516:スターリング-1
「さて、必要なアイテムは手に入ったわね」
「予定してなかった物も手に入ったでチュけどね」
『CNP』にログインした私はいつもの作業を終えると、ドロシヒの強化をしようとした。
が、幾つか素材が足りないと感じたため、デンプレロとズワムを一回ずつ仕留めた。
その結果としてデンプレロからこんなアイテムが手に入った。
△△△△△
『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツの心臓
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:21
『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツの心臓。
人間の体とほぼ同じ大きさの心臓は、まるで脳のように自分が万全であったころの記憶を持っている。
そう、まだ死んでいないのだ。
心臓は周囲の呪詛を吸い集める事で、復活を目論んでいる。
▽▽▽▽▽
「で、使えるんでチュか?」
「折角だから有効活用させてもらうわ」
デンプレロの心臓は実体化させると共に周囲の呪詛を吸おうとしたが、今の私の呪詛支配力ならば、ドロシヒなしでも抑え込むことは容易である。
カプセルを使うまでもない。
まあ、短時間限定だが。
「じゃあ、早速始めましょうか」
「分かったでチュ」
私は『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、それに喉枯れの縛蔓呪のチョーカーを外す。
すると周囲の呪詛支配が僅かではあるが緩む。
それでも私の予想通り、デンプレロの心臓の復活は抑えられる。
「まずは基本素材を全部溶かしてっと」
では作業開始。
部屋の環境を弄った上で、私はドロシヒ、デンプレロの甲殻、ズワムの鱗を一つの容器に投入して、炉と『灼熱の邪眼・2』で加熱して溶かす。
「今までご苦労様。上手く生まれ変わる事を願うわ」
そうして十分に溶けて混ざり合ったところで、容器の中に喉枯れの縛蔓呪のチョーカーを投入。
その際に『再誕-活性』、『転写-活性』、『蠱毒-活性』を用いて、溶けた金属の塊へとあっと言う間に燃え尽きてしまうはずのチョーカーの性質を継がせる。
また、ドロシヒの中にあるはずの四つの宝石に対しても『再誕-活性』を用いて、こちらは金属の中に溶けないようにしておく。
「アンタは能力的に美味しい事になると、嬉しいわね。……。『熱波の呪い』」
さらにはデンプレロの心臓を投入。
少々暴れ回る感じがあったが、『熱波の呪い』で無理やり抑え込んで、黙らせる。
それから私の血を『出血の邪眼・2』を使って注ぎ込んでおく。
「型に注ぐわよー」
「五つの輪にするんでチュか」
「ええ、そうよ」
必要な素材は無事に溶けて混ざり合った。
と言う訳で、飢渇の毒砂によって作った型へと溶けた金属を五つに分けて注ぎ込む。
多少の余りは出たが、これは他の用途で使うので問題なし。
なお、このタイミングで四つの宝石は回収した。
「じゃ、自然冷却が完了するまで、先々必要な物を作るわよ」
「急速冷却をすると、割れかねないでチュからねぇ」
この間に垂れ肉華シダの蔓、熱拍の幼樹呪の樹皮、喉枯れの縛蔓呪の蔓、これらの繊維から紙を作成し、ズワムとデンプレロの肉を焼いて作った灰と『ダマーヴァンド』の毒液を合わせて作った絵具モドキでその紙に『呪法・方違詠唱』の法則に基づいた文字を幾らか崩した感じで書いていく。
内容としては……まあ、デコイの類だ。
これが計13枚。
五つの輪を作る際に余った金属で小さな金具を作り、札に紐を通すための場所にする。
「冷えたわね。じゃあ、宝石を填め込んでいきましょうか」
「この目玉琥珀とかちょっと懐かしいでチュねぇ……」
そうして作業を終えると、金属の輪は無事に冷えて固まった。
なので、輪を加工、ズワムの歯を基にした留め具を使って、ドロシヒに含まれていた4つの宝石、入子の炎呪のコランダム5個、奪塩奪水の水呪の結晶4つを填める。
で、無事に填まったところで、熱拍の幼樹呪の赤樹脂を使って全体をコーティングし、完全に固定する。
なお、宝石の配分としては、4つの輪には3種類の宝石を付け、1つの輪には入子の炎呪のコランダムだけを付けている。
宝石が一つだけの輪を首に付ける予定だ。
「札と同じ配合の紐に札を下げて、輪を繋げて……」
「札が一枚余るでチュよ」
「それは首の奴から直接下げるわ」
「でチュか」
5つの輪を紐で繋げていく。
首に付ける宝石1つの輪から4本の紐が伸び、その先に3つの宝石が付いた輪があり、4本の紐にはそれぞれ3枚の札が下がっている形だ。
首から下がっている1枚の札は前に垂らすと鎖骨の間にある目の邪魔になりそうだが……まあ、札を背中側に回せば問題ないか。
