475:フェイクサン-4
「で、どうして『熱樹渇泥の呪界』なんでチュか?」
「今の荒れ狂っている『熱樹渇泥の呪界』で通じるなら、雪山のカース討伐でも通じると思わないかしら? と言うより、飢渇の泥呪の波くらいどうにか出来ないようなら、カースが起こしている吹雪への対処なんて出来ないと思うわよ」
「まあ、それもそうでチュね」
『熱樹渇泥の呪界』は大いに荒れ狂っている。
飢渇の泥呪が高さ数百メートル規模の大波となって行き交い、熱拍の樹呪の樹冠上に居る私たちにも時々飛んでくるほどだ。
「掲示板の状況は……ふうん」
「何をしているんでチュか?」
ただ、そんな状況でも『熱樹渇泥の呪界』にやってくるもの好きは居るようで、飛べないプレイヤー向けの足場に『ダマーヴァンド』から入って来ては波に飲まれるプレイヤーの姿が時々見えている。
なお、中には飢渇の泥呪の波でサーフィンをしているっぽい強者の姿も見える。
波に乗れても、直ぐに喉枯れの縛蔓呪によって引きずり落されているが。
「ライブ配信を開始するわ」
「いいんでチュか?」
「ネツミテの強化が上手くいっていた場合、マントデアたちへ見せる事になるんだから、遅かれ早かれの案件よ」
では、やるべき事をやるとしよう。
私はライブ配信を開始すると、掲示板へ書き込みをしてから、ネツミテの鑑定結果を表示させる。
「ではまずは錫杖形態」
私はネツミテに向けて錫杖の姿になれと念じてみる。
すると周囲の呪詛が私の手元に集まってきて、杖の形で実体化、私はそれを掴む。
とりあえず実体化までに1秒ほどかかったので、緊急のガードには使えないと考えておこう。
「結構大きいわね」
「全長はたるうぃの身長と同じくらいでチュね。先端部はたるうぃの頭と同じくらいでチュか」
さて、錫杖形態のネツミテの見た目だが、持ち手は僅かに虹色がかかった黒、先端は中央に赤い宝石があり、それを囲うように銀色の四重円がある。
で、銀色の四重円からは三本の呪詛の紐が下がり、紐の先には銀と蘇芳色で彩られたデンプレロの尾の先に似た打撃部がある。
そうしている間に銀色の四重円の内、内側の三つの円が縦横斜め、自由自在に回転し始める。
その動きに呪詛の紐が引っかかったりしないかと思ったが……呪詛の紐は触れさせたいと私が思った相手にしか触れないようになっているようで、おまけに私の意思次第で多少は紐の長さや軌道を弄れるようだ。
うん、色々使えるような気がする仕様だ。
「じゃあ、本番は此処からね」
「でチュね」
私はネツミテを錫杖形態から指輪形態に変化させると、ネツミテが持つ二つの呪術を鑑定して、データを表示する。
△△△△△
『太陽の呪い』
レベル:30
干渉力:130
CT:30s-0.5s
トリガー:[発動キー]
効果:発動地点から、水平方向:半径1,000m、下方:100m、上方:3,000mの円柱状の空間を対象に効果発動。1時間、対象空間の気温上昇、湿度低下、低質量物質の除外、昼間と同程度の光量確保を行う。
照り付ける太陽、雲一つない空、乾ききった風。
これこそが我が領域、砂漠が如き世界、ひれ伏し屍を晒せ。
注意:使用する度に最大満腹度の50%分だけ満腹度が減少する。
注意:発動すると、1時間、発動地点から100m以上離れる事が出来なくなる。
注意:発動中に移動制限範囲外へ何かしらの方法で出た場合、効果時間が終わるまで、一切の身動きが取れなくなる。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『熱波の呪い』
レベル:30
干渉力:125
CT:1s-60s
トリガー:[詠唱キー]
効果:発動後に操作を開始した呪詛が火炎属性と呪詛属性の攻撃判定を有するようになる。
我は猛る炎が如き呪いをその身に纏う。
見よ、見よ、見よ、汝を焼き、呪い、蝕む、悪魔の炎の波を。
注意:使用中、1秒ごとにHPが10減少する。
注意:使用を中止するには[詠唱キー]を唱える必要がある。
▽▽▽▽▽
「んー……それじゃあまずは『太陽の呪い』から行きましょうか」
「分かったでチュ」
確認完了。
私が求めていたものは『太陽の呪い』になりそうなので、まずはこちらを確かめよう。
「とうっ」
「チュアッと」
と言う訳で、チャージを開始しつつ、熱拍の樹呪の樹冠から飛び降り、飢渇の泥呪の波の真っただ中へと移動する。
ちなみにネツミテの呪術のチャージ状態は、指輪の上に円状のゲージが表示される形のようだ。
「『太陽の呪い』!」
ある程度降りたところで、私は設定された発動キーに従い、右手を天高く掲げつつ詠唱。
『太陽の呪い』が発動し、私の右手から炎の球が上空に向かって飛んでいく。
「おおっ」
「これはすごいでチュね」
そして炎の球が上空で爆発した瞬間。
効果範囲として規定された範囲内が強い日差しで満たされると同時に熱せられ、乾燥し、範囲内に居た飢渇の泥呪が範囲外へと押し出されていく。
その力は中々に強いようで、熱拍の樹呪の樹冠に届く規模の波ですら、『太陽の呪い』の領域に入った途端に散っていくようだった。
「あっ、マントデアからのメッセージね。ふむふむ……これなら問題なさそうなのね。何よりだわ」
と、私のライブ配信を見ていたらしいマントデアからメッセージが来ていたので、反応しておく。
うん、目的のものが無事に出来ていたようで何よりだったが、そこに目標を実際に見た事がある人物からの保証までついて何よりである。
「そこが限界でチュか?」
「みたいね。あー……私視点だと赤い半透明の壁があるように見えるわね」
「ざりちゅには何も見えていないでチュね」
一応、移動制限についても確認しておく。
どうやらきっちり100メートルの球体状に移動制限の境界が張られているようで、この状態では『理法揺凝の呪海』へ転移するための門を開くことも出来ないようだ。
まあ、半径100メートルも逃げれる範囲があるなら、大規模範囲攻撃以外は避けれるだろう。
「モグモグ……。さて、もう一つの方を確かめましょうか」
「分かったでチュ」
斑豆を食べて満腹度を回復する。
HPの量に問題がない事も確認。
的として丁度良さそうな毒頭尾の蜻蛉呪が向かって来ているのも認識した。
では、もう一つの呪術を使ってみよう。
「『熱波の呪い』」
そして私は呪術を発動した。
03/24誤字訂正