48:ベノムラードアフター-2
「さて、解体ね」
『チュー……チュッ!?』
セーフティーエリアに戻った私はベノムラードの死体を毛皮袋から取り出すと、床に毒鼠の三角帽子を置く。
これから流れ出る物を無駄にする気はないからだ。
と言う訳で解体開始。
「モグモグ……」
ベノムラードの皮を剥ぎ、血を垂れ流して三角帽子に吸わせ、肉は食べ、骨は出来るだけ綺麗にして並べる。
また、爪や尻尾と言った特別なパーツも、可能な限り回収しておく。
内臓は……脳以外は駄目か。
ベノムラードが頭に着けていたティアラも消失してしまっているな。
仕方が無いので、ベノムラードの血を吸って真っ赤に染まった三角帽子にベノムラードの脳を擦りつけて、塗り込んでいく。
なお、ベノムラードの肉は有毒で食中毒も起こしたが、普通のネズミの肉に比べて美味しかった。
強いモンスターの方が肉は美味しくなると言う事だろうか。
今後の『CNP』内の食事にも希望を持てそうだ。
≪称号『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『暴飲暴食・2』を獲得しました≫
「モガッ!?」
なんか解体終了と共に称号が三つも手に入ってしまった。
いや、上位称号だから上書きのようだ。
とりあえず内容は確認しておく。
△△△△△
『毒を食らわば皿まで・2』
効果:経口摂取した毒の効果が弱まる(小)
条件:有毒の食べ物を一定量以上食べる
毒があろうがなかろうが食えることには違いないのだから問題は無い。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『鉄の胃袋・2』
効果:食中毒の効果が弱まる(小)
条件:食中毒を起こす食べ物を一定量以上食べる
腹を壊して死ぬのと飢えて死ぬのならば、私は前者を取るね。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『暴飲暴食・2』
効果:満腹度を直接低下させる攻撃に耐性を得る(小)
条件:満腹度がMAXの状態で一定量以上食べる
食べたものはどこに消えているんだろうなぁ。
▽▽▽▽▽
「まあ、悪くは無いわね」
ついでに『鑑定のルーペ』で解体したベノムラードのパーツを鑑定していく。
とは言え、テキスト含めてだいたいは他のネズミたちのパーツと変わりはない。
これは質の類を表す項目が『CNP』には存在しないためだろう。
△△△△△
『毒鼠の首魁』の毛皮
レベル:7
耐久度:100/100
干渉力:110
浸食率:100/100
異形度:10
『毒鼠の首魁』ベノムラードの毛皮。
深緑色の斑点を持った灰色の毛皮は、鋭利な刃物であっても意志を持って振るわれなければ傷つくことは無いだろう。
▽▽▽▽▽
「んー、とりあえずは毒鼠の三角帽子の改良と尻尾の処理を優先しましょうか」
まあ、干渉力が多少高めなせいなのか、見た目以上に重かったり、刃が通りづらかったりはするが。
「ふんふふん」
私は毒鼠の三角帽子に『毒鼠の首魁』の骨と名前が付いているベノムラード各部の骨を垂れ肉華シダの蔓を利用して貼り付けていく。
帽子の縁や鍔には肋骨、頭が填まる部分には下顎の骨を削ってサイズを合わせた物、とんがり部分には背骨と言う具合だ。
そして呪怨台に乗せるわけだが……まあ、私が思い描いている通りの物を作るとなったら、まず間違いなく、此処からの製作は呪術『毒の魔眼・1』の杯のような特殊なアイテムになる事だろう。
「だからこそ面白い。だってそれは未知なる物を作り上げると言う事なのだから」
私は呪怨台に真っ赤に染まった毒鼠の三角帽子を乗せる。
すると勢いよく赤と黒と紫の霧が集まっていく。
「私は共にあるものを求めている」
13の目が霧の球体へと向かう。
「だがそれは唯々諾々と従うだけの下僕ではなく、役目を解して我と共に並ぶ従者である」
複雑な幾何学模様が幾つも生じて、セーフティーエリアの中を満たしていく。
「汝が名はザリチュ。熱たる我と対為す渇き」
霧が幾何学模様に従うように飲み込まれていく。
私のHPも僅かではあるが削り取られていく。
それは不快感を伴う物だった。
「顕現せよ。顕在せよ。汝、対為す者の前に現れよ」
気が付けば『毒の魔眼・1++』が霧の球体に向かって放たれていて、目からは深緑色の光が放たれていた。
しかし深緑色の光は直ぐに掻き消され、霧の球体に呑み込まれていく。
「来たれ、我が片割れ」
そして、霧の吸収が一瞬だけ止まり……次の瞬間には暴風がセーフティーエリアの中で吹き荒れた。
「ふう、完成ね」
≪称号『意志ある道具』、『称号を持つ道具』を獲得しました≫
現れたのは綺麗な蘇芳色で染め上げられた三角帽子。
製作に使った骨は綺麗に消えている。
デザイン自体は毒鼠の三角帽子とまるで変わらないが、放っている威圧感のようなものは明らかに濃くなっている。
いや、よく見れば、三角部分に目や口っぽい折れ目もあるか?
