513:ソルトレイク-4
「ezeerf『灼熱の邪眼・2』!」
「!?」
『呪法・破壊星』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・呪諸装填』を乗せた『灼熱の邪眼・2』が四足獣の姿を取った水の塊に直撃し、爆発、始末する。
が、しかし。
「「「SIOOOOOOOOO!!」」」
「あああああ!? もう何匹居るのよおおぉぉ!?」
『概算でチュけど、まだ700匹は居るでチュねぇ……』
そうして爆散した自分などどうでもいいと言わんばかりに、周囲一帯の地面を埋め尽くす四足獣が仲間を足場として飛び上がり、宙に居る私に噛みつこうとしてくる。
それも一匹や二匹ではなく十数匹単位で、複数の層を為すようにだ。
「『熱波の呪い』!」
「「「!?」」」
勿論、こんな数に襲われればただではすまない。
だから私は『熱波の呪い』を発動すると、螺旋状の熱波を放って、進行方向上に居る四足獣を吹き飛ばし、空いた穴を通って安全圏に逃げる。
「くっ……本当に酷い事になったわね……」
『全くでチュねぇ……』
「「「SYOOOSYOOOO!!」」」
はい、と言う訳で、現状を改めて確認。
周囲と言うか地面を埋め尽くすのは、準備を整えた私と化身ゴーレムが巨大な湖に触れる事で出現した、水と塩を奪う獣の上位互換……奪塩奪水の水呪。
鑑定結果はこんな感じだ。
△△△△△
奪塩奪水の水呪 レベル32
HP:10,000/10,000
有効:灼熱、気絶、出血、干渉力低下、恐怖、石化、重力増大
耐性:沈黙、小人、乾燥、魅了
▽▽▽▽▽
名前の通りカースであり、しかもレベルだけなら私と同格だ。
これが湖に触れた瞬間に、千体以上現れたのが戦闘の始まりだった。
「「「ーーーーー!!」」」
「吹き飛びなさい!」
見た目や基本的な能力は水と塩を奪う獣とほぼ変わらずだが、とにかく数が多すぎた。
そして、水と塩を奪う獣との違いとして、こいつらは微量な回復量ではあるが、他の個体を回復することが出来る。
つまり、一撃で仕留めなければ、一瞬で全回復されて戦線復帰してくるのである。
まさか数の暴力と言う単語が攻撃面ではなく防御面で使われるとは思いもしなかった。
だが、私にとって最も厄介なのは数でも回復能力でもない。
「esaeler! ああもう、群体型でさえなければ!」
『本当にそれでチュよねぇ』
「「「SIOOOOOOO!」」」
奪塩奪水の水呪は群体型のカース、一にして全、全にして一の存在なのだ。
倒すためには全ての個体のHPを削り切らなければいけない。
だが状態異常含めて攻撃は個別にしか入らないので、一体ずつ始末していくか、『呪法・感染蔓』で広げて一気に始末するかになる。
が、ここで足を引っ張るのが『呪法・感染蔓』の制限。
蔓を伸ばした対象が次回の『呪法・感染蔓』の対象に暫く選ばれないと言う制限と、奪塩奪水の水呪の特性が組み合わさった結果、奪塩奪水の水呪の全個体が対象に出来なくなっているのである。
おかげで私は四倍の時間、単体攻撃で凌ぐしかなくなってしまったのである。
まあ、奪塩奪水の水呪はこちらの言葉こそ理解していないが、頭が悪くないようなので、今これから使っても被害は最小限に抑えられてしまうのだが。
『まあ、頑張れとしか言いようがないでチュよ。たるうぃ。ざりちゅには何も出来る事がないでチュ』
「そうね……」
なお、今回の戦闘でザリチュは渇砂操作術の眼球ゴーレム以外は使い物にならないと言っていい。
奪塩奪水の水呪は体の大部分が水であるためか臭いがなく、そもそも探る必要がないくらいに多い。
化身ゴーレムの攻撃では火力が足りず、やるだけ無駄。
結果として、化身ゴーレムを廃棄して、最大HPと最大満腹度を増やす方が効率よくなってしまったのである。
ちなみに眼球ゴーレムの使い道は……
「SIO!?」
『たるうぃ!』
「分かってるわ! 『気絶の邪眼・2』!」
「!?」
毎度おなじみの緊急脱出用だ。
とは言え、緊急脱出の度に眼球ゴーレムを消費するのは、少々どころでなく痛い。
もう少し効率よく逃げ回らないと、近い内に詰みそうだ。
「これ、超大型ボスの時のズワム並みにキツイんじゃないの……?」
『否定は出来ないでチュねぇ……』
思わず疑問が口をついてしまったが、よく考えてみたら何も間違ってはいないかもしれない。
何せこいつらは一体一体が一万のHPを持っていて、その数は千以上。
総HPは一千万を超えるのだから、生半可なボスでは比較対象に出来ないだろう。
「「「SIOOOOOO!!」」」
「とにかく今は逃げるしかないか……ezeerf『灼熱の邪眼・2』!」
そして、認識が改まったところで、私がやることに変わりはない。
追い込まれないように飛び回り、逃げ回り、虚を突くように包囲を打ち破って、時間を稼ぎつつ、敵の数を少しずつ削っていく。
幸いにしてフェアリースケルズも斑豆も万全な状態にして挑んでいるので、眼球ゴーレムが尽き、包囲され、噛みつかれ、逃げる事が出来なくなる以外の詰みはない。