「さて呪いましょうか」
「分かったでチュ」
そうして出来上がった物を私は呪怨台に乗せた。
これまでのドロシヒの強化版になるように、私の低い耐久を補えるような力を持つように、魔物と反魂以外の『七つの大呪』への干渉もして、全力で思いを込める。
呪怨台の上が濃密な呪詛の霧で包まれる。
「出来たわね」
やがて霧が晴れた後には、実体を有さない呪詛の紐で繋がれた5つの蘇芳色の輪と13枚の黒地に赤文字の札が現れた。
蘇芳色の輪では虹色の宝石が輝いており、濃密な呪詛を纏っている。
うん、カース化しているな、これは。
では鑑定。
△△△△△
『星憑きの玉輪呪』ドロシヒ
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:20
様々な素材を組み合わせて作られた、五輪十三札十三玉で一組となる装飾品。
この世ならざる者に通じる気配を漂わせており、正当な所有者以外が着用すれば、恐ろしい呪いに襲われる事だろう。
沈黙無効化(装備者のレベル)、沈黙に対して中程度の耐性、沈黙に対して僅かな抵抗性を有する。
干渉力低下無効化(装備者のレベル)、干渉力低下に対して中程度の耐性、干渉力低下に対して僅かな抵抗性を有する。
恐怖無効化(装備者のレベル)、恐怖に対して中程度の耐性、恐怖に対して僅かな抵抗性を有する。
着けている輪の数に応じて、装備者の周囲に存在する呪詛の支配を助ける(1個:0.25km、2個:0.5km、3個:1km、4個:2km、5個:5km)。
装備者の周囲の呪詛を吸収して拠点に送り、拠点から所有者の周囲へと呪詛を送り出す。
呪詛出納ツール-『ダマーヴァンド』とリンクしている。
周囲の呪詛濃度に応じて強度が向上する。
周囲の呪詛、エネルギーの一部を吸収する事で耐久度が回復する。
耐久度が0になっても、一定時間経過後に復活する。
自己意思こそないが、呪いの塊であるその身は幾つかの呪術を習得しており、装備者がトリガーを引くことで使用が可能。
『虚像の呪い』『貯蓄の呪い』
注意:この装備をタル以外が装備した場合、1分ごとに着用者の最大HPと同値の恐怖が付与される。
注意:装備者の異形度が19以下の場合、1秒ごとに乾燥(1)、小人(1)、毒(1)の状態異常を受ける。
注意:装備者の異形度が15以下の場合、1時間ごとに10%の確率でランダムな呪いを恒常的に得て、異形度が1上昇する。
注意:装備者の異形度が5以下の場合、1秒ごとに1%の確率で最大HPの10%のダメージを受ける。この効果は一度装備すると、装備者が一度死ぬまで解除されない。
注意:この装備の周囲の呪詛濃度が10以下の場合、着用者の受けるダメージが増える(極大)。
注意:装備者は異形度の高い相手に認識されやすくなる。
注意:この装備を低異形度のものが見ると嫌悪感を抱く(極大)。
▽▽▽▽▽
「陽憑きの次は星憑きねぇ……」
うん、強力なのは間違いないだろう。
ネツミテと同じく、呪術持ちだし。
実質、私専用装備だし。
「……。たるうぃ、そう言えばこれってどう付けるんでチュか?」
「どうって……」
と、ここでザリチュが懸念の声を上げる。
ドロシヒには可動部は存在しないので、懸念の声も尤もではある。
まあ、別に問題はない。
「手足は普通に嵌めて」
「まあ、そうでチュね」
まず三つの宝石が付いた輪を手足に填める。
「呪詛の剣を用意して」
「チュ?」
次に『呪法・増幅剣』を準備。
「『出血の邪眼・2』からの……」
「チュまっ……!?」
自分の首に威力調整をした『出血の邪眼・2』を発動してから、体を適当に小突く。
すると私の首が切断され、勢いよく頭が飛んでいく。
「填めて、再生」
ドロシヒの最後の輪を首に填め、頭を回収して元通りに乗せ、首を再生。
「はい、着用完了」
「……」
以上、『遍在する内臓』を持つ私だからこその着用方法ではあるが、着用成功である。
「たるうぃ、カースだからと言って、やっていい事と悪い事があると思うんでチュよ……」
「そうかしら?」
「そうでチュよ……」
私的には着けることが出来たので何も問題はないのだが……ザリチュは化身ゴーレムの顔を細かく操って、呆れを含んだすごく遠い目をしている。
でも、着用の為の開閉機能を付けるのって案外面倒だし、私専用だからこれで問題ないと思うのだが……まあ、議論はしないでおこう。
「とりあえず呪術の検証に行きましょうか」
「でチュねー……」
では、『熱樹渇泥の呪界』に移動である。
『現実の祝福』、『浪費の祝福』と言う言葉の反対だし、楽しみである。
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