490:ユーマバッグ-3
「まずは情報収集ね」
『それにしても、いったい何がそこまで不愉快なんでチュか。たるうぃ』
ヒトテシャが騎士の一人を踏みつぶし、そのダメージを押し付けられた雑兵が肉の塊に変えられる中、私は自分の呪詛支配圏で呪いがどう動いているかを認識する事に注力する。
「実のところを言えば、ダメージを押し付ける道具そのものは、称賛に値すると思っているわ。使い方は無限大と言ってもいいし」
『まあ、そうでチュよね。たるうぃが被弾して受けたダメージをマントデアに押し付けるだけでも有用でチュが、自分一人では払いきれないコストを全員で賄うとか、誰かに押し付けた上でその誰かが被ダメージを別の事に利用するとか、色々あるでチュからねぇ』
うん、だいたい分かった。
騎士や将軍が専用の道具を持っていて、雑兵たちは特殊な道具の類は持たされていない。
発動の瞬間には、ダメージを受けた騎士たちとダメージの押し付け先としてランダムに選ばれた雑兵との間に呪詛のラインが発生し、そのラインを通じてダメージを流す事で騎士たちは助かっている、と。
道具そのものは対象と効果の紐づけがされているようだから、数メートル離した程度では効果を発揮しそうな感じか。
やはり道具を壊すのが正解か。
「ブモウッ!」
「怯むな! 盾はまだまだ残っている! ひたすらに攻め立てるのだ!!」
「「「ーーーーー!!」」」
そうして私が調べている間にも、『ユーマバッグ帝国』の騎士たちはヒトテシャに切りかかり、大したダメージも与えられず、一切の防御なく反撃を受けて、自分の命の代わりに雑兵の命を散らせる。
それも一度や二度ではなく、何十度と。
「私が不愉快なのはね。そんな優れた道具を作り出していながら、やっている事が単純な突撃。人的資源を無駄遣いにするような、未知が一切ない上に既知の中でも下策としか評しようのないヒトテシャとは別方向のクソオブクソを見せつけられているからなのよ。アイツらがやっているのは、自分の命を舞台に上げず、安全圏から一方的に殴りつける行為であり、それ自体は否定するものではないけれど、工夫のくの字もないそれは評価に値しないものなの。それをやるなら、せめてもっと火力を上げろ。効率よく攻撃を仕掛けろ。雑兵たちが今後生み出していたかもしれない未知なるものを奪っているんだから、それ以上の未知を、成果を、上げろ。割と眠たい状態でこんな糞みたいなものを見せつけられたら、眠れるものも眠れなくなる。とりあえず『ユーマバッグ帝国』の騎士と将軍どもは……自分の命を舞台に上げて、その輝きを私に見せろ。気に入ったら手助けも考えてやる。『熱波の呪い』発動!」
『チュ……チュア……』
『熱波の呪い』発動。
原始呪術から『風化-活性』、『転写-活性』も発動。
火炎属性と呪詛属性の攻撃判定を持った呪詛の剣を数百本ほど生み出して、空に浮かべる。
「なん……あれは……」
「何が……起きて……」
「ふんっ!」
「「「!?」」」
そして一斉射出。
騎士と将軍たちが持っていた、押し付けの道具を破壊し尽くす。
「ブモウッ!」
「!?」
そこへヒトテシャの蹴りが騎士の一人に炸裂。
無防備な騎士が受けたダメージはそのまま騎士に伝わり、騎士の体は五体バラバラとなって吹き飛んだ。
「ブモウ……」
その姿を見てヒトテシャは微笑んだ。
ようやくつまらない物がなくなったかと。
「「「……」」」
騎士たちは恐れ慄き、明らかに怯んでいた。
「てっ……」
将軍は懐から何かを取り出そうとした。
その何かは使用した本人だけを安全圏まで退避させるものだと私は判断した。
「た……い?」
「つまらない真似をしてんじゃないわよ」
なので即座に破壊した。
押し付けの道具を壊して得た呪詛を『熱波の呪い』に盛り込んで、効率よく破壊させてもらった。
