518:タルウィハング・2-1
「さて、今日は『飢渇の邪眼・1』の強化ね」
「『塩砂湖畔の呪地』の素材を中心にする感じでチュかね」
「そうなるわね」
火曜日。
今日からはいつもの作業に『貯蓄の呪い』によるHPのチャージも加わったが、各種作業の合間にやっていけば問題はないので、かかる時間は変わっていない。
「流石に卵はサクリベスで回収したけれどね」
「そう言えばサクリベス地下で交渉していたでチュねぇ……」
では、本日の本題、『飢渇の邪眼・1』の強化である。
まず材料として、サクリベス地下に居たプレイヤーに『塩砂湖畔の呪地』の粉塩と引き換えに買ってきてもらった普通の鶏の卵。
次に『ダマーヴァンド』の飢渇芋、赤豆、垂れ肉華シダの膨葉、揺らめく硫黄の火の残り火。
そして乾燥関係の素材として重要になるのが、『塩砂湖畔の呪地』の岩塩、奪塩奪水の水、奪塩奪水の水呪の結晶である。
「じゃ、まずはザリチュ。削って」
「分かったでチュよ」
最初にザリチュ操る腕ゴーレムによって、岩塩を削って粉にし、そこへ卵白と奪塩奪水の水を投入してよく混ぜる。
混ざったそれを耐熱性の皿へ塗り付けていくが、皿の中心に当たる部分に奪塩奪水の水呪の結晶を射し込んでおく。
「載せていくわよー」
「でチュねー」
続けて結晶を囲うように飢渇芋5個、赤豆複数を置き、その上から揺らめく硫黄の火の残り火を乗せ、膨葉を全体に散らす。
「壁を作ってと」
「まるで工作でチュね」
皿の上から塩を乗せていき、芋などが完全に隠れた上で、ドームのような形状にする。
「『熱波の呪い』。ezeerf『灼熱の邪眼・2』」
「大火力でチュねぇ」
そこまで出来たところで、『熱波の呪い』、『灼熱の邪眼・2』、内部で割れた揺らめく硫黄の火の残り火の炎によって加熱。
さらにはオーブンにも投入して、じっくりと焼く。
「さて、割ってから呪怨台に乗せるか。割る前に呪怨台に乗せるか。地味に難題だと思わないかしら?」
「あー、影響はありそうでチュよね……」
と言う訳で、今回は塩釜焼である。
調理は上手くいったので、とても塩辛く、食べるだけで極度の乾燥と熱さに襲われるような蒸かし芋が出来ている事だろう。
が、本題はそこではなく、『飢渇の邪眼・1』の強化が主目的である事は忘れてはいけない。
「んー……割ってからにしましょうか」
「でチュか」
私はある程度冷えて、持てるようになった塩釜を錫杖形態のネツミテで粉砕。
中の芋がしっかりと蒸かされていると共に、大量の飴と呪いを帯びているのを確認してから、呪いが散らないように維持しつつ、呪怨台に乗せる。
「私は第一の位階より、第二の位階に踏み入る事を求めている」
いつも通りに呪詛の霧が集まってくる。
「私は、私がこれまでに積み重ねてきた結果生まれてきたもの、乾燥を扱う生ける呪いの力、渇いた身を炙る炎、それらを知り、統べる事で歩を進めたいと願っている」
『七つの大呪』に対しても何時ものように干渉する。
『熱波の呪い』は維持しているので、熱を帯びた形で干渉しているのだが、それは想定の範囲内である。
「私の乾燥をもたらす無色の眼に変質の時よ来たれ。望む力を得るために私は渇きの塊を食らう。我が身を以って与える砂漠を知り、喰らい、己の力とする」
『飢渇の邪眼・1』の強化であるため、呪詛の霧が描いた幾何学模様は見えなくなっていく。
「どうか私に機会を。痛みを増すだけでなく、その治癒を難解なものとする砂漠を。知られることなく与えられて、命を蝕む渇きの力を。輝き見えぬ飢渇の邪眼を手にする機会を。ytilitref『飢渇の邪眼・1』」
霧が飢渇芋に飲み込まれていく。
砕かれて粉状になった塩も飲み込まれていく。
他のアイテムたちが秘めていた呪詛も飲み込まれていく。
その中には、『熱波の呪い』の影響を受けて、攻撃能力と熱を帯びた呪詛も含まれている。
「出来上がりね」
そうして出来上がったのは、見るからに辛そうな、真っ赤に染まった飢渇芋だった。
「では鑑定っと」
「さて、どうなったでチュかねぇ」
それでは食べる前にいつもの鑑定である。
△△△△△
呪術『飢渇の邪眼・2』の塩釜焼き芋
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:18
飢渇芋を中心に塩釜焼きによって加熱調理された料理。
覚悟が出来たならば、赤豆、普通の芋、赤い芋の順に食すといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、試されるのは覚悟だけではなく、君自身の器もである。
さあ、標なき地平へと挑むがいい。
▽▽▽▽▽
「ふうん……」
「珍しく食べる順番まで指定されているでチュねぇ」
物は問題なく出来ている。
では、食べるとしよう。
と言う訳で、料理を呪怨台からテーブルに移し、フォークとスプーンを使って、指示されたとおりに食べる。
「んんんー、中々美味しいわねぇ」
赤豆は相変わらずの辛さで、そこに塩辛さと独特の香味が加わっている。
この豆一つだけでも、ご飯一杯はいけるだろう。
「こっちも中々ね」
見た目が変わっていない飢渇芋は、いい感じの塩気と蒸かされ具合を持っているが、それに揺らめく硫黄の火の残り火の飴が絡む事で程よい甘さと塩気がある。
飢渇芋自身の効果もあるが、実に食事が進む。
「では最後に……ーーーーーー!?」
最後に真っ赤に染まった芋を食べる。
辛い! とにかく辛い! そして渇く! だがそれ以上に美味い!? 塩、甘、辛の組み合わせが絶妙であり、顔から火が出そうになる!? 全身から汗が噴き出す!? けれど美味いと言う感情が湧き出て止まらない!?
これはいったい……
「はっ!?」
「来たようでチュね」
そうして気が付けば私はいつもの精神世界へと移動していた。
異形度21の体かつザリチュ以外の装備を身に着けたままで。
05/06誤字訂正




