466:リベンジカースズ-1
「さて、今日からは雪山のカース対策を本格的に考えていきましょうか」
「でチュね」
さて金曜日である。
マントデアからの連絡は……装備破壊の身代わりアイテムは出来たので、それを量産して、参加者全員に配る予定のようだ。
また、装備破壊攻撃の正体についても、特別な氷を用いた攻撃であると判明し、使用頻度を減らせるギミックの発見も出来たとの事。
なので、残る大きな問題はホワイトアウト対策のようだ。
「うーん……私とザリチュが活躍しやすい環境って要するに、夏ぐらいの気温で……」
「乾燥しているのも必要でチュねぇ……」
「照明無しの状態に対処するなら光源としての機能もいるわね……」
「つまり、真昼の砂漠が理想環境でチュね」
「まあ、そうなるわね」
と言う訳で、ザリチュと検討。
まあ、以前にも話し合った気がするが、やはり天候を雲一つないような晴れに変えてしまうアイテムが理想だろう。
「となると材料としては、熱拍の樹呪の果実、デンプレロの素材、持ち運びを考えるならズワムの素材も欲しいかもしれないわね」
「太陽を持ち運ぶような事になりそうでチュからね。普通の素材だと燃え尽きそうでチュから、ズワム素材を使うのは正解だと思うでチュよ」
となれば最終形は『熱樹渇泥の呪界』の中心にある太陽を模したようなアイテム。
アレは熱拍の樹呪の果実から得られるエネルギーによって、より活性化される性質を持っていたはずなので、それを考えれば、熱拍の樹呪の果実は必須であり、核とするべきだろう。
で、乾燥の促進や天候変化の能力を持ってそうな素材となると、デンプレロの素材が挙げられる。
そして、この二つの素材に釣り合って、色々と調整が効きそうな素材となると……まあ、ズワム素材だ。
何処かの糞雑魚海月の素材も局所的になら使えるかもしれないが。
「んー……デンプレロとズワムの再討伐に、どうせなら糞雑魚海月の再討伐もやりましょうか。ソロ討伐もしてないし」
「カロエ・シマイルナムンの素材なんて使えるんでチュか?」
「歯ぐらいなら使えるんじゃない? 後、特別なリスクなく撃ち込める呪術で何処まで出せるかも確認してみたい」
「あ、そういう理由なら賛成でチュ」
と言う訳で本日の活動開始。
いつも通りの作業と確認をしていき、『理法揺凝の呪海』サクリベス周辺エリアに移動する。
「じゃ、一応確認っと」
「出会い頭の事故は誰にとっても不幸でチュからねぇ」
サクリベス地下の聖浄区画に当たる星の前に着いた私は、まず眼球ゴーレムとネズミゴーレムをセットにしたものを星の中に投入。
転移先に住民が居ない事を確かめる。
そして、劣化カロエ・シマイルナムンに挑むための扉前の通路にプレイヤーしか居ない事を確認してから、門を開く。
「じゃ、先に行くでチュよ」
「ええ、お願い」
化身ゴーレムが先に門の向こう側に移動。
続けて、私も門の向こう側に移動。
さて、プレイヤーたちの反応は……
「タルだ……」
「どうしてこんなところにレイドボスが……」
「あばばばばっ……」
呆然、愕然、驚愕、恐怖と言う感じか?
とりあえず私に武器や呪術を向けてくる気があるプレイヤーは居ないようなので、問題はないか。
「す、すみません! 自分は検証班かつ神殿勤めの引っ張るソンと言います! その、『虹瞳の不老不死呪』タル様ですよね! 少しお話を伺ってもよろしいでしょうか!?」
金属製の角や甲殻を生やした神官服の少女……引っ張るソンが大きな声で私に話しかけてくる。
んー、検証班か……検証班なぁ……貸しを作り過ぎていて、返せないとストラスさんが嘆いているから、あまり情報を渡すのはどうかと思うところなんだよなぁ……。
「内容にもよるけど……貸し借りの都合で、だいたいの情報は話せないわよ?」
「え、あ、はい。そうですよね。えと、大丈夫です。どうしてこちらにお出でになられたかの理由をお伺いしたいだけなので。勿論無理にとは言いません」
あ、これは検証班と言うより神殿関係の話っぽいな。
私が現れた理由を聖女ハルワたちに伝える事で、好感度を稼ぐとか、そっち方面な感じか。
んー……だったら攻略活性化のためにもいくつかの情報を出してしまうか。
「そういう話なら大丈夫よ。カロエの素材を取りに来るついでに、幾つか検証をするだけだから」
「検証ですか」
「ええ。戦闘そのものについてはライブ配信もするから、参考にはならないでしょうけど、見てもいいわよ」
とりあえずライブ配信開始。
私のスレにリンクも載せておく。
これで興味があるプレイヤーは見る事だろう。
「さて、Expブースターを使ってと」
「「「!?」」」
私は毛皮袋から金色の液体が入った小瓶を取り出すと、周囲が明らかに動揺している中で服用する。
なお、Expブースターの鑑定結果はこうなっている。
△△△△△
『浸食の蛸呪』の呪詛薬・Expブースター
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:19
『浸食の蛸呪』が作り出した金色の呪詛薬。
この世の物とは思えない気配を漂わせており、普通の人間ならば目にしただけでも気を失いかねない。
容器の中には1回分の液体が入っている。
飲むと、呪い『Expブースト』を一時的に得て、異形度が1上昇する。この効果は服用から23時間経過するまで続く。
呪い『Expブースト』:獲得経験値量が増える。
注意:『浸食の蛸呪』の呪詛薬・○○ブースターと名の付くアイテムを服用してから、リアル時間で23時間経過するまでの間に再度服用すると、呪い『Expブースト』は得られない。
注意:使用できるのは、取得した本人のみ(対象プレイヤー:タル)
注意:素材にはできず、正しい使用方法以外だと、僅かに傷がついただけでも使い物にならなくなる。
▽▽▽▽▽
「『死退灰帰』も服用してっと」
「呪詛濃度25に到達でチュねぇ……」
続けて『死退灰帰』も服用。
異形度上昇効果を得る為である。
余談だが、サクリベス地下は呪詛濃度0の空間なので、ジタツニの効果と私自身の呪詛支配能力で以って、割と無理やりに周囲の呪詛濃度を保っている。
「じゃ、行きますか」
「でっチュねー」
そして私と化身ゴーレムは『加工の海月呪』カロエ・シマイルナムンの劣化版へと一応単身で挑んだ。
03/15誤字訂正