480:ガルフピッゲン-2
「あ、そう言えばダンジョンの鑑定とかしてもいいかしら」
「構わんが、特に面白い記述の類はないぞ」
「未知を知れるから問題はないわね」
「そうか」
とりあえずマントデアから許可がもらえたので、このダンジョンの鑑定をする。
△△△△△
マントデア前線基地
雪深い地に現れた鋼鉄の城塞。
稲妻を利用した防護はいったい何者と対峙する事を考えた物なのか。
いずれにせよ、北の地においては楽園のような安寧がある数少ない場所だろう。
呪詛濃度:12
[座標コード]
▽▽▽▽▽
≪ダンジョン『マントデア前線基地』を認識しました≫
「この名称はどうなのよ。マントデア」
「元の名前が微妙だったからとりあえず変更したんだが、どうにもいい名称が思いつかなくてな……。何か思いついたら提案してくれてもいいぞ」
「ちなみに元の名称は?」
「『電気用いる暖房の砦』」
「『マントデア前線基地』のが確かにまだマシでチュね……」
「性能極振りで名前が死んだダンジョンだったのね……」
『マントデア前線基地』と言う名前はどうかと思ったが、これは仕方がない、うん。
確かにまだマシだ。
だが、もう少しやる気が出るような名前でもいいだろう。
「じゃあ『ガルフピッゲン』で」
「由来は?」
「スカンディナヴィア山脈の最高峰よ。スカンディナヴィア山脈はヨトゥンヘイム山脈とも呼ばれているわ。で、ヨトゥンヘイムは霜の巨人と丘の巨人たちが住む国で……」
「なるほど。どうしてかウチは巨大化の類を取得しているプレイヤーが多いし、丁度いいか」
マントデアが虚空で指を動かし、何かを弄る。
で、弄り終わったところで 再度鑑定してみると、ダンジョンの名称が『ガルフピッゲン』に変更されていた。
気に入ってもらえたようで何よりである。
「適当に座ってくれ」
「分かったわ」
「分かったでチュ」
そして、そんなことをしている間に談話室のような場所につき、マントデアはその巨体に見合った玉座のような椅子に座り、私と化身ゴーレムもマントデアと対面する形で普通サイズの椅子に座る。
「さて、これがシベイフミクと戦う予定のプレイヤーに渡している身代わりアイテムだ」
「鑑定させてもらうわね」
「ああ、しっかり読んでくれ」
部屋の中に小さな石で出来た人形を持ったプレイヤーが入ってきて、私たちの前にそれを置くと共に、譲渡の申請を出してきたので、私たちはそれを受け取る。
で、早速鑑定させてもらう。
△△△△△
呪地の身代わり石人形1番
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:5
石で出来た小さな人形。
所有者の身に装備破壊効果を持つ攻撃が迫った時に、装備破壊効果のみを、一度だけ身代わりとなって防ぎ、砕ける。
誰でも使える代わりに石の採取地点でしか効果を発揮しない。
注意:身代わりの効果を持ったアイテムを複数所有している場合、条件を満たしたアイテムは全て同時に使用されます。
注意:『悲しみ凍る先送の呪地』でしか効果を発揮しません。
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呪地の身代わり石人形2番
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:5
石で出来た小さな人形。
所有者の身に装備破壊効果を持つ攻撃が迫った時に、装備破壊効果のみを、一度だけ身代わりとなって防ぎ、砕ける。
誰でも使える代わりに石の採取地点でしか効果を発揮しない。
注意:身代わりの効果を持ったアイテムを複数所有している場合、条件を満たしたアイテムは全て同時に使用されます。
注意:呪地の身代わり石人形1番を所有している時は効果が発揮されません。
注意:『悲しみ凍る先送の呪地』でしか効果を発揮しません。
▽▽▽▽▽
△△△△△
呪地の身代わり石人形3番
