455:タルウィベーノ・3-4
本日は五話更新となっています。
こちらは二話目です。
「さてまずは……ezeerf『灼熱の邪眼・2』」
「ヂュアッ」
私はこちらの方へと頭にある四つの目を向けているドラゴンに対して、『呪法・破壊星』、『呪法・方違詠唱』を乗せた『灼熱の邪眼・2』を放つ。
ドラゴンの頭部が炎に包まれる。
「ヂュアッ」
「ふうん……」
「これは効いていないでチュね」
が、ドラゴンに灼熱の状態異常は入っていないし、恐らくだが火炎属性のダメージも入ってない。
灼熱の状態異常が入らないのは想定内だが、私の手持ちで大きなリスクなく撃ち込める攻撃の中では最も威力があるであろう『灼熱の邪眼・2』でダメージを入れられないとなると、『暗闇の邪眼・2』や純粋な物理攻撃でもダメージは入らないと見るべきだろう。
「ヂュ……」
「ザリチュ」
「分かってるでチュよ!」
私がそう考えている間にドラゴンが動く。
頭にある四つの目、尾に付いている無数の目が深緑色の光を纏う。
それに対して私は化身ゴーレムの背後に隠れ、ザリチュは化身ゴーレムの体を動かし、背中の六枚の翼を大きく広げて私を隠しつつ、盾を前に突き出す。
「ラガァ!」
「チュラッハァ!」
「!?」
ドラゴンの目から深緑色のビームが放たれ、化身ゴーレムはそれを盾で受け止める。
盾で受け止められた深緑色の光が四方八方に飛び散り、闘技場の地面に照射されると共に、化身ゴーレムに毒(5)が付与される。
そして、3秒ほどでビームは止んで、ドラゴンはこちらの様子を窺う態勢に入り、化身ゴーレムが構えている盾からは光球による反撃が10は飛ぶ……が、ドラゴンにとっては痒さすら感じない攻撃のようで、反応はない。
「まったく危ないでチュね」
「そうね。私が受けていたら死んでいたと思うわ」
毒の塊かつ非生物である化身ゴーレムに僅かとはいえ毒が入るビームか。
ほぼ間違いなく、私が受けたら即死だろう。
つまり、化身ゴーレムと別行動を取らされたら、その時点で詰みか。
「ヂュアアアァァァ……」
「チュア?」
「ちっ、伏呪ね」
そんなことを考えている間にもドラゴンはいつでも飛びかかれる姿勢を維持しつつ、こちらへとゆっくり近づいてくる。
同時に10秒経過で、化身ゴーレムに毒のダメージが入るのだが、その際に灼熱(21)が付与された。
恐らくだが、毒のダメージに反応して呪詛濃度依存の灼熱が付与されるという……だけじゃないらしい。
「離れるわよ! ザリチュ!」
「ちょっ、待つでチュよ!?」
「ヂュラガァ!」
先程のビームが飛び散った先の地面の反応は三種類あった。
だから私は急いでその場を離れる。
すると、私たちの反応を見たドラゴンは一気に距離を詰め、最初にやったのと同じように飛びかかりからの前足による押し潰しを仕掛けて来る。
「チュアッ!?」
「やっぱり!」
それを私と化身ゴーレムが回避した直後、先ほどのビームを受けた闘技場の地面の何か所かが爆発。
派手な砂柱が立つ。
そう、先ほどのビームに含まれている伏呪は三種類あったのだ。
一つは灼熱、地面が熱せられた影響で、熱気が漂っていた。
一つは沈黙、その部分の地面からは音が放たれず、返ってもこない。
そして最後の一つは……出血、破壊力については見ての通りである。
「ヂュ……」
「まったく、ビーム一つで攻撃、妨害、罠設置までこなすとかとんでもないわね」
「いや、それどころじゃないでチュよ!? たるうぃ!?」
ドラゴンが再びビームの発射態勢に移行する。
このまま毒のスタック値が増えて行けば、化身ゴーレムのHPが保たないし、化身ゴーレムが倒れれば私の敗北もほぼ確定だろう。
つまり、この攻撃は避ける必要がある。
「ラッ……!?」
ドラゴンがビームを発射しようとする瞬間。
私と化身ゴーレムは横方向に跳ぶ。
だが、ドラゴンは私たちの動きをしっかりと目で追っており、これだけでは避けられないことは明白。
なので私は指を鳴らし、13の目で『気絶の邪眼・2』をドラゴンに撃ち込む。
直後、ドラゴンの体から私の方へと電気のエフェクトが生じ、それと同時に一瞬だけドラゴンの動きが止まる。
「ガァ!」
「ギリギリね」
「ギリギリすぎるでチュよ……」
ドラゴンから放たれたビームが直前まで私たちが居た虚空を突き抜けていき、コロシアムの壁や地面を焼き、毒のエフェクトが生じる。
「……」
それにしても13の目による『気絶の邪眼・2』で一瞬の気絶とは……実に恐ろしい話である。
私が思っている通りなら、今の『気絶の邪眼・2』は相手の耐性を抜くことに特化している。
その『気絶の邪眼・2』を斉射したのに、気絶のスタック値が1か2しか入らないとなると、気絶状態をほぼ完全無効化していると言ってもいいだろう。
「とりあえず30秒逃げるわよ」
「でチュね」
「ヂュラガァ!」
私と化身ゴーレムはドラゴンに向かって真っすぐに突っ込む。
『気絶の邪眼・2』の使用後CTが明けるまでの間に再びビームを打たれたら詰みだからだ。
それならば、まだ接近戦を挑み、相手の体を利用してビームを防ぐ試みをした方が、生き残れる可能性が高い。
「ヂュブラガァ!」
「「……」」
ドラゴンは前足の爪を大きく振るうだけでなく、頭を器用に動かして噛みつこうとし、翼を打ち下ろして叩こうとし、尾をしならせて打ち据えようとし、巨体を動かして弾き飛ばそうとしてくる。
それを私と化身ゴーレムは目の動きを見て目標を先読みし、ドラゴンの筋肉を見て攻撃方法を絞り、ドラゴンの体の可動域を見極めて攻撃を避ける。
こちらの狙い通りと言うべきか、自分で自分の体を傷つけるのを嫌がったか、あるいは私の知らない使えない事情があるのか、ビーム攻撃は今現在のようなゼロ距離戦闘では使えないようだ。
なお、こちらからの攻撃は効かない。
ネツミテの打撃も、ズワムロンソによる斬撃も弾かれている。
だが、目的である30秒を逃げ切り、さらにそこから5秒逃げた。
「evarb『恐怖の邪眼・3』」
「!?」
そして発動したのは『呪法・増幅剣』、『呪法・方違詠唱』込みの『恐怖の邪眼・3』。
呪詛の剣がドラゴンの首を切りつけると同時に、私の13の目から放たれた紫色の光がドラゴンに注がれる。
与えた状態異常は……恐怖(142)。
本来与えられるであろう数字から考えると、情けないとしか言いようがないスタック値だが、他の状態異常と違って通りはした。
この事実と『悪創の偽神呪』が戦闘前に話していた内容を合わせて考えれば……今回の戦闘で求められている物が読み取れる。
「さて、問題は此処からね」
「でチュね」
「ヂュ、ヂュ、ヂュブラガァ……」
とりあえず100を超える恐怖のおかげで、暫くはビームを打たれる心配はないだろう。
なので、私と化身ゴーレムはドラゴンから離れて、一息吐く。
で、必死に考えることにした。
私の取れる手段で以って、2の位階にある邪眼術の威力を、3の位階へと一時的にでも押し上げる方法を。
03/08誤字訂正




