458:タルウィベーノ・3-7
本日は五話更新となっております。
こちらは五話目です。
「ギリギリだったでチュね」
「盾の新調が一番恩恵があったかもしれないわね……」
私とザリチュはドラゴンブレスによって巻き上げられた砂煙で姿を隠しつつ、小声で会話をする。
うんまあ、直撃したり、化身ゴーレムの盾に余波防ぎの効果がなかったりしたら、危なかったかもしれない。
が、直撃していないドラゴンブレスなら、何とかはなる。
「毒は大丈夫でチュか?」
「余波なら、ジタツニの毒耐性は抜けないみたい。とは言え、此処からが厄介だけど」
「まあ、そうでチュよねぇ……」
ドラゴンは私たちが死んだはずなのに戦いが終わらない事に気づいたのか、周囲を見渡し始めている。
そうしている間にも10秒経過。
ドラゴンに毒のダメージが入ると共に、ドラゴンが吐いたブレスによって毒状態になった闘技場の地面にダメージが入り……
「「っう!?」」
ドラゴンの毒の伏呪が発動。
闘技場全体の気温が一気に上昇、音の広がり方に異常が生じる。
だが本当に厄介なのはこの後だ。
だから回復を済ませると、私たちはその場で姿勢を低くし、化身ゴーレムにはドラゴンに向けて盾を構えてもらう。
「ヂュブラガァ!」
更に10秒経過。
ドラゴンの毒の伏呪によって付与された出血が毒のダメージによって起爆。
全方位から爆風が放たれ、土煙が上がる。
さて、このまま土煙が晴れるまで何もしないでくれるなら、それを前提に詠唱を進めるのだが……そう甘くはないようだ。
「ヂュンブラ!」
「ちっ」
「まあ、翼持ちでチュからね」
ドラゴンが翼を動かし、土煙を吹き飛ばす。
そして私たちの無事な姿を見て、忌々しそうな目を向けてくる。
「ザリチュ。もう一発は決めたいから、頑張って」
「分かっているでチュよ」
「ヂュブラガァ!」
ドラゴンの目からビームが放たれ、化身ゴーレムの盾によって防がれる。
「その代わり、たるうぃも頑張るでチュよ!」
「言われなくても」
「ヂュンブラガァ!」
続けて、尾の歯から無数の赤線が伸び、私と化身ゴーレムがその軌道上から外れた直後に、超高速の歯が赤線通りに突き抜けていく。
「宣言するわ。お前の腹に『呪法・貫通槍』付きの『毒の邪眼・2』を叩き込んで、全身蔓だらけにしてあげる」
「チュアッハァ!」
「ヂュブラァ!!」
化身ゴーレムとドラゴンが接敵。
化身ゴーレムはドラゴンの尾を狙う事で移動を遅らせようとし、ドラゴンは化身ゴーレムへの対処と私への接近を試みようとしている。
同時に私の宣言が成立し、ドラゴンの腹の一部に三重の円が生じる。
「すぅ……」
13の目から深緑色の魔法陣が展開される。
ドラゴンを共通イメージとして作られた呪詛の種が生じる。
呪詛の種を先端に内包する形で呪詛の槍が生じ、回転を始める。
「ヂュブラガァ!」
「っう!? ざりちゅを完全無視でチュか!?」
「etoditna eniccav htlaeh |ssenihtlaeh |citerypitna |tnasserpeditna |yrotisoppus……」
ドラゴンが私の方に向かって駆け出す。
彼我の距離が瞬く間に縮んでいく中で、私は声によって周囲の呪詛を震わせ、描いた文字を結晶に変えて呪詛の槍に装填していく。
そうして十分に装填されたところで呪詛の槍が射出され、ドラゴンに向かって行く。
「ヂュンブラァ!」
ドラゴンが呪詛の槍に当たる直前。
ドラゴンは全力で跳躍し、槍の軌道から逃れると共に、私を前足の射程内に収めた。
その光景にドラゴンは笑うように大きく口を広げた。
