496:ボルカノトゥサウス-3
「完璧に嵌まったわね」
「完璧に嵌まったでチュねぇ」
金曜日である。
私は木曜日の朝に化身ゴーレムを作成すると、二人で火山エリアをひたすらに南下し続けた。
し続けたが……行けども行けども延々と同じ風景が続き、明らかに異常な状況に陥っていた。
で、今日になって、周囲を少し探ってみたが……まあ、完全に何かしらの仕掛けに嵌まってしまったようだった。
「ザリアたちはどうしているんでチュか?」
「掲示板を見る限りは、ヒトテシャとの戦闘場所には到達。今は対策アイテムの製作と弱体化ギミックの捜索をしているみたいね。ちなみにスクナたちはクカタチの呪限無を探索する事で自己強化を図っているらしいわ」
「でチュか」
「ま、それよりは私たち自身の事よ」
さて、一体何が起きているのだろうか?
「まず大前提として、このままの状態では、私たちは火山から地上マップの別エリアへと移動することが出来ないわ。つまり、この仕掛けは解かなければいけないものよ」
「まあ、そうなるでチュね。『試練・火山への門』からやり直せば別かもでチュが」
「未知なる仕掛けを放置してとかあり得ないわね」
「でっチュよねー」
何が起きているのかは単純だ。
私たちは無限に火山が続く仕掛けがあるエリアに踏み込んでしまった。
これだけである。
なお、無限に続くのはほぼ間違いない。
と言うのも、この辺りで一番高い山の頂上に昇って、そこから更に上空に向かって自分を射出して周囲を確認したところ、地平線の向こうまで火山が続いており、海と砂漠が僅かに見える事もなかったからだ。
流石に異常である。
「で、私は火山マップの地上にこんな仕掛けがあるという話を、スクナから聞いた事はない。掲示板にも該当するような情報はなかったわ」
「つまり、禁則事項に引っかかるから話せなかったでチュか」
「あるいは私だからこそ、仕掛けを作動させてしまった。でしょうね」
「たるうぃだからこそ、の方がありそうでチュねぇ」
仕掛けの発動原因については……ほぼ間違いなく私だからこそだろう。
だが詳細については心当たりが多すぎる。
一番可能性が高そうなのは、私がカースだからカース対策として仕掛けられた罠を起動させてしまったパターンか。
これは普通にあり得るだろう。
他のパターンだと……単純に私が誰かの仕掛けた罠にかかったから、通常とは異なる経路で火山に入ったから、未知なる呪術が原因の線も残すべきか。
「そう言えば、いつもの呪詛の流れを見るとかはやってないんでチュか?」
「やってるわよ。そうね……無限ループではあるけれど、火山マップの色んな場所に飛ばされていると言うのが正確なところかしら。だから、『硫黄の風穴』以外のダンジョンも見えているわ」
ちなみにヒトテシャを倒していないからと言う可能性は見ていない。
それだと『ユーマバッグ帝国』の連中とスクナや『鎌狐』が接触できているだけでなく、彼らが『ユーマバッグ帝国』の領域に足を踏み入れたことがあるっぽい言動をしていた事への説明が付かないからだ。
「んー……罠と言うか、監視塔の類でも用意してみようかしら」
「何故でチュ?」
「このループに入って以降、他のプレイヤーどころか他人の人影を一切見ていないのが、妙と言えば妙なのよね……」
「だから目立つものを用意して、それに他の人間が反応するかを見てみる。でチュか」
「そういう事ね」
さて、そろそろ具体的な対処法を考えるとしよう。
まずは他の人間がこのループに対してどう動いているかだ。
もしもこのループが私にしか反応しておらず、正しい道順を知っていれば抜けられるタイプのループならば、他の人間を見つける事で脱出の糸口をつかめるだろう。
「よっと」
と言う訳で、私は一度『ダマーヴァンド』に戻って材料を確保。
その後、ループに戻り、適当な山の頂上で、熱拍の幼樹呪の木材を組み合わせて作った柱を立てた。
柱の先にはいつもの繊維で織った布を取り付けて旗にする。
なお、旗に記されている模様は六本足の蜥蜴である。
いつもの繊維で作った縄による固定もしてあるので、早々倒れる事もないだろう。
「眼球ゴーレムを置いておくでチュ」
「ええ、ありがとう」
で、そんな旗の先端と周囲には眼球ゴーレムを複数設置。
人が近づいてきたら、直ぐに分かるようにしておく。
「さて、人が近づいてくるまでどうするでチュか?」
「そうね。適当なダンジョンの攻略でもしてようかしら。もしかしたらヒトテシャのギミックがあるかもしれないし」
「まあ、それが妥当でチュよね」
ただ、ヒトテシャの攻略には繋がっても、自分自身の強化には繋がらないのが難点か。
いや、それを言ったら普通のダンジョンの攻略自体が、私にとっては殆どメリットのない行いか。
素材の質的に呪限無に関係のある素材でないと、強化に繋がらない……と言うよりは食指が動かず、強化に繋げられないと言うべきか。
「さてそうなると……ん?」
まあ、何にせよまずはダンジョンを見つける事だ。
と言う訳で私は周囲を見るわけだが……少々、妙な物が見えた。
「どうしたでチュか?」
「いえ、量は少ないけれど、やけに濃い呪詛が噴き出している穴があるのよね」
「具体的にはどれぐらいの濃さでチュ?」
「呪詛濃度15前後くらいかしら」
「本当に濃いでチュねぇ……」
呪詛濃度15の呪詛の霧だ。
まるで間欠泉のように、岩と岩の隙間、直径30センチ程の穴から吹き出している。
「ループの元でチュかね?」
「そういう感じではないわね。でも、調べる価値はありそう」
普通のプレイヤーなら、例え気付いたところで手も足も出せない穴だ。
だが私たちならば、この穴の中にも入っていける。
うん、折角だし、この穴を調べてみるとしよう。
「citnagig『小人の邪眼・1』」
と言う訳で、幾つかの呪法を乗せて、私たちは自分に『小人の邪眼・1』を使用。
小人状態になって、穴の中へと入っていった。
さあ、未知なるダンジョンだ。
04/15誤字訂正