462:ジュゲムオーシャン-4
「ログインっと」
水曜日である。
「今日はどうするでチュか?」
「とりあえずいつも通りの活動ね」
ログインした私はいつもの作業を進めていく。
しかし重要性は少し上がったかもしれない。
『呪法・呪晶装填』によって満腹度の消費ペースが少し上がったわけだし。
で、そんな作業をしていると、マントデアからメッセージが飛んできた。
「んー……『継承の華呪』シベイフミク・クカンカ討伐のお誘いねぇ……」
「受けるんでチュか?」
「誘いは受けるわ。マントデアとの協力なら、変な事にはならないでしょうし」
ただ、実際に参加するにあたっては、解決するべき案件がそれなりにあるようだ。
低温対策はジタツニと懐炉札でどうにかなる、氷結属性攻撃はマントデア達からの支援とそもそも受けないという方法で大丈夫だが、装備破壊とホワイトアウトが拙い。
特に後者。
「装備破壊は……身代わり系でどうにかする予定があるようだから、任せていいと思うわね。でもホワイトアウトが本当に拙いわね」
「視界ゼロは邪眼術にとって大敵でチュからねぇ……」
ザリチュの言う通り、視界ゼロは邪眼術にとっての大敵である。
なにせ、相手が見えなければ、邪眼術の対象にする事など出来ないのだから。
「……」
「どうしたでチュか?」
「いえ、今後の為にも視界ゼロ対策は考えておいた方がいいかなと思っただけよ」
「そう言えば、今は対策をしているとは言い難い状況でチュねぇ……」
うん、今回のホワイトアウトもそうだが、飢渇の泥呪が舞う『熱樹渇泥の呪界』の底のように、物理的に舞っている何かによって視界が制限される状況。
あるいはサクリベス地下のように呪詛も明かりもないために視界がない状況。
他にも視界がゼロになる状況はあるはずだから、その対策を考えておくのはありだろう。
思いつくのは……強制的な快晴でももたらすアイテムだろうか。
足がかりに出来そうな素材でも手に入ったら、考えるとしよう。
「まあ、まずはマントデアに返事はしておきましょうか」
マントデアへの返事については、情報提供の感謝と時間が合えば参加したいと言う旨で送っておく。
同時にしっかりとした対策もお願いしておく。
半端な対策で挑むと、碌な事にならないのが超大型ボスのカースなので。
まあ、今後も情報をやり取りして、対策が手に入れば融通し合うという話になったので、たぶん大丈夫だろう。
「じゃ、『理法揺凝の呪海』に行くわよ」
「分かったでチュ」
私は『理法揺凝の呪海』に移動。
いつも通りに見て回っていく。
「ん? 呪限無が発生しているわね。しかもかなり安定している状態で」
「本当でチュね。他のエリアの境界が重なり合う不安定な場所……『ダマーヴァンド』に近いでチュかね?」
「そうね」
すると、サクリベスの北東、森、沼地、雪山、海の4エリアの境界線が重なり合っている場所に呪限無の星が発生しているのを発見した。
見た感じでは『ダマーヴァンド』及び『熱樹渇泥の呪界』に近いし、この感じだと『熱樹渇泥の呪界』と同じで、プレイヤーの影響を受けて形成された呪限無だろうか。
「えーと……ああ、アイムさんの呪限無なの。と言う事は検証班の呪限無と見てよさそうね」
よく見れば、呪限無は見知った気配を漂わせている。
一見すれば平穏と言うか大人しく見える感じだが、少し集中すれば不穏な気配が漂うこの感じは、間違いなくI'mBoxさんの呪限無だろう。
見えているのはフレンドだからだろうか?
「侵入するでチュか?」
「しないわよ。検証班を敵に回す意味がないし。そうでなくとも、検証班が発生させた呪限無なら、泣きつかれるか、一通りが終わるまでは検証班に任せるべきよ。いやまあ、各種情報を提供して、それと引き換えに入る事を提案できるでしょうけど……うん、無しで良いわ」
「でチュか」
とりあえず検証班のアイムさんとストラスさんにメッセージを送って、祝福しておく。
知った経緯については……『理法揺凝の呪海』には触れず、転移手段の副産物とだけ書いておこう。
「あ、直ぐに返って来た。ふうん……」
すると結構な量の情報が返って来た。
呪限無の名称は『白覆尽罠の呪界』。
一見すると白一色の迷路なようだが、少しでも歩き回ると、大量の罠とモンスターが何処からともなく表れて、襲い掛かってくるらしい。
しかも私のような空中浮遊持ちにも対応しているらしく、地面や壁に触れる事で反応する感圧式だけでなく、特定のエリアに侵入すると反応するパターンもあれば、音、匂い、呪詛など特定の何かに反応するパターンもそれなりにあるようだ。
早い話が……。
「実にアイムさんらしい呪限無と言えば呪限無ね……」
「厄介な呪限無でチュね。ざりちゅは行きたくないでチュよ」
『熱樹渇泥の呪界』など比べ物にならない程度には嫌らしい呪限無と言う事だ。
「とりあえずきちんとした呪限無の入り口の開閉方法を……送っても大丈夫?」
「大丈夫だから安心しろ。呪限無の主は知っているべき情報だ」
「じゃあ、送っておきましょう」
アイムさんに追加のメッセージを送っておく。
なお、いつの間にか仮称『裁定の偽神呪』が来ているが、いつ来たのか分からないのはいつもの事なので気にしない。
そして、仮称『裁定の偽神呪』が大丈夫だと判断したなら、大丈夫なのだろう。
「これでよし」
そうしてメッセージを送り終えると、その時には仮称『裁定の偽神呪』は姿を消していた。
こちらもまたいつもの事なので、気にしないでおく。
「さて、これからどうするでチュか?」
「そうね……とりあえず雪山エリアの泡沫の世界に行ってみましょうか。あちらの低温に対処できるなら、表の雪山も大丈夫でしょうから」
「分かったでチュ」
やる事はやったと言う事で、私たちは雪山エリアに向かった。
03/11誤字訂正




