515:現実世界にて-18
「ヒトテシャ戦お疲れ様です。芹亜」
「まだ倒せてないけどね。羽衣」
本日は2019年9月2日月曜日。
つまりは、毎度おなじみ大学で芹亜と会って昼食会兼情報交換会である。
「第三段階でヒトテシャの全長と同じ長さの舌を振り回す。でしたか」
「しかも強酸付きのね。スクショ見る? 酷い姿だったわよ」
「確かにこれは酷いですね……」
ザリアたちとヒトテシャとの戦いがどうなったのかについては、奪塩奪水の水呪を倒すための準備時間中に漁った掲示板で既に確認している。
まあ、今現在の芹亜がどこか遠い目をしている事から分かるように、現実は掲示板で書かれていた状況以上に酷かったようだが。
「で、羽衣の参加はやっぱり無理そう?」
「厳しいですね。呪術反射の成功率や反射割合に移動スピードの影響があるのが分かったのは嬉しい話ですが、私が手を出した時はそこまで速く動いてはいませんでした。なのにしっかりと反射されたことを考えると……」
「呪術を放ったプレイヤーの異形度も反射に関わる可能性が高い。そういう事ね」
「そういう事ですね。徹底的にメタられている気分です」
なお、私の参加はやはり厳しい。
どうやっても相性が悪いのだから。
「まあ、相性の悪さを抜きにしても、新しい装備品や呪術の習得、その他諸々やる事があって、ヒトテシャだけに構っていられないのが実情ですけど」
「ああなるほど。だったら尚更参加は無理ね」
ちなみに優先課題は『飢渇の邪眼・1』とドロシヒの強化、『ダマーヴァンド』の変化の確認である。
「そう言えばイベントまで残り一週間になりましたけど、どういうアイテムを作るか思いつきました?」
「ある程度は考え付いたわね。イベントマップでしか手に入らない素材や、一緒に組むプレイヤーが誰になるかで、結構ブレが出そうだけど。そう言う羽衣は?」
「私も幾らか考え始めていますね。芸術ジャンルについてはどうした物かと思っていますけど」
「アレは謎ジャンルよねぇ……」
それはそれとして話題変更。
イベントについての話は……イベント内容そのものが出たところ勝負な面が大きいので、基本的なイメージや案だけ持っていて、チームを組んだ相手と当日にすり合わせる事になるだろう。
「話題を変えるけど、羽衣の使っている特殊な呪術についての推測を検証班が出していたわよ」
「そうなんですか?」
芹亜が私の特殊な呪術……伏呪についての推測を検証班が行っている掲示板を見せる。
ふむふむ、伏呪と言う名称は流石にないが、効果についてはほぼ分かっているようだ。
まあ、少し前にやった糞雑魚海月、デンプレロ、ズワムの三連戦で見せているし、バレているのは当然だろう。
効果そのものも、条件を満たしたら追加の何かが発動するという、割とシンプルな物だし。
「今更ですけど、連呪、先呪、陣呪、蓄呪ってどういう物なんですかね?」
「本当に今更ね。禁則事項でなくなったから、掲示板に四つとも出ているわよ」
「禁則事項でなくなった?」
「何か条件を満たしたらしくて、喋っても大丈夫になったらしいわ。私にも詳しい事は分からないわ」
私は芹亜の案内で、特殊な呪術についてまとめたページを見る。
とりあえず伏呪が私以外に習得者が居ないのか、情報を明かしていないのか、仮称で樽呪とか呼ばれているのは発見したので、伏呪と言う正式名称を掲示板に載せておく。
うん、問題なく書き込めたので、本当に禁則事項でなくなっているようだ。
「で、連呪と言うのは? たぶん芹亜が使っているのですよね?」
「ええそうよ。まあ、簡単に言えばコンボやチェインとか言われるような感じの呪術ね」
連呪。
これは特定の呪術を連続で放つ事で、呪術の性能を上げることが出来るもののようだ。
なお、上がる性能には威力だけでなく、チャージ時間の短縮なども含まれるらしく、これによって芹亜は最初の呪術で相手を怯ませつつ、強力な呪術を撃ち込む、と言った動きを可能にしたようだ。
勿論、性能が上がっただけ、デメリットも大きくなるようだが、それは許容するしかないだろう。
「先呪は……マントデアが使っていたものですか」
「らしいわね。カウンター系っぽいわ」
先呪。
これは相手の攻撃を撃ち落とすように呪術を撃ち込むことで、性能が上昇するらしい。
カウンター、後の先、そのように言われる呪術のようで、デメリットの上昇はなかったり控え目だったりするようだが、その分だけプレイヤー自身の技量が求められるようだ。
「陣呪は面倒くさそうですね」
「使っているプレイヤーから話を聞いたけど、実際面倒くさいらしいわよ」
陣呪。
呪術の使用者と対象が特定の位置関係にある時に性能が上昇するなどの効果があるらしい。
この位置関係とやらには様々なパターンがあるようで、方角、距離、高低差、場合によっては炎を挟む、水を挟むなどの特殊な状況を求められる場合もあるようだ。
他の特殊な呪術と違って、発動するための条件が多種多様であり、使うにしても相手をするにしても面倒そうだ。
「蓄呪は一番シンプルですね」
「貯めるだけだものね」
蓄呪。
追加チャージによって呪術の性能を上げるらしい。
勿論、追加チャージ中には通常の呪術にはないデメリットを負う事になるのだろうが、やはりシンプルだ。
ちなみにデンプレロ戦でスクナがデンプレロの鋏をパリィしたのは、蓄呪を利用したからこそ出来た事であったらしい。
「そう言えば、この辺の特殊な呪術を道具に込める事って出来るのかしら?」
「羽衣がまた変な事をしようとしているわね……」
「変な事って。試せるものは試したいじゃないですか」
「まあ、それはそうよね」
その後も幾らかの話をして、イベントに備えて考えたアイテムのデザイン部分だけを見せ合って調整をしたりした。
で、私たちは家に帰って、『CNP』にログインした。