457:タルウィベーノ・3-6
本日は五話更新となっております。
こちらは四話目です。
「ズワムの歯飛ばし……ねっ!」
「ヂュブラガァ!」
尾に付いている歯を再生させながら、ドラゴンが突っ込んでくる。
そして、距離を詰めたドラゴンは私を仕留めるべく、前足の爪を振るい、尾を振り回し、巨体を生かしたタックルも、勢いのある噛みつきもやってくる。
私はそれらを避けつつも、次の攻撃を仕掛けるタイミングを測るが……うん、無理。
避け続けるのと、今後の布石を打っておくだけで精一杯である。
「こっちを……向くでチュよ!」
「ヂュブラガァ!!」
化身ゴーレムが攻撃を仕掛けるが、ドラゴンはほぼ完全に無視、私への攻撃を続けてくる。
どうやら、脅威になり得るのは私だけであると判断したらしい。
さてどうしたものだろうか。
とりあえず呪法を重ねれば、『毒の邪眼・2』は通せる。
毒なので、避け続けていても、ダメージは入っていく。
だが、ドラゴンの元気さから考えて、今入れた毒だけで倒せるとは思えない。
なので、もう一発ぐらいは入れておきたいところなのだが……
「展か……おっと!」
「ヂュラァ!」
私は『毒の邪眼・2』のチャージを開始しつつ、魔法陣を展開した。
が、直ぐに魔法陣全体を叩き潰すようにドラゴンが攻撃を仕掛けて来たため、私は止むを得ず魔法陣の外へ出るように回避。
すると、『毒の邪眼・2』のチャージがキャンセルされてしまった。
どうやら、この魔法陣の呪法のデメリットとして、展開した魔法陣の外に出てしまうと、チャージがキャンセルされてしまうようだ。
まあ、回避を犠牲にして、威力を上げられるのなら、妥当なデメリットか。
「たるうぃ! これ、どうやって注意を取ればいいんでチュか!?」
「さあ? とりあえず急所攻撃とか、まだ歯が生えてないところを狙ってみるとか?」
「ヂュンブラガァ!!」
ドラゴンの目が深緑色の光を纏う。
ビームだ。
恐怖はまだ入っているのだが、流石に抑えきれなかったようだ。
とりあえず私はドラゴンの正面、首の下に入り込むことで、ビームの射程外に逃れる。
化身ゴーレムは……自分一人なら気にする必要はないと言わんばかりに突撃し、尾を切りつける。
「ヂュブッ!?」
「おっ、効いたでチュね」
「へぇ、カウンターなら効くの」
直後、ドラゴンの目から深緑色のビームが放たれる。
だが、化身ゴーレムが切りつけた目からはビームは放たれず、それどころか深緑色の血のような物が出ている。
また、歯が再生しきっていない場所にも刃は通っているようだ。
どうやら、ビームにしろ、歯飛ばしにしろ、自分の防御能力の一部を犠牲にした呪術であるらしい。
そして傷の痛みによってか、僅かにドラゴンの動きが鈍る。
「evarb『恐怖の邪眼・3』!」
「!?」
私は好機と判断。
紫色の魔法陣を展開し、呪詛の剣を作り、『evarb』と言う形にした呪詛を圧縮して剣に装填、同時に呪詛を喉に集めて震わせる。
そして呪詛の剣をドラゴンの顎下から脳天へと突き刺すように動かしつつ、『恐怖の邪眼・3』を発動。
紫色の光が飛び散る中で、きちんとドラゴンの動きを見つつ距離を取る。
逆残心とでも言うべき行為は、ボーナスがあっても流石に今の状況では出来ないからだ。
恐怖のスタック値は……とりあえず300は超えた。
最初の一撃より、明らかに入りは良い。
これで恐怖については当面大丈夫か。
「ザリチュ! 前衛は任せるわよ!」
「分かったでチュ! それと、こんなに恐怖している相手なら、最初からどこにぶち込むか宣言してやったらどうでチュか? ガタガタ震えるかもでチュよー」
「ヂュブラガァ!」
ドラゴンがザリチュの挑発を受けて、化身ゴーレムへの猛攻を仕掛ける。