『たるうぃ。何か奇妙でチュよ』
「奇妙って何が……」
「「「……」」」
そうして戦闘開始から数時間。
奪塩奪水の水呪が当初の半分くらいになったと私が感じたところで動きがあった。
「「「SIOOOOOOO!」」」
「これは……」
『あー……』
唐突に奪塩奪水の水呪が私を追いかける事を諦め、一か所に集まり始めたのである。
で、奪塩奪水の水呪同士でぶつかり合う事で体を一体化させていく。
500は居たであろう個体があっという間に数を減らしていって、4体の巨人になっていく。
「「「オオオオオオォォォォォォ!! コロスウウウゥゥゥ!!」」」
そうして生まれた4体の巨人は人の言葉を発しながら、私の方へと駆け出した。
「楽になったわね」
『やっちまったでチュねぇ……』
それを見て私は思わず笑みを浮かべてしまった。
だってだ。
奪塩奪水の水呪は千を超える圧倒的な数の個体が押し寄せ、支え合うからこそ厄介なカースだったのだ。
それが4体になった?
一体一体のスペックは元の100倍どころではないのかもしれないが、私にしてみれば、どっちが楽かなんて考えるまでもない。
おまけに人の言葉を解してくれるだなんて……
「宣言する。これまでのお礼よ。とびっきりの毒を貴方の頭にお見舞いしてあげるわ」
『なんで、数を減らしちゃったんでチュかねぇ。焦りか何かでチュかねぇ』
「「「!?」」」
全力でぶっ放せと言われているような物ではないか。
そんなわけで、敢えて述べるまでもなく、この後は楽勝だった。
何となくだが、前半と後半でどっちが楽かと問われれば、普通のプレイヤーたちでも大多数は後半の方が楽。
そう言いそうな気が私にはした。
≪タルのレベルが33に上がった≫
△△△△△
『虹霓瞳の不老不死呪』・タル レベル33
HP:325/1,320
満腹度:37/150
干渉力:132
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の王』、『灼熱の達人』、『沈黙の名手』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖の名手』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『魅了使い』、『重力使い(増)』、『石化使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『3rdナイトメアメダル-赤』、『七つの大呪を利する者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『竜狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『偽神呪との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹霓瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』、『いずれも選ばなかったもの』、『呪海渡りの呪人』、『泡沫の世界の探索者』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・3』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・2』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・2』、『小人の邪眼・2』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『重石の邪眼・2』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・原始呪術:
『不老不死-活性』、『不老不死-抑制』、『風化-活性』、『転写-活性』、『蠱毒-活性』、『再誕-活性』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』、『化身』、『禁忌・虹色の狂創』
呪術-ネツミテ:
『太陽の呪い』、『熱波の呪い』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』、『呪法・呪宣言』、『呪法・極彩円』、『呪法・呪晶装填』、『呪法・逆残心』
所持アイテム:
『路竜の包帯服』ジタツニ、『渇鼠の騎帽呪』ザリチュ、『陽憑きの錫杖呪』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール、呪詛貯蓄ツール×5設置
システム強化
呪怨台参式・呪詛の枝、BGM再生機能、回復の水-2、結界扉-2、セーフティ-2、長期保管用カプセル
▽▽▽▽▽




