502:マトリョーシカハウス-6
「さて、対策を考えましょうか」
『でチュね』
特殊な条件による敗北だったためか、入子の炎呪と言うカースとの戦いに敗れたにも関わらず、ペナルティの類は来ていない。
が、入子の炎呪の特殊性を考えると、無対策では百戦百敗がいいところだろう。
ましてや、敗北と一緒に化身ゴーレムも吹き飛ばされて失った今の私では、どうしようもない。
『で、火山の方はいいんでチュか?』
「動きがないからいいわよ。人影すら見えてない訳だし」
なお、本来の今日の主目的である、火山を突破して南にある『ユーマバッグ帝国』に向かう件だが、火山に立てた旗に近づく人間が居ないので、放置である。
現状では時々モンスターの姿を見かけるだけで、人影が一切ないから仕方がない。
「それよりも入子の炎呪よ」
閑話休題。
入子の炎呪対策を考えよう。
「まず前提として、入子の炎呪は三体居ると考えるべきね」
『巨人、普通、小人の三体でチュね』
「ええそうよ。普通と小人の姿は確認していないけど、特殊敗北をした時の条件からして、これはほぼ間違いないはず」
入子の炎呪が三体一組のボスなのはほぼ確定でいい。
いや、三体一組と言うよりは三位一体の方が近いだろうか?
とりあえず確かなのは、普通サイズにも入子の炎呪が居て、普通の入子の炎呪は巨人の入子の炎呪と同じように動いた。
巨人の攻撃はザリチュが防いだが、普通の攻撃は誰も防がなかった。
なので、普通の攻撃は部屋の壁、あるいは小人サイズの部屋に直撃し、破壊。
玩具の部屋含めて四つの部屋はリンクしているので、巨人サイズの部屋も破壊された。
そしてダンジョンの外にある呪詛が押し寄せて来て、飲み込まれたために特殊敗北となった。
これが先ほど起きた現象の詳細だろう。
「対策として一番楽なのは人数を増やす事ね」
『まあ、それが一番楽でチュよね。手分けするだけでチュから』
人数を増やすと言う対策は一番楽で、効果も確かだろう。
誰を呼ぶか考える必要はあるが、ヒトテシャとの戦闘に支障を来たさないようにスケジュールを調整しつつ、『入子屋敷の呪地』の雑魚モンスターのドロップ品である大きな硫黄の火の残り火と小さな硫黄の火の残り火を餌にして交渉すれば、拒否するプレイヤーは早々居ないだろう。
この二つのアイテムにはそれだけの価値がある。
まあ、入り口のフレーバー文章的に複数人で挑むこと自体が駄目な可能性もあるが。
「後は超火力によるゴリ押し」
『いつものでチュね』
「ザリチュのゴーレムを活用」
『小人の部屋に送り込んで盾代わりくらいなら、出来なくはないでチュか』
「新規アイテムの開発」
『妥当でチュね』
「人数を増やす以外ではこの辺が妥当なところかしらね」
それはそれとして、時期的に、大きな硫黄の火の残り火を他プレイヤーが入手する機会を与えたくないという思いもある。
そうなると、私とザリチュだけで入子の炎呪を撃破する事になるのだが……思いつく方法はそう多くない。
とりあえず小人サイズの部屋で使える大きさの盾を作って、それをネズミゴーレムに持たせる事で時間を稼がせるのはありだろう。
「んー……ちょっと確認」
『確認でチュか?』
ちょっと公式サイトで第4回イベント『空白恐れる宝物庫の悪夢』のイベント詳細を確認する。
具体的には素材回収関係の項で、これまでにプレイヤーが得た事のある素材、と言うのが、何処まで含まれるかの確認だ。
で、確認してみた結果だが……どうにも曖昧な部分がある。
「微妙なところねぇ……」
『でっチュねぇ……』
ありふれて存在しているような普通の薬草や鉱石程度なら、具体的に何処で入手したのかを知らなくても、所有した事さえあれば、回収可能の対象になるようだ。
だが、特殊な素材になると、他のプレイヤーから手渡ししてもらい、所有した事があるだけでは駄目になるらしい。
具体的な例で言えば、泡沫の世界である『稲妻走らせる鉄塔の森』で入手した呪いを弾く鉄骨や呪鉄骨、デンプレロやシベイフミクの素材などがそうだ。
しかし、相応の回数取り扱った事があれば、前述の特殊な素材に分類されるものでも入手可能になるようで……謎が多い。
「うーん、アイテムに対する理解度とか、その辺なのかしら」
『かもしれないでチュねぇ』
なんにせよ、入手可能になるかどうかはマスクデータの分野ではあるようだし、正確な境界線は分からなさそうだ。
で、この情報から察するに、数個の大きな硫黄の火の残り火ぐらいなら、誰かに渡して、使ってもらっても、イベントで入手可能にはならないだろう。
うん、後でヒトテシャ対策として、ザリアに幾つか渡す事を考えてもいいだろう。
と、また話がずれつつあるな。
今は入子の炎呪だ。
「入子の炎呪に話を戻すと、個人的に気になるのは、三体の入子の炎呪がHPを共有しているタイプなのか、三体を同時に倒さないといけないタイプなのかね」
『前者なら状態異常も共有しそうでチュよね。後者だと……同時に倒さないと復活の類をしそうでチュね』
「まあ、これについては実際に戦ってみないと分からないわね。数が減ると発狂するタイプとかもあるし」
『でチュね』
後は倒し方の問題か。
この手の複数体ボスには付き物の悩みだが……どのパターンが来ても対策出来るように備えるぐらいしかできないだろう。
「なんにせよ挑むのは明日ね」
『案外時間がかかっているでチュからねぇ』
とりあえず今日のところはログアウトした。