481:シベイフミク・クカンカ-1
「さて、まずはクカタチにメッセージを送ってと」
『理法揺凝の呪海』に移動した私は、クカタチが生み出したかもしれない呪限無について確認のメッセージを送った。
で、『悲しみ凍る先送の呪地』へ向かう前に、サクリベスの北西、雪山、砂漠、草原、森の四つのエリアの境界が重なる点を何となく気になったので見に行く。
「んー……若干不安定になっているかしら?」
「他の三か所が落ち着いたから、それらのしわ寄せがやってきた感じでチュかね」
サクリベスの南西は私の『ダマーヴァンド』。
サクリベスの南東は誰かの新呪限無。
サクリベスの北東はI'mBoxさんの『白覆尽罠の呪界』。
これら三か所は複数のエリアの境界が重なる場所と言う事で、非常に不安定な場所だった。
そこへプレイヤーが手を加えることによって安定化が図られたのが現状。
だが、そうして三か所が安定したために、残る一か所、サクリベス北西は不安定化が少しだけ進んだようだ。
「でも、問題がある感じではないわね」
「そうでチュね。不安定と言う形で安定している気がするでチュ。矛盾しているようでチュが」
が、サクリベスの方へと呪詛が流れ込んでいく感じはなく、サクリベスの外から内へと流れ込もうとした不安定な呪詛は、『理法揺凝の呪海』の底の方へと真っ直ぐ流れ込んでいるように見える。
何と言うか、入り口が一つしかなくなったからこそ、その入り口に適切な処理施設を作る事で、効率よく処理が行えるようになった感じだろうか。
なんにせよ、これは放置しておいても大丈夫だろう。
「あ、メッセージが返ってきたでチュよ。たるうぃ」
「みたいね。どれどれ……そう、やっぱりクカタチが製作した呪限無だったのね。で、マナブと一緒に攻略中と」
クカタチの制作した呪限無の名称は『死沸焼徳の呪界』。
侵入した段階で見えたのは、熱湯の溜まった地底湖との事。
とりあえずは自分たちで頑張るとの事なので、応援のメッセージを返しておこう。
「ああ、やっぱり、あの視線はクカタチだったのね」
「つまりクカタチは『理法揺凝の呪海』に入って来れるんでチュね」
「一応はね」
なお、追伸で『理法揺凝の呪海』に入ったという話があった。
書かれている内容からして、仮称『裁定の偽神呪』にも出会っていそうな感じだ。
とは言え、此処を利用した転移を積極的に行うにはカース化が必須であるらしく、私のように利用できるのは少々先になりそうだが。
「じゃ、そろそろ『悲しみ凍る先送の呪地』へと向かいましょうか」
「分かったでチュ」
そうして『理法揺凝の呪海』でやる事を終えた私たちは、雪山エリアで最も目立つ星に触れて、『悲しみ凍る先送の呪地』へと侵入。
直ぐに鑑定もする。
△△△△△
悲しみ凍る先送の呪地
彼らは何時までも眠り続ける。
いつか花開く時を待ち望み、悲しみ続ける。
冷え切った心では苦難を乗り切れないと言って、先延ばしにする。
呪詛濃度:18 呪限無-浅層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
≪ダンジョン『悲しみ凍る先送の呪地』を認識しました≫
「寒いわね……ダメージが入るほどじゃないけど」
「雪でチュねぇ……1分に1ダメージくらいでチュか」
「現状でそれなら、カースと戦うのは厳しそうね」
「そうなるでチュね」
『悲しみ凍る先送の呪地』はマントデアから聞いていた通り、粉雪が降り続けている針葉樹林の山だった。
が、これだけでは正確な情報に欠けるので、出来るだけ正確に述べる。
「まず中心に『継承の華呪』シベイフミク・クカンカ」
「花を閉じて、休眠状態にあるようでチュね」
このマップの中心には『継承の華呪』シベイフミク・クカンカが居る。
青白い巨大な花が花弁をすぼませ、蕾のような状態で静かに佇んでいる。
だが、ただの花ではないことは明らかで、花も茎も葉も濃い呪いを纏っているし、花からは茎が三本生えているし、その三本の茎は分岐と合流を繰り返して、網の目のようになり、地表を覆う雪に突き刺さっている。
恐らくだが、雪の下にまで根を張り巡らせているだろう。
サイズは地上に出ている部分だけでも高さ十数メートル、花部分の直径は10メートルほどだが、蔓や葉の広がりは直径だと30メートルを優に超えるだろう。
「四方に針葉樹林の雪山」
「その外にマップの境界があるでチュね。正規ルートの入り口……いや、出口? まあ、そう言うのもその辺でチュかね」
そのシベイフミクを囲うように針葉樹林の雪山が四方に一つずつある。
マントデアの話では、この雪山の雪を利用して、シベイフミクは雪崩を引き起こすらしく、巻き込まれればほぼ確定で即死。
雪に埋もれないだけの体、氷結属性耐性、物理属性耐性が合わさっていれば、一応生き残れるらしいが……いずれも私には縁のない事だ。
また、雪山の雪の下には川や湖が隠れており、うっかり落ちると酷い事になるそうだが……こちらもまた、私には縁遠いか。
「で、マントデアの情報にはなかったものを感じるわね」
「気づいていないんじゃないでチュか。たるうぃの呪詛干渉能力があってこそ気づけるものだと思うでチュよ」
問題は雪の下。
シベイフミクの根が伸びている先にあると思しきものたち。
いずれも非活性状態と言うか、深い眠りについているような感じで、私でも一切の干渉が出来ないように凍り付いている感じだが、どれもかなりの危険物であるように感じる。
もしかしなくても、これがシベイフミクが継承したものだろうか。
そして、先送りにされたものではないだろうか?
「一応、マントデアにメッセージを送っておくわ。『シベイフミクが継承した物についての情報はある?』ってね」
私はマントデアにメッセージを送り、マントデアからの返信は直ぐにあった。
答えは『そういう情報はない』と言うシンプルな物だった。
「んー……『太陽の呪い』を使う時は、地上への影響を考えた方がいいのかもしれないわね」
「そうでチュね。『太陽の呪い』は100メートル下まで影響範囲。雪上から地表までは深いところでも数メートルがやっとでチュ。この場で使ったら、確実に雪の下にまで影響が出るでチュ」
警戒をしておいて損はない。
そう思いつつ、とりあえず『悲しみ凍る先送の呪地』の結界扉の登録を済ませておいた。
さて、明日は討伐だ。