501:マトリョーシカハウス-5
「此処がそうね」
「どうやって開けるでチュ……まあ、それが早いでチュよね」
「パーツがよほど頑丈であるならともかく、そうでないなら、100分の1サイズのミニチュアの一部を曲げるなんて余裕よ」
やって来たのは屋敷の中でも割と豪華な部類の部屋。
私はその部屋に設置されていた玩具の部屋を弄って、地下室へ続く隠し階段を無理やり出現させる。
なお、特に機械や呪術によって動くような仕掛けは見られなかったので、これが正規ルートである。
「しかし、10倍サイズの階段はキツイわね……これ、私みたいに飛べなかったらどうするのかしら?」
「そこは玩具サイズの部屋を利用するんじゃないでチュか? アレを上手く使えば、こういう場所の移動ぐらいは出来ると思うでチュよ」
巨人サイズの階段を私は空を飛んで、巨人サイズのままになっている化身ゴーレムは普通に歩いて降りていく。
なお、この階段の入り口横にはザリチュの言う通り、普通サイズの階段があったので、その中には小人サイズの階段も、玩具サイズの階段も入っている事だろう。
で、それを上手く使えば確かに効率よく移動できそうだが……かなり怖い事になる気がする。
「そう言えば『入子屋敷の呪地』にはボスが居るんでチュかね?」
「どうなのかしらね? 最初からボスもセットで生み出されていれば居るでしょうけど、そうでなければ出来たばかりのダンジョンなのだし、居なくてもおかしくはないわね」
ちなみに階段であってもお構いなしと言わんばかりに大きな硫黄の火が集団で襲い掛かってきているのだが、もう戦い慣れた相手なので、こちらに顔を向けた化身ゴーレムが相手の姿を見ることなく剣を振るって処理している。
「と、着いたわね」
「みたいでチュね」
私と化身ゴーレムの前に鋼鉄製の扉がそびえる。
どうやら地下室に着いたようだ。
そして、ダンジョンの核が此処にあると言う私の推測が正しい事を示すように、呪詛が濃い。
此処だけならば呪限無と変わらないだろう。
「開けるでチュ」
「お願い」
化身ゴーレムが扉を開け、部屋の中に突入。
私もそれに続いて部屋の中に突入する。
「「……」」
「う……う……あ……」
部屋の中にあったのは、豪勢な椅子と机が一つずつ。
手首や足首に填める金属製の枷が一組。
壁には拷問用と思しき鞭が複数本。
机の上には、これまでの部屋と同じように普通サイズのこの部屋が置かれている。
「どうして……どうして……」
で、この部屋には先客が居た。
両手両足に金属製の枷を填められ、壁に繋がれているみすぼらしい格好の人間……サイズ比を考えれば巨人と言うべきものが居る。
「なんで……私が……」
彼もしくは彼女は私たちの存在を認めると掠れた声で譫言を言い始める。
「私はこんな物は止めるべきだと! そう訴えただけなのに!!」
巨人が叫び声を上げる。
それと同時に金属製の枷にヒビが入り始め、巨人の髪の毛や指の先が赤く染まり始める。
「許せない! 許せない! 奴らが許せない! 私の命を! 想いを! 薪にする事など許せない! 私の理論が! 間違っているだなんて許せない! 証明してやる! 証明してやる! 証明してやる! 私が正しいのだと! 奴らこそが薪に相応しいのだと! こんなものは間違っているのだと!」
いや、肌が赤くなるという次元ではない。
巨人の体は火に変化しつつある。
全身が燃え上がり始め、人型の炎と化しつつある。
「火で! 炎で! 焔で! 焼き尽くしてやる! 私を踏みにじった! アノ愚者共ヲ! 焼キ払ッテヤル! ソノ権利ガ私ニハ! アルノダカラ!!」
いや、人型の炎になるだけでは収まらず、炎は赤から僅かな黒を含む青へと変化している。
硫黄の臭いも僅かに漂っているが、炎が青いのはとにかく高温だから。
その証拠に私の皮膚感覚は危険なレベルの熱を感じている。
これは……もしかしなくても藪を突いて蛇を出してしまったか?
変電の鰻呪とは比べ物にならない感じだ。
「マズハ貴様カラダ! 骨ノ髄マデ焼イテクレル!」
巨人を抑え込んでいた枷は完全に破壊された上に溶け落ち、解放された炎の巨人は私の方へと飛びかかって来る。
「させないでチュよ!」
「小癪ナ!」
「まずは鑑定を……」
だがその攻撃は化身ゴーレムが盾で防御して防ぐ。
その隙に私は『鑑定のルーペ』を巨人に向けて、使用してみる。
△△△△△
入子の炎呪 レベル30
HP:150,872/150,872
有効:石化、質量増大
耐性:毒、灼熱、気絶、出血、小人、干渉力低下、恐怖、乾燥、魅了、重力増大
▽▽▽▽▽
「ナラバ……」
巨人改めて入子の炎呪が右腕を引き、力を溜めるようなポーズを見せる。
何かしらの大技が来るようだ。
だが相手の弱点から考えて、まずは『石化の邪眼・1』を撃ち込まなければいけない私に出来る事はない。
化身ゴーレムに前を任せ、私はその背後でチャージを始める。
「喰ラエ!」
「ザリチュ!」
「分かっているでチュよ!」
入子の炎呪が炎を放ち、化身ゴーレムがそれを盾で受け止めた。
盾の効果もあって、化身ゴーレムの後ろにいる私に命中する事は決してない。
そんな事を思っていた時だった。
「へ?」
『チュア?』
この部屋に設置されていた、普通サイズの部屋から炎が噴き出し、普通サイズの部屋は木っ端微塵になった。
直後、あらゆる方向から黒い何かが押し寄せ……気が付けば私はセーフティエリアに戻されていた。
それが意味するところは……。
「あー、普通サイズの部屋にも入子の炎呪が居て、部屋が壊されたから強制的に死に戻りした?」
『みたいでチュねぇ……』
入子の炎呪と言うカースとの戦闘難易度が極めて高いと言う事だった。