452:タルウィベーノ・3-1
本日は二話更新となっています。
こちらは一話目です。
「んー……確かにちょっと違うわね」
火曜日は新しい包帯服、『路竜の包帯服』ジタツニの調子を確かめつつ、新装備を得たザリチュとの連携、『出血の邪眼・2』の調子も確かめた。
同時に砂漠の方でデンプレロ弱体化ギミックを少し進ませてもらったが、他の成果は特になしだ。
で、本日は水曜日。
私は『熱樹渇泥の呪界』で垂れ肉華シダの観察をしていた。
「垂れ肉華シダ全体から見て、0.01%ぐらいでチュかね。やけに膨らんだ葉っぱがあるでチュね」
「そうね。それぐらいだと思うわ」
『熱樹渇泥の呪界』の垂れ肉華シダは、普通のプレイヤー向けに用意された足場の下面に張り付く形で生育しており、最も蔓が長い個体では500メートル以上蔓が伸びている場合もある。
当然、その長さに比例するように蔓の太さも太く、先端に付く蕾も大きい。
他に外にある垂れ肉華シダとの違いは……先ほどから私とザリチュが挙げている、垂れ肉華シダの葉の極一部が、他の葉よりも膨らんでいて、風船のようになっている事ぐらいか。
なお、こんな差があるにもかかわらず、名称は垂れ肉華シダのまま。
呪限無にあるのにカース化していない、普通の植物なら萎れそうな高温や乾燥をどうともしない、外様なのに他のカースたちが敵視していないなど、相変わらずの謎植物と言うか、聖女様お手製の五寸釘と同じように異形度を誤魔化している気がするのだが、確認する術がないので、これらの点については気にしないでおこう。
今はそれよりもだ。
「チュアッ!? うわっ、酷い臭いでチュ……」
「んー……葉の根元を潰さないように注意して摘み取れば、回収出来るみたいね」
垂れ肉華シダの膨らんだ葉についてだ。
ほぼ間違いなく『出血の邪眼・2』取得に伴う変化だろう。
葉を潰してしまうと硫黄臭に似た臭いが酷いようだが、状態異常を伴うほどではなく、葉一個ならば数秒で晴れる程度。
出血の状態異常と伏呪の性質が組み合わさった結果なのだろうけど、とても地味で分かりづらい変化だ。
昨日、『熱樹渇泥の呪界』掲示板に外と中の垂れ肉華シダの違いについての書き込みがあったから分かったが、そうでなければ気が付かなかったかもしれない。
「鑑定っと」
なお、膨らんだ垂れ肉華シダの葉の鑑定結果はこんな感じ。
△△△△△
垂れ肉華シダの膨葉
レベル:2
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:2
垂れ肉華シダのシダ植物の葉が内部に貯まったガスの為に膨らんだ物。
周囲の呪詛を吸収して、自分の栄養にする性質を有する。
潰すと臭い。
▽▽▽▽▽
「……」
「嘘くさい事この上ないでチュよねぇ……」
うん、やっぱり各ステータスを誤魔化していると思う。
レベルと異形度が1ずつ上がっただけとかどう考えてもおかしい。
先程からの観察中に、飛行する毒頭尾の蜻蛉呪の翅が真正面から当たって切れたのを目撃したが、当たってから切れ始めるまでに少しだけ間があるように見えたし。
先述の通り、正体を明らかにする手段がないので、気にしないでおくが。
「とりあえず回収出来るだけ回収しておくわよ」
「分かったでチュ」
まあ、とりあえず回収出来るだけ回収しておこう。
私が思った通り、伏呪に関係があるのであれば、私が望むものを作り出す手助けになるはずである。
隔離は……したくても厳しいか。
伏呪は特殊な感じがあるので、放置でも大丈夫な気もするが。
「これでよし」
「結構かかったでチュねぇ」
「そうね」
「で、これをどうするでチュか?」
さて、一時間ほどかけて、一抱え分回収完了。
自分のセーフティーエリアに持ち帰る。
そしてどう加工するかを考え……残りの素材の状態も確認する。
「……。ちょっと時間がかかりそうだし、一度『理法揺凝の呪海』へ見回りに行ってきましょうか」
「そう言えば、今日はまだ行っていなかったでチュね」
とりあえず回収した膨葉は適当な密閉できる袋に入れておき、こうして放置している間に破裂して、ガスが漏れてもいいようにしておいた。
それから、この後の作業内容的に、終わるまでダンジョンの外に出れなくなる可能性もあるので、『理法揺凝の呪海』へと行く。
「砂漠……問題なし」
「火山……問題なしでチュね」
「海……問題なし」
「サクリベス周辺……大丈夫でチュね」
「雪山……変化ありね」
『理法揺凝の呪海』に入った私たちはいつものように海流に乗って、周囲を見ていく。
なお、砂漠のさらに西、第三マップと思しきエリアも異常はない。
異常と言うか変化があったのは雪山に対応するエリアだ。
「これ、もしかしなくても挑んでいる感じかしら?」
「掲示板検索……マントデアたちが聖女様の五寸釘を利用した上で威力偵察に行っているようでチュね。加勢するでチュか?」
雪山に対応するエリアでは、カースが居るであろう星が活性化し、輝きを増している。
が、地上へと浮上する様子は見られず、自分よりも上にあるダンジョンを押し退けたり潰したりする様子も見られない。
マントデアのダンジョンも安定しているし、不穏な動きはこれと言って見られない。
「いいえ、任せましょう。それにカースとやり合った後にアレをやりたいとは思えないわ」
ザリチュが見た掲示板を見る限り、たぶんマントデアたちは負ける。
が、デンプレロの時のような酷い負け方ではなく、次に繋げられる負け方をするだろう。
それなら、今の私がジタツニのおかげで雪山のカースが巻き起こす低温環境でも問題なく活動できるからと加勢するよりも、事情を一切知らない私がいきなり飛び込んで想定外の事態を引き起こす危険性の方が大きいだろう。
後、この後にやろうとしている内容的に、疲労を貯めておきたくないと言うのもある。
「じゃっ、帰るでチュか」
「ええそうね」
と言う訳で、私たちは『ダマーヴァンド』に戻る事にした。
そんな私たちの背後では、戦闘が終了したのか、カースが居る星が非活性の状態に戻り、周囲の状況も普段通りになった。