478:現実世界にて-17
「12時になったわね」
「そうですね」
本日は2019年8月26日月曜日。
と言う訳で、芹亜と大学で会っている。
そして『CNP』の公式サイトを見ている。
更新は……あった。
「第4回イベントは『空白恐れる宝物庫の悪夢』ね」
「今回のイベントもまた濃さそうですね……」
第4回イベントの名称は『空白恐れる宝物庫の悪夢』。
開催日時は約二週間後の9月8日、12時開始の17時終了、ゲーム内時間で5日間。
なお、当日の11時からイベントの交流マップにログインできるようになり、イベント終了後も18時までは通常マップにはログインできない。
ちなみにイベント内容との兼ね合いか、今回はアイテム交換会は無し。
「……。概要を見る限りでは、生産職向けのイベントになるのかしら?」
「基本はそうなると思います。色々と厄介な事が書かれていますけど」
では、内容を噛み砕き、箇条書きにしていこう。
まずは目的と基本ルールに近い部分。
・プレイヤーは特設のイベントマップで素材を集めて、アイテムを制作、提出し、そのアイテムに対する評価によってイベント終了後に様々なアイテムに交換出来るポイントを得る。
・ジャンルは全部で六種類……武器、防具、薬、道具、料理、芸術であり、各ジャンルにつき一つずつアイテムの提出が可能(ジャンルエラーに注意!)。
・提出アイテムの変更は期間中に何度でも行える。
・アイテムの提出を行った際に仮評価を貰えるので、参考にする事。
・本評価がされるタイミングはイベント終了時点のみ。
・アイテムの評価を行うのは専門のNPCである。
・特設のイベントマップで得た素材は、同じく特設のイベントマップで得た素材としか組み合わせることが出来ない。
・生産設備は各自が普段使っている物を基本とした専用設備が使用可能。
「厄介事ねぇ……まあ、期間中に素材の回収からしろと言うのは厄介な部分よね」
「そうですね。それも厄介です」
まあ、基本は素材を回収して、アイテムを作ろうというイベントだ。
どういうアイテムが高評価を得られるかは始まってみないと分からないが、基本的には強力なアイテムを作れば、それで問題はないだろう。
「それも……ああ、この点ね」
「ええ、この点が最大の厄介な点と言っていいです」
問題はこのルール。
・プレイヤーはイベント開始と共に三人一組のチームを組むことになる。
・チームを組む相手は各プレイヤーの戦術面と性格面の両方を考慮して、AIがランダムで選出。
・なお、悪創所有者は、同じレベルの悪創持ちとしか組めない。
つまり、見ず知らずのプレイヤーと組んで、アイテムを作れと言う点だ。
これが本当にきつい。
一人が音頭を取って、早々にどんなアイテムを作るのかを定められればかなり楽になるが、それが出来なかった時の惨事は推して知るべきだ。
「あ、依頼システムに自動製作なんかもあるのね」
「前者は交渉役の腕が求められますし、後者は質と引き換えですけどね」
なお、戦闘専門、生産専門のプレイヤーで固まってしまった場合に備えて、あるいは得意分野の都合を考えてか、素材の加工やアイテムの制作を他のプレイヤーに依頼するシステムがある。
対価として本評価で得られるポイントが幾らか割られることになるようだが、これは確かに必要なシステムだろう。
自動収集、自動製作のシステムは……ぼっち救済と言うか、まあ、最低限でもいいから出したいプレイヤー向けか。
「……」
「……」
で、イベント概要を最後まで見た私と芹亜は気づいてしまった。
「これ、本番はこっちと言う事かしら」
「ある意味ではそうかもしれませんね」
其処にはこう書かれていた。
・イベント中に入手した素材と、制作されたアイテムはイベント終了と共に、未提出のものも含めて、全て回収されます。
・回収されたアイテムは9月22日開催予定の第5回イベント『盗賊恐れる宝物庫の悪夢』にて、報酬として配備される予定です。
今回のイベントは実質前哨戦。
後半イベントで手に入れたいものがあれば、前半イベント中に自分で作って、宝物庫に回収させればいい。
運営の、俺たちが君たちの欲しいアイテムを用意できないと言うのなら、自分でご褒美を作って奪い取れ、何て感じの思惑が透けて見えるようである。
だが同時にこうも思う。
「絶対に罠アイテムを仕込むプレイヤーが出てきますね。これは」
「本人にとっては罠でも何でもないパターンもありそうよね。それ。異形度20以上対象とかで」
「さて、何の事でしょうか?」
「今から第5回イベントが恐ろしいわね……」
ご褒美じゃなくて、罠を仕込むのもありですよね、と。
うんまあ、芹亜は不安そうにしているが、大丈夫だ、問題ない。
ちょーっと異形度19以下のプレイヤーが手にしたら、大量の状態異常に襲われる装備品とか作っておこうかなと思っているだけだから。
「ところで芹亜はアイテム作成って出来るんですか?」
「羽衣ほどじゃないけど一応は出来るわよ。武器や投擲具なんかは自作だし。他の皆も何かしらは出来るでしょうから、生産職と組めなくても最低限以上は行けると思うわ」
「なるほど」
最後に素材回収について。
素材を得られる特設のイベントマップは2種類存在しているようで、それぞれ特色があるのだ。
一つはこれまでにプレイヤーが得た事のある素材が、素材に関係あるモンスターとの戦闘と引き換えに得られるもの。
こちらは他のチームが入ってこれないエリアで各自行う。
もう一つは何が出て来るか分からないマルチエリアで、プレイヤーが得た事がない素材が出てくる可能性がある代わりに、こちらのエリアで他のプレイヤーにキルされると、アイテム作成に使える素材を奪われることになるようだ。
しかも、こちらは一度入ったら、最低一時間は脱出できない制限付きである。
どんなマップなのかは分からないが、激戦になる事は間違いないだろう。
「どんなアイテムが作れるか楽しみですね」
「そうね。ちょっと楽しみだわ」
なお、今回のイベント。
イベント中に作ったアイテムは持ち出せない仕様になっているが、作ったもの次第では結果的に持ち出せることになるのではないかと思っている。
その為には相応の素材が必要になるわけだが……まあ、今はまだ可能性の一つとして、考えておくに留めよう。
01/29誤字訂正