453:タルウィベーノ・3-2
本日は二話更新です。
こちらは二話目です。
「さて、まずはこれね」
「ま、それを使うに決まっているでチュよね」
『ダマーヴァンド』に戻ってきた私は第五階層の噴水に仕込んである邪眼妖精の毒杯を取り出す。
うん、相変わらずの蘇芳色の杯で、深緑色の液体だ。
折角なので、久しぶりに鑑定してみるか。
△△△△△
邪眼妖精の毒杯
レベル:19
耐久度:100/100
干渉力:118
浸食率:100/100
異形度:19
邪眼妖精タルが毒の邪眼を手にするために用いた蘇芳色の杯。
周囲の呪詛を利用して呪いのこもった毒液を生成する。
覚悟を持って口を付ければ、新たに開かれた狂気の道が見える……かもしれない。
この杯の底は、もしかしたら呪限無の深淵に通じているのかもしれない。
注意:異形度19以下のものが、生成から10秒以内の毒液を飲むと1%の確率でランダムな呪いを恒常的に得て、異形度が1上昇します。
▽▽▽▽▽
「じみーに修正されている? いえ、私がカース化したから? まあ、問題はないわね」
「でチュね」
鑑定を終えたところで、ダンジョンの核を邪眼妖精の毒杯から私へと変更する。
これで、邪眼妖精の毒杯を素材として使える。
「で、どう作るでチュか?」
「前回と同じような感じね。とりあえず『ダマーヴァンド』産の分かり易い毒草は全部まとめて煮込むわ」
「なるほどでチュ」
私は毒杯から出た直後の毒液を鍋に投入。
続けてそこに刻んだ各種毒草を投入。
更には垂れ肉華シダの膨葉と熱拍の竜樹呪の心材の欠片も投入し、へらを使って鍋の中で潰す。
以前は毒が熱に弱めだったので、煮込んだりはしなかったが、今の私の影響を受けてか、熱耐性はだいぶ上がっているように思えるので、今回は煮込んでも大丈夫だろう。
「さて、ここにデンプレロの毒腺、ズワムの歯、血、目玉、油、肉……面倒くさいし、歯、血、油、目玉で余っている素材は全部使おうかしら」
「豪快でチュねぇ……鍋の容量、足りるんでチュか?」
「『呪法・貫通槍』付きの『毒の邪眼・2』に、『呪法・破壊星』付きの『飢渇の邪眼・1』を組み合わせて、容積は無理やり減らしていくから大丈夫よ」
鍋が激しく煮立たせ、内容物を全て溶かしていき、煮詰めていく。
だが、水分が完全に無くなってしまうと駄目なので、適宜、邪眼妖精の毒杯から毒液を注いで、水の量は調整する。
そうしてズワム素材を砕いては投入し、煮込むを三時間ほど繰り返し続けた。
すると鍋の中身に変化が生じる。
「あー、こうなるの……」
「禍々しい結晶体が出来ているでチュねぇ……」
気が付けば鍋の中身は底が見えるほどに透き通った水と、深緑色に輝く凧型二十四面体……トラペゾヘドロンの結晶体に分離されていた。
結晶体の中では大量の呪詛が渦巻いているのが感じ取れる。
「まあいいわ。進めるわよ」
「でっチュよねー」
私は深緑色のトラペゾヘドロンを鍋から取り出して手に持つと、邪眼妖精の毒杯も持って、呪怨台の前に立つ。
そして『ダマーヴァンド』中の呪詛を支配し、私の周囲へと集めていく。
では、始めよう。
トラペゾヘドロンを毒杯に投入、呪怨台に乗せる。
「私は第三の位階、神偽る呪いの末端に触れる事が許される領域へと手を伸ばす事を求めている」
赤と黒と紫の呪詛の霧が呪怨台へと集まっていく。
私はそれを支配し、含まれている『七つの大呪』が向かう先を調整する。
風化で余計な成分を飛ばし、蠱毒と魔物で飛ばした成分を食らい、反魂と再誕で消費された成分を復活させ、不老不死でこれを維持し、転写で以って全ての働きを増幅する。
当然ながら、原始呪術『風化-活性』、『不老不死-活性』、『転写-活性』は起動済みである。
「私の全てを用いる事で、かつて一度だけ踏み入れることが許された領域へと再び向かう事を求めている。されど得る事を望むは魂の底から縛り付けるような恐怖ではなく、命そのものを蝕まんとするような毒である」
呪詛の霧が深緑色に変化する。
幾何学模様が呪怨台を中心とする形で立体的に展開される。
だが、これまでと違い、ただの線ではなく、文字のような物が縦横無尽に描かれる事で幾何学模様を成り立たせている。
「私の毒をもたらす深緑色の目よ。深智得るために正しく啓け」
展開された幾何学模様が集束し、深緑色の結晶体になる。
同時に別の幾何学模様が呪怨台を中心に展開され、それもまた、集束、結晶体となる。
まるで心臓が高鳴るように、何度も何度も異なる幾何学模様が生じ、広がり、集束し、結晶体と化して、私の周囲が深緑色の煌めきに包まれていく。
「望む力を得るために私は毒を飲む。我が身を以って与える毒を知り、喰らい、打ち勝って、己の力とする」
そうして結晶体の数が13に達したところで、結晶体は呪怨台の上に乗っているはずの毒杯に飛び込み始め、それに伴って深緑色の呪詛の霧も毒杯へと飲み込まれ始める。
よろしい、切り所だ。
「『inumutiiuy a eno、yks nihuse、sokoni taolf、nevaeh esir。higanhe og ton od。禁忌・虹色の狂眼』」
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・方違詠唱』の乗った『禁忌・虹色の狂眼』を私は毒杯に向けて撃ち込む。
それに合わせるように、毒杯に飲み込まれていく周囲の呪詛の色が虹色に変化し、誰かの笑い声のようにも聞こえる音を発しながら、大量の呪詛を吸い込んでいく。
「……」
そして、霧が晴れていく。
13個の深緑色の宝石が付いた蘇芳色の杯が呪怨台の上に乗っており、杯の中には、杯の底が見える程度には透明度の高い深緑色の液体が入っている。
私は慎重にそれを手に取ると、鑑定をする。
△△△△△
呪術『毒の邪眼・3』の杯
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:125
浸食率:100/100
異形度:20
呪われた毒の液体が注がれた杯。
覚悟が出来たならば飲み干すといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、心して挑むがいい。
君が持つ全ての力を行使する事を前提として、門は聳えているのだから。
さあ、貴様の力を私に見せつけてみよ。
▽▽▽▽▽
「とりあえず、物は出来たわね」
「でチュね」
フレーバーテキストの内容からして、これまで以上に厄介なようだ。
それでも私の選択は変わらないが。
「では、行きますか」
私は杯に口づけると、苦渋と言う文字そのものが示すような液体を一気に飲み干す。
すると直ぐに全身が茹るように熱くなり、激しい倦怠感と痛みに襲われ、意識が混濁していく。
まるで重度の熱病のような感覚を覚えると共に……。
「これ……は……」
「ちょっ、マジでチュか……」
私と化身ゴーレムの足元に呪限無に繋がる門が開いて、落下した。