509:ソルトレイク-1
「ログインっと」
「おはようでチュ。たるうぃ」
「おはよう。ザリチュ」
さて日曜日である。
「ざりあの手助けをしなくていいんでチュか?」
「ふっ、私が行って何が出来ると言うの?」
「本音は?」
「出来ればアレとは戦いたくない。いやまあ、役に立たないから行っても仕方がないのも本音よ」
ザリアたちは……早速ヒトテシャと戦っているようだ。
掲示板に情報が上がっている。
なお、ヒトテシャの攻撃内容の都合で、既に阿鼻叫喚の状態であるようだ。
うん、頑張って欲しい。
「えーと、聖女様の五寸釘は問題なし。火山の方も異常なしね。不本意ながら」
「みたいでチュね」
私はいつもの作業をしつつ、眼球ゴーレムの視界を介して必要な情報を集める。
まあ、どちらも問題なしで終わりなのだが。
「さて今日は何をやるでチュか? 入子の炎呪のコランダムを加工するでチュか?」
「それもやりたいところだけど、私が現状考えている使い道だと、もう四つくらい宝石が欲しいのよね」
「じゃあ、泡沫の世界でチュか?」
「いいえ、折角だから砂漠に行くわ」
『ダマーヴァンド』でするべき作業を終えた私は化身ゴーレムを連れて、『理法揺凝の呪海』経由で『岩山駆ける鉄の箱』に移動。
そこから外に出て、以前に見かけた砂が海の水のようにサラサラとしていて、迂闊に踏み込むと砂の底に引きずり込まれる場所に向かう。
「えーと……あったわね」
「変な物を作った上に、変な場所に来たでチュねぇ……」
そうしてやって来たのは、『皆乾かしの砂漠』の中でも特に危険なエリアと言うか、人気がない場所。
周囲を砂の海に囲まれた孤島のような岩場だった。
「で、何をやるんでチュか?」
「『ダマーヴァンド』移転あるいは『入子屋敷の呪地』作成の再現。と言うところかしらね。上手くいけば、今後の私の強化がだいぶ楽になるわ」
「でチュか」
岩場は直径10メートルほど。
岩は非常に堅く、穴を開けるとなったら、相当の苦労が予想されるだろう。
まあ、物理的に穴を開けるならば、だが。
「まずは旗を立ててっと」
「はいはいでチュよ」
私と化身ゴーレムは岩場の中心に、火山に立てたものと同じ材質とデザインの旗を立てる。
「呪限無への穴を開けてっと」
「平然と開けるでチュねぇ……」
旗の根元部分に呪詛の霧を集め、呪限無……『理法揺凝の呪海』に繋がる穴を開ける。
勿論、向こう側の呪詛がこちら側へと過剰に出てこないように、呪詛支配はきっちりやっておく。
「泡沫の世界を上手い具合に釣り上げて……よし、かかった」
私は『理法揺凝の呪海』に眼球ゴーレムを投入。
そして、眼球ゴーレムの視界を介して、私が開けた穴の近くにあった泡沫の世界の位置を確認。
呪詛支配によってこちらへと引き寄せる。
「固定っと」
「上手くいった感じでチュか?」
「ええ、たぶん上手くいったわ」
泡沫の世界の固定に成功した。
だが、今はまだ泡沫の世界は泡沫のままだ。
このままではいずれ潰れてしまうだろう。
「ytilitref『飢渇の邪眼・1』」
だから安定させるべく、『転写-活性』も使って、泡沫の世界へと各種呪法付きの『飢渇の邪眼・1』を撃ち込む。
これによって泡沫の世界はその性質を変化させつつ、安定の方向へと向かって行く。
「よし、上手くいったわね」
「穴が広がっていくでチュね……」
そうして泡沫の世界がダンジョンとして安定していくと共に、堅い岩場に穴が開いていく。
私と化身ゴーレムは穴が開いていくの見て、宙に飛び立つ。
なお、岩場に立てた旗は、支え部分が伸びて穴の真上にあり続けている。
それどころか、穴の直径が3メートルほどになり、拡大が止まったところで、岩場に向かって垂直に立つように折れ曲がり、支え部分の間には土の天井と壁が張られ、ドアや窓こそないが、家屋のようになってしまった。
「ダンジョン成立でチュか?」
「その筈よ」
私と化身ゴーレムは入り口から建物の中を覗き込む。
建物の中には深い深い穴だけがあり、時空がねじ曲がっている都合か、その底は見えない。
「突入しましょうか」
「分かったでチュ」
さて、これで上手くいっていれば、『飢渇の邪眼・1』の影響を受けたダンジョンが穴の底に出来上がっているはずである。
と言う訳で、私と化身ゴーレムは穴の中に飛び込んだ。
1メートル、3メートル、7メートルと降下していき……
「ん?」
「チュア?」
20メートル程降下したところで、私たちの横を垂れ肉華シダの蔓によく似たロープが穴の上に向かって通り過ぎていく。
そして、穴の底から、穴の直径と同じ大きさの何かが上がってくる気配もあった。
「「……」」
で、穴の底からやって来たもの……エレベーターによって、私と化身ゴーレムは穴の入り口にまで押し上げられた。
「くっ……この『虹霓瞳の不老不死呪』タルの目をもってしても、この展開は見抜けなかったわ……」
「でチュかぁ」
いつの間にか穴の上にある家屋には呪詛で駆動しているらしい滑車が取り付けられ、そこには先ほど見たロープが巻き付いていた。
で、ロープの端の片方は私たちが乗っているエレベーターと結び付いている。
どうやら、私たちのように空を飛べなくても、ダンジョンへ侵入できるように取り計らってくれたらしい。
「頑張って下方向へ羽ばたくでチュよー」
「分かってるわよ……」
エレベーターがゆっくりと下がっていく。
が、『空中浮遊』の呪いによってエレベーターに乗れない私は、エレベーターの降下に合わせて、下方向へはばたくと言う面倒な行動をする事になったのだった。
04/27誤字訂正




