487:シベイフミク・クカンカ-7
≪『継承の華呪』シベイフミク・クカンカが討伐されたため、リアル時間で24時間、『悲しみ凍る先送の呪地』にモンスターは出現しません≫
「さて、色々と聞きたそうね」
「そりゃあな」
シベイフミクとの戦闘が終わったと言う事で、私はとりあえずマントデアの方に飛んでいく。
なお、『太陽の呪い』の効果はもうしばらくは残っているので、逃走と言う手段は用いれない。
「だが、名称からして明かせる事項がそうあるとも思えないし、何も喋らなくても構わないぞ」
「んー……まあ、明かしておいた方がいい事項については明かしておくわ」
『まあ、幾つか明かしておいた方がいい情報はあるでチュよね』
私に対して喋らなくてもいいと言いつつ、マントデアは三つの手で他のプレイヤーたちを制止する。
こう言うところで無理強いしないのが、マントデアの良いところだと思う。
まあ、明かすべき情報は明かしておこう。
「名称は『禁忌・虹色の狂創』。分類上はザリチュが扱う呪術になるわ」
「つまり、その気になればゲイザリマンの直後に撃ち込むことも出来るわけか」
「効果は対象に罹っている状態異常の種類の数とスタック値の総和に応じたダメージ」
「それであの威力か。灼熱が約100万で、他にも色々と状態異常が入っていたから、きちんと数字に直したら、恐ろしいダメージになっていそうだな」
「なお、効果発動後に相手が生きていると、状態異常は全て解除されるわ」
「まあ、妥当だな。他のデメリットの内容も考えると……割とロマン枠か?」
「否定は出来ないわね」
マントデアの最終結論はやっぱりロマン枠になるか。
まあ、当然と言えば当然の結論だろう。
今の私は化身ゴーレムを失った上に、見るからに満身創痍な感じになっている。
今回はシベイフミクをきちんと倒しきれたからいいもの、もしも倒せていなかったら、灼熱の状態異常が解除されたシベイフミクは強烈な再生能力による回復を開始していたし、他の状態異常も解除されているので、戦線崩壊の可能性もあっただろう。
「勝手に使ったことに対するお咎めはないのね」
「自分でそう言うなら反省は頼む。まあ、火力面での心配はしてなかったな。あのタイミングで禁忌と名が付くような攻撃を使ったなら、シベイフミクの残りHPを消し飛ばすのに十分な火力があるとは思っていた」
「期待に応えられたようでなによりね。反省は……まあ、しておくわ。一応」
「一応か」
うんまあ、反省はしておく。
勝手な真似をしたのは事実なわけだし。
「ああそれとだ。次に使う時は事前通達が欲しいな。突然視界が白黒になった時は色々な物がバグったかと思ったぞ」
「あら? そうなの?」
「知らなかったのか?」
「ぶっちゃけ、さっきのが初使用」
「猛省しろ。タル。あの手の大技はちゃんと検証してから使ってくれ」
「いやー、うっかり検証の類をする機会を逸していたのよね……」
私はマントデアから目を逸らしつつ、少し思考。
突然視界が白黒にと言う事は、あの『禁忌・虹色の狂創』中のエフェクトは全員の視界に影響を与えていたと言う事だろうか。
となると具体的にはどこまで見えていたかだが……。
「視界が白黒になって、化身ゴーレムは紅く見えた?」
「見えたな。切断面と思しき場所の紅い線も、その後の全身が虹色に染まっていくのも見えた」
「へー、他のプレイヤーもそんな感じ?」
私の言葉に周囲にいるプレイヤーたちが頷き合う。
「何と言うか正に奥義って感じだったよな」
「いやー、個人向けRPG以外であんな演出が見られる日が来るとはな」
「ぶっちゃけかなりビビったけどな」
「運営の撮れ高ありがとうございます! 的な叫びが聞こえたなぁ」
「タルとはシベイフミクを挟んで真反対の位置、かつ300メートルくらい離れてても、きちんと演出に巻き込まれたぞ」
「掲示板を見る限り、他のマップでそういう話は出てないな」
なるほど、『禁忌・虹色の狂創』の演出は、使用したプレイヤーが居るマップ全域に及ぶのか。
そうなると、『悲しみ凍る先送の呪地』のように明確な境界がある場所ではなく、地上のように境界らしい境界があまりない場所で使ったら、演出がどうなるかが多少は気になるが……まあ、機会があればでいいか。
とりあえず演出の規模については、流石は『悪創の偽神呪』と思っておこう。
「さて、アーリマンキスとやらについてはこれくらいにしておくとして、シベイフミク戦の反省会をするためにも、そろそろ『ガルフピッゲン』に帰るとするか」
「「「おうっ!」」」
「あ、私はそろそろ『太陽の呪い』の効果も切れるし、『ダマーヴァンド』に直帰させてもらうわ」
「おう、今日はありがとうな。助かった」
「いえいえ、こちらこそよ。盾役のおかげで、今日はとても動きやすかったわ」
マントデアたちが隊列を組んで帰還していく。
なので私も帰ろうと思い、近くに呪詛を集めて、門を作る準備をする。
「む……」
『鑑定されたでチュね』
その時、私は不意に覗き見をされたような感覚を覚え、そちらへ敵意を返すと共に幾つもの視線を向ける。
そして、相手の視線の出元と思しき場所の呪詛を支配して、誰が仕掛けてきたのかを探ろうとした。
「居ない? 手応え的に爆散させた感じでもないんだけど」
『爆散させられなかったのは、身代わり人形の類があったからだと思うでチュが……姿が見えないのは不穏でチュね』
だが誰も居ない。
呪詛支配に引っかかった感じもない。
「『熱波の呪い』……esaeler」
一度怪しい場所を軽く炙っても見たが、反応は無し。
完全に逃げられたと言うか、化かされたようだ。
「どう見るべきかしら?」
『今のたるうぃをわざわざ狙う理由があるプレイヤーはそう多くないと思うんでチュよねぇ。おまけに直接攻撃ではなく、鑑定止まりだったでチュ。となると、あり得そうなのは……『鎌狐』でチュかね?』
「『鎌狐』ねぇ……」
『鎌狐』あるいは『かませ狐』。
そう言えばシベイフミク戦で狐耳の鎌使いを見かけたが……アレは流石に偶然の一致か。
だがまあ、実力のある『かませ狐』ならデンプレロの悪創を解除して、今回の討伐に参加していてもおかしくはないか。
そうなると目的は……今の最前線プレイヤーの実力把握辺りだろうか。
「ま、これ以上は気にしても仕方がないわね」
『でチュね』
私に対して直接何かを仕掛けて来るなら叩き潰すまでだが、周りに何かを仕掛けるなら、きちんと情報収集をしておいた方がいいか。
そんな事を考えつつ、『太陽の呪い』の効果も終わったので、門を開き、『理法揺凝の呪海』へと移動した。
04/05誤字訂正