454:タルウィベーノ・3-3
本日は五話更新となっています。
こちらは一話目です。
「ここは……」
落下する事十数秒。
気が付けば熱や倦怠感、意識の混濁が取れ、HPと満腹度が全回復した状態で、私と化身ゴーレムは見知らぬ場所に立っていた。
見た限りでは……イタリア、ローマにあるコロッセオだろうか。
どうやら私と化身ゴーレムは直径500メートル近い石造りの円形闘技場、その中心に立っているようだ。
なお、円形闘技場の外は虹色の霧に包まれていて、何があるかは見えない。
どうやら、円形闘技場の中は呪詛濃度21だが、その外はもっと濃い呪いで満たされているようだ。
「ほう、要請があったから来てみたが、これは驚いたな。私と出会った縁を基に辿り着いたか」
「『悪創の偽神呪』……」
「人型ではなくトカゲ型でチュね」
闘技場の貴賓席と思しき場所から聞き覚えのある声が響く。
『悪創の偽神呪』だ。
ただし、巻き戻しの時に見た人の姿ではなく、以前から見かけているトカゲの姿。
大きさと距離的に姿なんて見えないはずなのだが、何故かはっきりと姿が見えている。
「しかし、貴様もまた好きものだな。同朋や地上のものと戦うなら壱の位階、世界を滅ぼし得るカースと戦い英雄となるにしても弐の位階もあれば十分。威力が欲しいなら、その時々で道具なり協力なりで工夫をすれば十分だろうに、貴様は地上に出ることが出来ない深き呪いたちでも相手にするつもりか? 参の位階を複数求めると言うのはそういう事だろうに」
「……」
何と言うか、地味に重要な情報が出た気がする。
でも言われてみれば納得はする。
私の邪眼術の火力を考えると、1の段階でも対プレイヤーや普通のモンスター相手には十分だったし、2の段階でズワムやデンプレロにも十分通じていた。
では3の段階となると……現状ではレベル不足で真価を発揮できない『恐怖の邪眼・3』でしか評価できないのだが、『恐怖の邪眼・3』が3でなければ対処できない状況と言うのは、なかった気もする。
「まあ、どうでもいい話か。貴様は参の位階にある呪術を新たに求め、私の前にその姿を現わした。ならば、『悪創の偽神呪』として、貴様に試練を課すとしよう」
『悪創の偽神呪』が私たちの前の空間に意識を向ける。
すると、それだけで大量の呪詛が集まり、何かしらの生物が形作られていく。
「試練の内容を告げよう。今から私が生み出す呪いに打ち勝て。ただそれだけだ」
三本の爪を持った足が六本生じる。
だが、虫系ではなく、爬虫類系の足だ。
「それだけ?」
「ああ、それだけだとも。自分の心の闇に打ち勝てだの、一定時間耐え続けろだの、勝つ手段のない負けイベントだのではない。純粋な力勝負だ。ああ、しかしそうだな。この円形闘技場の外には出ない方がいい。今の貴様ではこの闘技場の外は早い」
殆ど黒と言ってもいい、微かに深緑色がかかっている毛が生え揃った脚が生成されていく。
「ちょっ! 待つでチュよ! これはたるうぃの試練でチュよね!? ざりちゅも参加なんでチュか!?」
「この場に居ると言う事は、そういう裁定だろうな。その辺の判断は私の仕事ではない。ただ、二人揃って挑むべきと言う裁定が下ったと言う事は、二人で協力するのが前提と言う事でもあるな」
「マジっチュかぁ……」
背中側は脚に生えているのと同色の毛皮、腹側は見るからに強固な鱗に覆われた胴体が生成されて、六本の脚が繋がる。
背中側からは更にシダ植物の葉を模した翼が一対生じて、大きく広げられる。
「心してかかるといい。コイツは今の貴様から見ればはるかに格上だ。そして、以前の恐怖の迷宮と異なり、この場は何もかもが貴様の思い通りになるわけではない。故に、死力を尽くさなければ、傷の一つすら付けられないだろう」
「「……」」
尾が生える。
ただし、その表面は虹色の瞳孔を持つ瞳と、白色の頑丈そうな歯が交互に敷き詰められた、悍ましい見た目のものだ。
なお、胴体だけでも10メートル近いのだが、尾も同程度の長さを持っている。
「では、私を楽しませてくれ。『虹瞳の不老不死呪』タル、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ」
首が伸びていき、その先に四つの目、二本の角を持った頭が生成される。
しかし……
「ヂュアアアアァァァァッ!!」
「あ、そこは鼠なのね」
「冷静に突っ込んでいる場合でチュか!?」
顔は基本的な形は鼠である。
と言う訳で、どうやら私たちが戦う相手は、ネズミ顔、六本足、シダ翼、毛皮に覆われ、大量の目と歯がある尾を持った、体長25メートルはあるであろうドラゴンのようだった。
ドラゴンは開戦の合図だと言わんばかりに雄たけびを上げると、その体躯からは想像しがたい速さで駆け、跳び、私たちに向かってくる。
「ヂュアッ!」
「「ーーー!?」」
そしてドラゴンは私たちが同時に同じ方向へ跳ぶと同時に、私たちが居た場所に両前足を叩きつけ、その破壊力によって闘技場の地面が大きな音と共に割れる。
「あ、『鑑定のルーペ』が消えているわね」
「鑑定は自分の力じゃないって事でチュか……」
気が付けば『鑑定のルーペ』は消えてなくなっていた。
よろしい、ならば私たち自身の力で以って、竜狩りと言う未知を成し遂げるとしよう。