が、化身ゴーレムは剣と盾を巧みに操る事で、攻撃を凌いでいる。
しかし、最初に宣言か……ザリチュとしてはただの挑発として言った言葉だろうが……採用するか。
「いいわね。なら宣言しましょう」
私は『呪法・方違詠唱』と同じ要領で、喉に呪詛を集める。
その上で、ネツミテの先端をドラゴンの頭に向けて真っ直ぐ伸ばし、指し示す。
で、ドラゴンにも聞こえるようにはっきりと告げてやる。
「お前の頭に『呪法・破壊星』付きの『毒の邪眼・2』をぶち込んでやる」
「ヂュブ!?」
「うわっ、一戦闘で四つ目とか本気でチュか……」
私の宣言直後、ドラゴンの頭を覆うように、三重の円が出現し、回転を始める。
ただ、この円だが、私とザリチュにしか見えていないようで、ドラゴンは何かされたとは感じても、それ以上の違和感は覚えていないようで、相変わらず化身ゴーレムを追いかけている。
「では遠慮なく。etoditna eniccav htlaeh |ssenihtlaeh |citerypitna |tnasserpeditna |yrotisoppus」
「ヂュブラガァ!」
先ほどとはやり方を少し変える。
魔法陣は展開するし、『呪法・方違詠唱』も使うが、呪詛を圧縮した結晶については、既に私の手元から放たれている呪詛の星の進行ルート上に配置、星の移動に合わせて飲み込ませていく。
そして、私の行動に危機感を覚えたのか、ドラゴンが私の方に向かってくる。
「行かせないでチュよ!」
「ヂュブラッ……」
そんなドラゴンの顔面を化身ゴーレムが真横から殴りつける。
ダメージはなくても、横っ面を思いっきり殴られるのは嫌らしく、ドラゴンの動きと進路が僅かにブレ、鈍る。
チャンスだ。
「『毒の邪眼・2』」
「!?」
「クリーンヒットでチュよー」
ドラゴンの後頭部に呪詛の星が直撃し、『毒の邪眼・2』が発動し、深緑色の光が飛び散る。
その中で私は逆残心……目を瞑り、背中を向け、ネツミテを肩で担ぐと言う隙だらけの行動と、この行動によって与えられた時間中に注ぎ込めるだけの呪詛を注ぎ込む。
「たるうぃ!」
「ん、分かってるわ」
「ヂュブラァ!」
で、ザリチュの声に合わせて逆残心を解き、跳躍。
ドラゴンの突進を回避する。
さて、肝心のドラゴンの毒の状態は……毒(850)か。
案外伸びていない。
いや、相手の毒耐性を考えると、耐性貫通にボーナスが入らない『呪法・破壊星』を使った私のミスか。
「で、たるうぃ、後幾つ呪法を作る気でチュか?」
「流石にこれ以上は作れないわね。私の呪法って要するに、何かしらの強みを捨てる代わりに、威力を跳ね上げると言う呪法だもの。流石にこれ以上は捨てられないわ」
化身ゴーレムと合流。
消費したHPと満腹度を急いで回復していく。
「ヂュウウウゥゥゥブウウウゥゥゥラアアアァァァ……」
対するドラゴンは急ブレーキからの方向転換をし、私たちの方へと向かってくる。
ただし、これまでと違い、明らかに何かを溜めている様子が見られる。
まあ、ドラゴンがわざわざ溜めるものと言えば、おおよそアレだろう。
「防げると思う?」
「止めておいた方が無難だと思うでチュ」
「じゃあ、逃げましょうか!」
「でっチュよねぇ!」
「ガアアアァァァァ!!」
私と化身ゴーレムは全力でドラゴンから距離を取り始める。
直後、ドラゴンの口から深緑色の気体が放たれ始め……
「「っ!?」」
闘技場全体を覆い尽くすような規模の閃光、爆風、爆音が轟く。
それは正に竜の吐息に相応しい威力だった。
「ヂュブラガアアアアアァァァァァァ!!」
そして、勝利を誇るようなドラゴンの咆哮が闘技場に響き渡った。
03/09誤字訂正