なんにせよ、私は一応鑑定を行っておく。
△△△△△
『鼠の奇帽』ザリチュ
レベル:10
耐久度:100/100
干渉力:110
浸食率:100/100
異形度:10
『毒鼠の首魁』ベノムラードの素材を用いて作られた三角帽子。
自己意志を持っており、勝手に動き、鳴き、嗅ぐが、使い手以外には聞こえず、望めばたぶん静かにはなる。
微弱ながら物理耐性、毒耐性を有しており、外部からのこれらの力に強くなる。
非生物でありながら動き回るため、ある種のゴーレムでもあるが、成長の余地も存在する。
注意:着用中火炎耐性が低下する(小)
注意:この帽子を低異形度のものが見ると嫌悪感を抱く(小)
▽▽▽▽▽
「う……レベル不足」
私の今のレベルは8。
ザリチュの着用許可レベルは10。
『CNP』では別にレベルが足りなくても着用は可能だが、デメリットが生じることになる。
しかし、ベノムラードとの戦いで上がったばかりなので、私のレベルは暫く上昇を見込む事は出来ないだろう。
「まあいいわ。付けてあげる」
が、せっかく作った物を着けないのもどうかと思い、私は多少重く感じるザリチュを頭に被る。
そうして身に着けた瞬間。
「重……っ!」
私は思わずそう言ってしまうと共に、前のめりになってしまう。
どうやらレベル不足なために、重量が増しているらしい。
あ、低異形度のものに見られたら嫌悪感とかはどうでもいいです。
私自身がそうだし。
むしろ称号っぽい『鼠の奇帽』の方が気になる。
『チュッチューたるうぃーチュー』
「ああ、喋れるのね。ただ、私の名前ぐらいかしら」
『チュッチュー』
まあ、重さにはいずれ慣れるだろうし、私のレベルだってその内上がるだろう。
私はザリチュに応えつつ、姿勢を立て直す。
≪称号『蛮勇の呪い人』を獲得しました≫
「あ、称号がまた増えた」
『チュー』
何かが獲得条件に引っ掛かったようだ。
私は先程得た二つの称号と一緒に鑑定を行う。
△△△△△
『意志ある道具』
効果:効果なし
条件:一定レベル以上の自己意志を有するアイテムを手に入れる。
勝手に動き回る道具を、道具と言っていいものなのだろうか。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『称号を持つ道具』
効果:効果なし
条件:称号を持った特別なアイテムを手に入れる。
珍しい品だ。だが使えるかどうかはまた別だと覚えておくといい。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『蛮勇の呪い人』
効果:効果なし
条件:一定条件以上にレベル不足のアイテムを使おうとする。
私が使いたいから使うんだ! 呪いなんて関係ない!
▽▽▽▽▽
「どれも効果なしの記念称号か。まあ、損が無いならいいか」
『チュッチュー』
続けて『鼠の奇帽』と言う称号も鑑定可能なようなので、そちらも鑑定してみる。
△△△△△
『鼠の奇帽』
効果:効果なし
条件:不明
ザリチュと名付けられた三角帽子に与えられた称号。
奇帽の名に相応しく、奇妙な性質を有している。
▽▽▽▽▽
「さて、次は尻尾と……この毒受け袋ね」
称号には特に効果は無いようだ。
なので、興味を失くした私はベノムラードの毒を溜め込んだ毒受け袋とベノムラードの尻尾を手にした。
ログアウト前に、この次まではやっておきたいのだ。
△△△△△
『呪限無の落とし子』・タル レベル8
HP:1,070/1,070
満腹度:100/100
干渉力:107
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』
呪術・邪眼術:
『毒の魔眼・1++』
所持アイテム:
毒噛みネズミの毛皮服、『鼠の奇帽』ザリチュ、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ネズミの塔』
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