絵柄はなし。表が白、裏が黒で、表裏の判別はつくでチュが、それ以外のヒントは他のピースとくっつける事が出来るかどうかだけでチュ」
ニセムラードの言う通り、絵柄がないのだから。
「制限時間は一時間。出来る限り完成度を上げる事が課題であり、完成は必須ではないでチュ」
これは拙い。
本格的に拙い。
と言うか、一時間って……普通の絵柄のある1,000ピースのジグゾーパズルであっても、完成するとは思えない時間である。
単純計算で、平均3.6秒につき1枚のピースを正しい場所に置かなければいけないのだから。
「では開始でチュ」
「っ!?」
完全に無理ゲーだ。
「もう始まってるでチュからねー」
「……」
いや待て、幾らなんでも完成できる可能性が絶対に存在しない課題が出されるだろうか?
完成できるとして、それが運頼みのものになるだろうか?
そして、わざわざ異形度が高い状態で、装備も整った状態で課題が開始になる必要があったのだろうか?
「そういう事……『熱波の呪い』!」
私は『熱波の呪い』を発動すると、生じた攻撃判定によって、呪詛が中に染み込まない性質を持つジグゾーパズルのピースを浮かす。
そこから浮いたピースを13の目で認識すると、まずは裏表を揃える。
その上で……
「パズルの皮を被った呪詛支配の精密さと感度を測り取る課題じゃないの! これ!?」
呪詛がピースの中に染み込まない性質を生かして、それぞれのピースの形を把握し、四辺の形が一致する組み合わせを把握。
素早くピースを設置していく。
「後は……時間が……足りるか……!?」
こうなれば後はコントロールとスピードの勝負。
1,000ピースと言う事は、ほぼ間違いなく40ピース×25ピースの構成なので、それを意識してとにかく目、両手、呪詛を制御できる範疇ギリギリのコントロールとスピードで動かし続ける。
悪質な事に、あるいは絵柄がない事をいい事に、一辺は成立しても、他の辺が成立しない組み合わせがあったりするが、あると分かっていれば、他の辺も合わせて成立するように動かすのみ。
とにかく今の私に出来るのは、出来る限り素早くピースを組み合わせて行く事だけである。
「しゅーりょーでチュよー」
「はぁはぁ……」
「完成率86.2%。課題を考えた奴もおかしいなら、この結果を出す奴もおかしいでチュね……」
「くっ、流石に……間に合わなかったわね……」
一時間後、8割ちょっと完成したところで、課題は終了となった。
≪呪術『飢渇の邪眼・2』を習得しました≫
「ま、今回の課題は完成が条件じゃないでチュから、安心するでチュよ」
「そうね……」
呪術習得のアナウンスが流れると共に、私の意識は戻っていく。
「悔しいわ……」
「ん? 習得失敗でチュか?」
そうして、元の空間に戻ったところで、私は思わずため息を吐くと共に、悔しいと発してしまった。
「習得は出来たわよ。ただ課題の内容がね……」
とりあえずザリチュに今回の課題内容について話をしつつ、私は習得した『飢渇の邪眼・2』の性能を確認する事にする。
△△△△△
『飢渇の邪眼・2』
レベル:30
干渉力:120
CT:10s-20s
トリガー:[詠唱キー][動作キー]
効果:対象の満腹度を1減少させ、周囲の呪詛濃度×1-5の乾燥を与える。
伏呪
トリガー:[詠唱キー]
効果:この呪術の効果によって生じた乾燥を受けた相手は、被ダメージに応じて火炎属性の追加ダメージと灼熱の状態異常を受ける。
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りの内へ直接飢えと渇きを生じさせるのだから。
そして、渇いた体は痛みによって強く炙られていく。
注意:使用する度にHPと満腹度が1減少し、周囲の呪詛濃度×1の乾燥を受ける。
注意:伏呪使用時には更にHPと満腹度が3減少する。
▽▽▽▽▽
「それはトンデモな課題でチュね……」
「でしょ。ふむ。なかなかいい感じね」
基本性能に関しては純強化されたのみ。
目玉はやはり伏呪か。
詠唱キーは『飢渇の邪眼・2』。
相手が火炎属性に弱いシベイフミクなどなら、多大な効果を見込めそうだ。
代わりに伏呪使用時の消費増大が、他の伏呪の比ではないが。
「とりあえず今日のところはこれで終わりにしましょうか」
「分かったでチュ」
まあ、やるべき事はやった。
と言う訳で、私はログアウトした。
明日からは変化があったらしい例の縦穴の調査である。
△△△△△
『虹霓瞳の不老不死呪』・タル レベル33
HP:920/1,320 (-396)
満腹度:62/150 (-45)
干渉力:132
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の王』、『灼熱の達人』、『沈黙の名手』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖の名手』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『魅了使い』、『重力使い(増)』、『石化使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『3rdナイトメアメダル-赤』、『七つの大呪を利する者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『竜狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『偽神呪との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹霓瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』、『いずれも選ばなかったもの』、『呪海渡りの呪人』、『泡沫の世界の探索者』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・3』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・2』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・2』、『小人の邪眼・2』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・2』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『重石の邪眼・2』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・原始呪術:
『不老不死-活性』、『不老不死-抑制』、『風化-活性』、『転写-活性』、『蠱毒-活性』、『再誕-活性』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』、『化身』、『禁忌・虹色の狂創』
呪術-ネツミテ:
『太陽の呪い』、『熱波の呪い』
呪術-ドロシヒ:
『虚像の呪い』、『貯蓄の呪い』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』、『呪法・呪宣言』、『呪法・極彩円』、『呪法・呪晶装填』、『呪法・逆残心』
所持アイテム:
『路竜の包帯服』ジタツニ、『渇鼠の騎帽呪』ザリチュ、『陽憑きの錫杖呪』ネツミテ、『星憑きの玉輪呪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール、呪詛貯蓄ツール×5設置
システム強化
呪怨台参式・呪詛の枝、BGM再生機能、回復の水-2、結界扉-2、セーフティ-2、長期保管用カプセル
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