だから私は……
「ッ!?」
笑いつつ指を鳴らしてやる。
直後、ドラゴンの全身から闘技場の各地に潜ませておいたもの……逃げ回る時にバラ撒いておいた眼球ゴーレムたちの残骸に向かって細い稲妻のような物が走り、ドラゴンの全身から力が抜けると共に意識が落ちる。
そうして私は意識のないドラゴンの攻撃を悠々と避けると、ドラゴンの背中から腹へと突き抜けるような形で呪詛の槍を突き刺し、最後の言葉を紡ぐ。
「『毒の邪眼・2』」
「ヂゴッ!?」
ドラゴンの意識が戻る中、私の目から放たれた深緑色の光がドラゴンに注ぎ込まれる。
私は結果を見届けることなく目を瞑り、手の感覚だけでネツミテを回し、石突で軽く地面を叩く。
そんな私の動きに合わせるように闘技場中の呪詛がドラゴンの中へと殺到し、毒を蓄積させていくのが感覚として分かる。
ああそうだ、折角だから最後の最後まで余裕ぶって見せようか。
「毒鼠の竜。貴方は強かったわ。けれど、私たちの方がもっと強い。だから、試練はこれで終わりよ」
毒の蓄積されるペースがさらに早まった。
やはりそういう呪法になっているらしい。
そして私が状況確認の為に目を開けば、全身を深緑色の蔓に覆われつつも、私に向かって前足の爪を振り上げるドラゴンの姿があった。
だが、爪が振り下ろされることはなかった。
「ヂュギ……ゴアッ……ゴボッ……」
表示されている毒のスタック値は2万ちょっとで、今なお上昇中。
ドラゴンの口の端からは深緑色の液体が零れ落ちており、全身の目は信じられないものを見るかのように大きく開かれている。
体そのものも震え出し、シダ植物で出来た翼やほぼ黒だった毛皮には死期を表わすかのように茶色のものが混ざっている。
そして、ドラゴンの目から光が失われ、体から力が抜け、大きな音を上げながらドラゴンの体はその場で横倒しになった。
「で、これで勝ちなら奇麗に収まるんだけどねぇ……」
「毒だから時間がかかるんでチュよねぇ……」
「サクサク行きましょうか」
「サクサク行くでチュよ」
「……」
が、これで勝利ではないため、私は距離を取ってHPと満腹度を回復した上で、呪法を乗せまくった『毒の邪眼・2』を追加で撃ち込んでいく。
化身ゴーレムはどうにかして剣でダメージを与えられないかと、目玉や口の中を刺して回る。
非道?
そうは言われても、今のドラゴンは毒の重症化によって動けなくなっているだけで、まだまだHPは残っている。
此処で手を抜いたら殺されるのはこっちだ。
手を抜くことでボーナスが出るなら別だが、きっちりとどめを刺すまでは油断などしてはいけないのである。
「ヂュブラガ……」
「あー、ようやくね……」
「でチュねぇ……」
そうして重症化してから30分ほど経ったところで、ようやくドラゴンは完全に息絶えた。
最終的な毒のスタック値が4万前後に及んだことを考えると、このドラゴンは700万を超えるHPを持っていたことになるのだろうか。
ズワムをソロで倒した私が言うのもなんだが、明らかにソロで戦う相手ではないと思う。
≪タルのレベルが31に上がった≫
≪呪術『呪法・○○』、『呪法・○○』、『呪法・○○』、『呪法・○○』を習得しました。内容確認の上で、それぞれに名称を付けて有効化してください≫
≪称号『竜狩りの呪人』を獲得しました≫
「ははははは、見事だ! いい物を見させてもらったぞ」
そして、レベルアップと呪法の習得を告げるアナウンスが流れると共にドラゴンの死体は消え去り、同時に『悪創の偽神呪』の笑い声が闘技場に響き渡った。
03/09誤字訂正