「ああ、これも破壊しておきましょうか」
「「「!?」」」
ついでに雑兵たちをその場へ縛り付けて囮にする目的を持っていそうな道具の発動も感知したので、それも破壊させてもらう。
つまらない既知の道具は……これで全部か。
「esaeler。さて、これで少しは楽しくなるかしらね」
「ブモオオオオオォォォォ!!」
「「「……!?」」」
『熱波の呪い』を解除。
ヒトテシャは積極的に動き回り始め、騎士たちと将軍を狙って蹴り飛ばし、踏みつぶしていく。
騎士たちの動きに見るべきものはなく、将軍たちも同様。
どうやら他人の命を盾にする事で、自分の命が保証されていなければ、戦いの場に上がる気もない連中だったようだ。
ゲームであることを理由に好き勝手している私が言える台詞ではないかもしれないが、実につまらない物だ。
「逃げろ! 逃げるんだ!」
「俺たちを縛り付けるものはもうない!」
「仲間の仇だ! 死ねぇ!!」
一方で雑兵たちの動きは積極的だ。
逃げ出すものが大半ではあるが、中には騎士たちにあの手この手で不意打ちを仕掛けてこれまでの怨みを晴らすものも居る。
後者は勿論すぐにヒトテシャによって焼き払われるのだが、何処となくヒトテシャも苦しまないように一気に焼いている気がするのは、私の気のせいだろうか。
まあ、その辺はどうでもいい事だ。
「ブモオオオオォォォ!!」
「女狐めえぇぇぇ! 何が勝利を約束する道具だ!」
「化け物が! 化け物がもう一匹いるなんて聞いていないぞ!?」
「やめ、やめ……ああああぁぁぁぁぁ!?」
ヒトテシャは『ユーマバッグ帝国』の軍を蹂躙していく。
少々気になるワードも聞こえてきたが、丁寧に、丹念に、騎士と将軍たちはこの場の土の一部に変えられていく。
そうして騎士と将軍たちを始末し終えたヒトテシャは逃げ出した雑兵たちの方を向く。
『あー、止めないんでチュか?』
「とりあえず鑑定するわ」
「ブモオオオオォォォ!!」
私はヒトテシャに向けて『鑑定のルーペ』を使用する。
△△△△△
『焼捨の牛呪』ヒトテシャ・ウノフ レベル30
HP:???/???
有効:なし
耐性:毒、灼熱、気絶、沈黙、出血、小人、干渉力低下、恐怖、暗闇、魅了、石化、質量増大、重力増大
▽▽▽▽▽
「あー、分かってはいたけど、私にとってはシベイフミクよりも厄介かもしれないわねぇ……」
『悉く耐性持ちでチュか……』
私がヒトテシャの鑑定結果を読んでいる間に、ヒトテシャは雑兵の集団へと高速で突っ込んだ。
頭、角、脚に引っかけられた雑兵は木っ端のように吹き飛ばされ、運よくそれを逃れても火炎放射によって焼かれ、仮にそれを凌げても散布される爆弾によって吹き飛ばされる。
あのヒトテシャの動きを見る限り、何かしらの方法で足止めしなければ、勝負にもならなさそうだ。
「とりあえずetoditna『毒の邪眼・3』」
なんにせよ不愉快な物は壊した。
と言う事で、この先は一応だが、私とヒトテシャの戦い。
勝負にはならないだろうが、一当てぐらいはしておこうと思い、『呪法・貫通槍』を乗せた『毒の邪眼・3』を放った。
「は? あー……」
『そう言えば『試練・火山への門』のボスはそうだったでチュねぇ……』
が、放った瞬間にヒトテシャの体の一部が深緑色に輝き、気が付けば私には毒(224)が入っており……毒の重症化によって私は呆気なく倒れて死んだ。
うん、呪術の反射能力を持っている可能性を忘れていた私が悪い。
≪条件を満たしたため、『焼捨の牛呪』ヒトテシャ・ウノフとの戦闘に敗北しました。境界の強化がされているため、フェーズの移行はありません≫
≪呪術『蠱毒-活性』を習得しました≫
『怒り呑む捨て場の呪地』の結界扉を探し、登録していなかった私は『ダマーヴァンド』に飛ばされた。
04/08誤字訂正
05/16誤字訂正