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:5
石で出来た小さな人形。
所有者の身に装備破壊効果を持つ攻撃が迫った時に、装備破壊効果のみを、一度だけ身代わりとなって防ぎ、砕ける。
誰でも使える代わりに石の採取地点でしか効果を発揮しない。
注意:身代わりの効果を持ったアイテムを複数所有している場合、条件を満たしたアイテムは全て同時に使用されます。
注意:呪地の身代わり石人形2番を所有している時は効果が発揮されません。
注意:『悲しみ凍る先送の呪地』でしか効果を発揮しません。
▽▽▽▽▽
「凄く優秀な装備品が出てきたわね……」
「その誉め言葉を聞けただけでも、基地の……『ガルフピッゲン』に詰めてる生産職連中は涙を流すぐらい喜ぶだろうな」
「いや実際これ、かなり優秀でしょ」
「でチュね。これは便利でチュよ」
呪地の身代わり石人形。
防げるのは装備破壊効果のみで、ダメージはそのままと言うのが難点として挙げられるかもしれないが、それを補って余りある性能をしている。
なにせこの石人形は、以前私が作ったことのある身代わりアイテムと違って複数個所有して、複数回防ぐことが出来る身代わりなのだから。
おまけに作成者以外にも使用可能。
場所の限定も道中の事故で使用してしまうパターンの防止になるので、悪くはない。
『継承の華呪』シベイフミク・クカンカの装備破壊専用の対策として考えるならば、極めて優秀な部類と言えるだろう。
「ちなみに俺のように的がデカい奴や、タンク組は10番まで持っている。まあ、そこまで来ると、利便性の代償として、頑張って自作をしなければいけなくなるわけだが」
「へー」
ついでに言えばだ。
たぶんだが、これを量産した生産職は他の土地でも同じようなアイテムを作り出せるように理論を確立している可能性が高い。
今回のような超大型ボスの攻略だけでなく、厄介なダンジョンの攻略にも使えそうなこの技術の保有者は、今後どこに行っても大歓迎される事間違いなしだろう。
うん、敵対はしたくないので、マントデアにはきちんと囲っておいてもらおう。
「マントデア。対価として欲しい物とかある?」
「石人形自体はボス戦に参加してもらっているプレイヤー全員に渡している物だから、対価は要らないぞ。今後の付き合いという話なら……『ガルフピッゲン』は周囲の環境の都合上、光熱費で呪詛の資金繰りがキツイ。ぶっちゃけ、ダンジョン単体で見るなら赤字だ。と言う訳で、物資よりは融資が欲しいな」
おっと『ガルフピッゲン』はダンジョンとしては自転車操業だったのか。
恐らくだが、周囲のダンジョンを攻略して、そこで得たものをDCに変換する事で、ダンジョン内部の熱や明かりを確保していた感じか。
「分かったわ。とりあえず5万DCぐらいは贈っておくわね」
「助か……質の都合で10万DCぐらいに変換されたんだが……。うわ、容量が……大丈夫かこれ。えーと、大丈夫そうだな。いやまあ、おかげで一月は外部からの補給が要らなくなったし、色々と手を回せるが……」
「私にとっては割と簡単に稼げる額だから安心して」
「お、おう、そうか。とりあえずウチの生産職たちには、タルの支援があったし、出来るだけの手助けをするようにと言う形で伝えておく。実際、今回以外で機会があるのかは分からないが」
「この石人形を作れるなら、何処かであるわよ。間違いなくね」
「そうか」
とりあえず後で泡沫の世界を幾つか攻略して、DCを回収しておくか?
いや、5万ぐらいなら、放っておいても勝手に貯まりそうか。
「じゃ、打ち合わせの方もしていきましょうか」
「そうだな」
その後、私とマントデアはシベイフミク戦についての打ち合わせをした。
そして私は『ガルフピッゲン』の結界扉の登録を済ませると、『理法揺凝の呪海』へと移動した。
『電気用いる暖房の砦』→『マントデア前線基地』→『ガルフピッゲン』