489:ユーマバッグ-2
お昼時に読むのは控えた方がいいかもしれません。
「何と言うか、口にしたくないものをバラ撒いているわね」
「そういうカースだからな」
『焼捨の牛呪』ヒトテシャ・ウノフ。
その姿は、体高20メートル近い巨大な牛であり、体長も40メートル少々と言うところ。
毛皮は金属的な光沢を持っており、角は天を衝くように長く太い。
そして、体の一部は金属の毛皮どころか、鉄板そのものであり、背中や鼻からは黒煙のようなものが上がっている。
まあ、そんなヒトテシャの外見は問題ない。
問題はだ。
「ブモオオオオォォォ!!」
「「「ーーー!?」」」
お尻から、地面に触れると大爆発を起こす岩のような物体を出しつつ尻尾を高速回転させる事で行う、広範囲爆撃。
股間から足元に居る住民に向けて放たれる強烈な火炎放射。
口から黒い液体のような物を吐き出し、着弾してから10秒ほどで発火、見るからに体に悪そうな黒煙を噴き上げつつ、触れた相手を焼く攻撃。
体全体を激しく震わせる事で、周囲に真っ赤な炎と熱をばら撒く範囲攻撃。
そういう……微妙に不潔感が漂う多数の攻撃だろう。
うん、体重を生かした踏みつけ攻撃や、強烈な蹴り飛ばしもやっているが、そんなのどうでもよくなる程度にはアレである。
とりあえず接近戦はしたくない。
「話を戻すぞ。アイツらは『ユーマバッグ帝国』の軍隊だ。奴らの王からカースの討伐を求められて、どうやったのかは分からないが、5万人と言うとんでもない数でこの場にやってきて、勝負を挑んでいる」
「ふうん。手助けの類はしないの?」
「申し出たが断られた。どうやら奴らの思想としては、俺たちは蛮族であり、手助けなど不要だそうだ。いや、それどころか、俺たちの事も獲物としか見ていないようだったな。あの分なら、運よくカースを倒せれば、そのまま俺たちにも襲い掛かってくるだろう」
「へー。人の事を言えない蛮族っぷりねぇ」
『ユーマバッグ帝国』について説明するスクナは完全に岩山に腰を下ろし、観戦に専念する形になっている。
ヨシバルさんも同様だ。
とりあえず三角帽子の先を揺らし始めたザリチュの縁を少しだけ強めに摘まんで、位置を調整する。
「で、スクナが手を出さない理由は?」
「助けるなと言われたのに助けてやるほどのお人よしには、流石になれない。当たり前だろう」
「ふうん」
『ユーマバッグ帝国』の軍人たちはだいたい三階級ぐらいに分かれている感じか。
一番数が少ないのが、とてもよく目立つ、実用性よりも装飾性を優先したような鎧を身に着けた指揮官と思しき軍人。
次が実用性を重視したしっかりとした鎧と武器を身に着けた、騎士と思しき軍人で、恐らくは彼らが主力だろう。
で、一番数が多いのが粗末な武器と防具を持たせられた、数合わせとしか思えない軍人……いや、雑兵で、彼らは殆ど震えているだけだ。
「もう一つ質問。時々、攻撃を受けていないのに死んでいる雑兵が居るんだけど、心当たりは?」
「『ユーマバッグ帝国』の騎士や将軍たちは、自分たちが受けたダメージを他の人間に押し付ける道具を持っているらしい。恐らくはその効果だろう」
「へぇ……それはまた不愉快な道具ね」
ヒトテシャが騎士の一人を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた騎士は平然とした様子で着地するが、それと同時に雑兵が一人、確実に攻撃を受けていないと断言できる状態にあったのに、ミンチにされた。
騎士が攻撃を受けた瞬間、騎士と雑兵の間には呪詛によるラインのような物を感じたので、そのラインを作り出しているのが、スクナの言った道具だろう。
「情報ありがとう。もう死んでいいわよ。『かませ狐』」
「は?」
「へ?」
得たい情報はだいたい得たか。
と言う訳で、地面の下を通すように『呪法・増幅剣』を飛ばし、背後から突き刺したタイミングで目二つ分の『毒の邪眼・3』を動作キーで発動。
二人に180前後の毒を与え、重症化によってその場で動けなくさせる。
「なんで……バレて……」
「姿については騙されたわね。まるで分からなかったわ」
倒れた二人の姿が全く別のものへと変わっていく。
「でも、他が全然だったわね。とりあえず性格面の違いは致命的よ。スクナだったら、『ユーマバッグ帝国』の軍隊なんて気にせず、切りかかるわ。それと将軍辺りが邪魔をするなら、何かしらの方法で件の道具を破壊した上で、将軍を切り殺すでしょうね」
「ぐ……だから戦闘狂の真似は……」
「いずれにしても姿の模倣は素晴らしかった。そこは素直に称賛させてもらうわ。と言う訳で……恐怖して死ね」
「「!?」」
折角なので『恐怖の邪眼・3』も叩き込んで、最後の足掻きもさせず、恐怖で満たされた状態で死んでもらおう。
素晴らしい変身呪術だったからこそ、こちらも相応の手を取って始末するのだ。
喜んでもらいたい。
「チクショウ……」
「無理ゲー……」
と言う訳で、推定『鎌狐』の二人は始末した。
なお、敢えて明かさなかったが、私は『ユーマバッグ帝国』については既に知っている。
第三回イベントの時に、スクナから教わっているからだ。
ちなみに彼らの変装の致命傷は、話をしている時の姿勢。
スクナなら、攻撃に備えた座り方ぐらいは常にしているに決まっているからだ。
『で、此処からどうするでチュ? ようやく探り当てた情報によると、本物のスクナは現在ザリアたちと一緒にこちらへ向かっている最中らしいでチュが』
「そうねぇ……とりあえず不愉快な道具は壊しておきましょうか。アレを破壊されたらどうなるかはちょっと見てみたいわ」
『でチュかぁ。でもどうやって破壊する気でチュか?』
「ちょっと試してみたい方法があるから、それを試させてもらうわ」
私はゆっくりと『ユーマバッグ帝国』の軍に近づいていく。
そして、私の呪詛支配圏に軍の一部が入ったところで、仕掛けた。
04/07誤字訂正