510:ソルトレイク-2
「これはまた凄い光景ね……」
「でっチュねぇ……」
エレベーターを抜けた先に広がったのは白一色の光景だった。
だが、地面として広がっているものも、空から降っているものも雪ではない。
「粉雪ならぬ粉塩でチュね」
「そうなるわねぇ」
全て塩である。
「とりあえず登録と鑑定ね」
「まあ、そうなるでチュね」
幸いと言うか、迷い込んでしまったプレイヤーの為なのか、エレベーターから降りてすぐの場所には塩のブロックを積んで建てられた家屋があり、結界扉も屋内に設置されているので、降り注ぐ粉塩に触れることなく最初の行動は出来るようになっている。
きっと『入子屋敷の呪地』と同じように、『ダマーヴァンド』と繋げた時には、この家屋に繋がるようになるのだろう。
では、転移先としての登録を終えたところで鑑定。
△△△△△
塩砂湖畔の呪地
一面の塩景色は全てを奪い尽くそうとする。
水も、命も、思考も、可能性も。
深みにまでやって来た相手を逃す事はないだろう。
潰れて終わるはずだった呪いは、不思議な因果で半端物で、けれど異常に危険な呪いになってしまった。
呪詛濃度:18 呪限無-浅層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
≪ダンジョン『塩砂湖畔の呪地』を認識しました≫
「『塩砂湖畔の呪地』ねぇ……」
「乾燥はとにかく進みそうでチュよね」
「まあ、吸湿どころか脱水……いえ、奪水してきそうだものね」
鑑定も終わったところで、家屋の外を改めて観察。
空からは白い粉塩が降っている。
地面は積もった粉塩によって白一色……かと思えば、ダンジョン名に湖畔とあるためか、時折水たまりのような物が見え、遠くの方まで見れば大きな湖のような物も見えてくる。
「モンスターの姿がないわね」
「でチュねぇ」
気になるのは私たち以外に動くものが無いこと。
モンスターが白一色だから見えないというよりは、条件を満たすまでそもそも存在しない、と言うパターンの方がありそうか。
「んー……粉塩の鑑定からね」
「まあ、そうなるでチュよね」
では探索開始。
まずは降ってくる粉塩からだ。
△△△△△
『塩砂湖畔の呪地』の粉塩
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:1
『塩砂湖畔の呪地』にて空から雪のように降る塩。
極めて高純度かつ細かい塩であり、余計な癖や呪いの類はない。
▽▽▽▽▽
「……。とりあえずウチの調理用具の無限塩のアップデートが出来る分だけ回収しておきましょうか」
「でチュね」
どうやら粉塩は特に危険な物ではないらしい。
いや、目や口などの粘膜部分に接触すると雪の比ではないくらいに痛いと言う危険性はあるか。
だがまあ、呪われた塩だからこその危険はないので、やはり危険な物ではないと言う判断でいいだろう。
場合によってはサクリベスに持ち込んで売ってみるのも手だろうか?
「降り積もるとどうなるのかしら?」
続けて表層の粉塩を払った先に見える、岩のように固まり堅くなった塩の地面を鑑定してみる。
△△△△△
『塩砂湖畔の呪地』の岩塩
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:5
『塩砂湖畔の呪地』にて空から雪のように降り、積もった塩が自重によって圧し潰され、岩のように堅くなった物。
固まる過程で触れたものから水を奪い取る呪いを得ており、直接触れると危険。
注意:一定時間ごとに接触者に乾燥(5)+脱水によるダメージを与える。
▽▽▽▽▽
「まあ、ジタツニがある私と、そもそも体内に水分がない化身ゴーレムなら問題なしね」
「そうでチュね。そもそもたるうぃは殆ど地面に触れないでチュけど」
どうやら粉塩と違って地面である岩塩は危険な物体のようだ。
私たちには関係ないが。
「さて、地面がこんなもので出来ているとなると、そこら辺にある水たまりが怖い事になってくるわね」
「でチュね。地面が水を奪い取る呪いの塊と言っていいのに、水たまりがあるとか、不穏でしかないでチュ」
私と化身ゴーレムは家屋の外に出ると、とりあえず一番近くの水たまりに近づいてみる事にする。
水たまりのサイズは直径30センチ程で、深さは1センチもない程度だろう。
私たちが観察する中でも水たまりには粉塩が降り注ぎ、水を奪うはずの岩塩と接触しているのだが、水たまりに変化は生じない。
うん、明らかに怪しいので、鑑定してみよう。
△△△△△
『塩砂湖畔の呪地』の塩水
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:19
『塩砂湖畔の呪地』に溜まっている水。
大量の塩と呪詛が溶け込んでおり、触れたものの水分を奪い尽くそうとする。
▽▽▽▽▽
「……。ザリチュ。触ってみて」
「まあ、ざりちゅが触るのが妥当でチュよねぇ……」
なるほど、触れたものの水分を奪い尽くそうとする塩水か。
なるほどなるほど……なんで岩塩と違って注意事項が無いんだろうね?
「じゃあ、いくでチュよ」
「何時でもいいわ」
と言う訳で、私が準備を整えた上で、化身ゴーレムがズワムロンソを抜き、その切っ先で水たまりに触れた。
すると……
「SIOOOOOOOOO!」
突っ込んだら負けな感じの声を上げつつ、水たまりが変形、四足獣の姿になりつつ飛び上がり、私の方へと向かおうとしてきた。
「pmal『暗闇の邪眼・2』」
「!?」
そして私の幾つかの呪法を乗せた『暗闇の邪眼・2』によって爆散。
白い陶器の壺のような物体を残して死んだのだった。
「鑑定しないんでチュか? たるうぃ……」
「いやまあ、一応不意打ちだったから、最初の対応が出来るかどうかを優先したのよ。一撃だったけど」
とりあえず私は白い陶器の壺に似た何かを拾う事にした。