494:ボルカノトゥサウス-1
「んー……これは駄目ね」
『駄目でチュねぇ』
『理法揺凝の呪海』へ移動した私は、東方向へ移動。
海エリアに入っても移動を続け、海エリアとその次のエリアの境界である極彩色の布へと近づいていく。
そして、そこで弾かれた。
≪条件を満たしていないため、この先へ進むことは出来ません≫
「見た目は布なのに、まるで金属の壁のような硬さを持っているわね」
『システムメッセージが表示されているのはスルーでチュか?』
「スルーする気はないけど、触れるなら触ってみたいじゃない」
私は極彩色の布を軽く手で叩く。
返って来た感触は金属の塊のそれだが、音は特にしない。
無理やり突破するのは……仮称『裁定の偽神呪』と敵対する事になる予感がするので、止めておこう。
「満たしていない条件と言うのは、通常マップで行ったことがない。と言うところかしら」
『一番妥当なのはそれだと思うでチュ』
「まあ、こっち経由なら、現状であっても何処へでも行きたい放題となったら、流石に便利すぎるものね」
『でチュねー』
私は念のために雪山エリア、砂漠エリア、火山エリアでも、同様に第三エリアに繋がるであろう境界に触れてみた。
が、どちらも先ほどと同じメッセージが表示された。
この結果から考えて、やはり超大型ボスの討伐や認識の有無は関係ないようだ。
海マップの超大型ボス『浸食の蛸呪』が安易に手を出せない海底に居るであろう事も考えれば、『理法揺凝の呪海』で移動できる範囲を広げるには、通常マップで行ったことがあるのが条件になりそうだ。
「じゃ、とりあえず『怒り呑む捨て場の呪地』に移動しましょうか」
『転移先の登録でチュね』
「そういう事ね」
私は『理法揺凝の呪海』から『怒り呑む捨て場の呪地』へ移動。
五寸釘の影響で侵入の際には若干の抵抗とダメージがあったが、それは無視できる範囲なので無視する。
「さて……」
『怒り呑む捨て場の呪地』に入った私はまずはヒトテシャの位置と様子を確認する。
ヒトテシャは……私の位置から3キロメートルくらい離れた場所で、ブロッコリー状の木を齧っているようだ。
私の存在に気付いているかは怪しいところだが、とりあえず戦闘状態ではないようだ。
ならば刺激しないでおこう。
「結界扉は何処かしらね?」
『エリアが広大でチュからねぇ……』
「呪詛の流れを見た方が早いかしら」
『かもしれないでチュ』
私は呪詛の流れを見てみる。
すると、『怒り呑む捨て場の呪地』の各地に時折ポツンとある岩山の陰に、呪詛の流れを感じた。
どうやら、岩山の陰、周囲から一見しただけでは分からないような場所に、結界扉または地上に繋がる道があるようだ。
と言う訳で、幾つかの結界扉を開けて、転移先として登録しておく。
『さて、これからどうするでチュか?』
「とりあえず適当なダンジョンを抜けて地上に移動。それから南の『ユーマバッグ帝国』に入れるなら入ってみましょうか」
『分かったでチュ』
私は掲示板を漁って、ザリアたちの現在位置を確認する。
一応『怒り呑む捨て場の呪地』に近づいてきているようで、今日中には到着する予定のようだ。
スクナたち火山組は既に辿り着いているはずだし……。
ヒトテシャの討伐が行われるのは案外早いかもしれない。
『で、このダンジョンを選ぶんでチュか』
「選ぶんでチュよ」
私は適当に道を選んで、途中で一度五寸釘による強烈な抵抗感を感じつつ、その先へと移動する。
そうして移動すること暫く、私の前に『怒り呑む捨て場の呪地』とは異なる様相のダンジョンが見えて来る。
「これ、私でないときついかもしれないわね……」
『たるうぃでも割ときついと思うでチュよ』
私が居るのは崖の上のような場所で、崖の下の空間には黄色い気体が貯まっており、硫黄臭が漂っている。
壁や天井は岩で、通路は縦長。
私は空を飛べるからいいとして、空を飛ばないで進むならガスマスクと防護服のような対策が必須のようだ。
「鑑定っと」
一応鑑定もしておく。
△△△△△
硫黄の風穴
とても濃い硫黄の臭いが漂う洞窟型のダンジョン。
息あるものが無策に進もうとすれば、息無きものとして進むことになるだろう。
呪詛濃度:12
[座標コード]
▽▽▽▽▽
≪ダンジョン『硫黄の風穴』を認識しました≫
「なんだか色々と懐かしい気がするわ……」
『本当でチュねぇ……』
こんなに呪詛濃度が低いダンジョンと言うか、あっさりとしたダンジョンを進むのは何時以来だろうか……。
いや、『岩山駆ける鉄の箱』があったから、割と最近か。
それでも結構久しぶりで、逆に新鮮味を感じてしまう。
とりあえず移動を始めよう。
『そう言えば、此処はダンジョンの最奥だと思うんでチュけど、ボスとか居ないんでチュか?』
「そう言えば……ああいえ、あそこに居るわね。硫黄の結晶を固めて作ったみたいなゴーレムが居るわ」
『あ、本当でチュ』
なお、ボスの硫黄結晶のゴーレムだが、私がカースである上に、奥の方から現れたためなのか、私の事を確実に認識しているにも関わらず、攻撃を仕掛けてくるようなことはなかった。
まあ、倒しても得るものは殆どないだろうし、挑んでこないならスルーでいいだろう。
そして、ボスが反応しないなら雑魚モンスターたちも……。
「「「ーーーーー!?」」」
「全力で逃げていくわね……」
『そりゃあそうでチュよ』
無反応と思ったら、全力で逃げていく。
壁にくっついていたトカゲや蝙蝠も、ガスの中に潜んでいたゾンビにゴーレムたちもだ。
んー、珍しい反応ではあるが、カースに対する反応としては、妥当と判断しておこう。
「さて外ね」
『でチュねー』
そうして、大した障害もなく私たちはダンジョンを突破し、ダンジョン入り口の結界扉を転移先として登録すると、ダンジョンの外に出た。
ダンジョンの外は何処かの火山の中腹だった。