449:ヒートビートDウッド-3
「やっぱり騒ぎになっている感じでチュか?」
「ええ、いきなり虹色の光線が飛んできて即死したとかで、結構な騒ぎになっているわね」
セーフティーエリアに戻ってきた私はとりあえず『熱樹渇泥の呪界』の掲示板に書き込みを行い、特殊な熱拍の変異樹呪との戦闘があった事だけは伝えておく。
何があったのかと騒ぎになっているが、これでまずは様子見でいいだろう。
「さて解体ね」
「でチュね」
では本題。
熱拍の竜樹呪を毛皮袋から取り出すと、解体作業を始める。
手順そのものは熱拍の幼樹呪と同じで、樹脂を剥ぎ取り、樹皮を剥ぎ取り、心材と木材を分離するといういつも通りの工程であり、私もザリチュも慣れたものである。
そして、無事に解体が終わったところで、一つ一つ鑑定していく。
△△△△△
熱拍の竜樹呪の虹樹脂
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:125
浸食率:100/100
異形度:19
熱拍の竜樹呪から採取された虹色の樹脂。
周囲の呪詛、エネルギー、物質を自分にとって都合のいいように変換する力を有している。
膨大な量の呪詛を蓄えており、その輝きはまるで宝石の様である。
注意:推奨レベル未満のプレイヤーが触れると、HP、満腹度、干渉力が吸収されます。
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熱拍の竜樹呪の霓樹皮
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:125
浸食率:100/100
異形度:19
熱拍の竜樹呪から採取された樹皮。
角度を変えて見ると僅かに色合いが変化する不思議な性質を有すると共に、鱗のような模様も見える。
様々な状態異常に対して強い耐性を有する。
上手く加工すれば、耐性そのままに繊維を取り出す事も可能。
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熱拍の竜樹呪の木材
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:125
浸食率:100/100
異形度:19
熱拍の竜樹呪の体だった木材。
様々な状態異常に対して強い耐性を有する。
軽くて丈夫だが、それ故に加工の難易度は高い。
▽▽▽▽▽
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熱拍の竜樹呪の心材
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:125
浸食率:100/100
異形度:19
熱拍の竜樹呪の体だった木材の中心部分。
極めて濃い呪いを帯びており、竜と呼ばれるような存在の精髄に近しい性質を得ている。
様々な状態異常に対して強い耐性を有するが、同時に様々な状態異常の源にもなり得る。
木材ではなく、髄を持つ骨として扱うのが適切だろう。
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「虹樹脂は現状だと気を付けて扱わないといけないわね」
「今のたるうぃだと、吸収対象でチュからねぇ」
分かってはいたが、どの素材も熱拍の変異樹呪のそれとはまったくの別物である。
そして、素材の格はズワムやデンプレロと同じ。
戦った時の感触からして、やはりボスと雑魚の差ぐらいはあるかもしれないが……いや、微妙か。
泡沫の世界のボス以上のスペックはありそうだし。
「とりあえず木材は生産器具のアップグレードに使っておくわ」
「いいんでチュか? 貴重品でチュよ」
「貴重品だけど、それ以上に有用そうだもの。生産で失敗しないためにもやるべき事はやっておくべきよ」
熱拍の竜樹呪の木材で生産器具のアップグレード開始。
現状、私が持つ生産器具の木製部分は熱拍の幼樹呪の木材製になっていたはずなので、純粋上位互換であろう熱拍の竜樹呪の木材ならば、丁度いいだろう。
「まずは、少量の繊維を毒液に漬けてっと」
続けて熱拍の竜樹呪の霓樹皮を『ダマーヴァンド』の毒液に漬ける。
ただし、全部ではなく一部だけだ。
見た目からして熱拍の幼樹呪の繊維とは別物なので、正しい方法を見つけてから処理はした方がいい。
「む……これは一手間いるわね」
「毒液が負けているでチュね。これは……」
だが、熱拍の竜樹呪の霓樹皮の耐性は、『ダマーヴァンド』の毒液では貫けないレベルであるらしい。
水分は吸っているが、それは適度な量だけで、ふやかし、繊維を取り出せるような感じではない。
「加熱……乾燥……毒性の強化……呪詛操作……」
と言う訳で、色々と試してみるが……熱拍の竜樹呪の霓樹皮の耐性は、私の工夫など何するものぞと言わんばかりに変化しない。
それこそ、漬けている毒液から取り出しても、出て来るのは入れた時と変わらない樹皮の姿である。
流石は『禁忌・虹色の狂眼』の影響を受けていると言うべきだろうか。
「いっそ物理的に引き裂いて、それで地道に取り出しましょうか」
「それはどうなんで……あ、上手くいきそうでチュね」
だが、物理耐性までは有していなかった。
なので、地道に引き裂き、叩き、樹皮を除く事で、虹色に輝く繊維を取り出していく。
普段の数倍は面倒くさいが、こればかりは仕方がない。
「そう言えばたるうぃ。虹樹脂と心材についてはどうするつもりでチュか?」
「虹樹脂についてはこの後に使う予定よ。心材は……レベルアップ次第だけど、今やっている事が終わった次に使うかもしれないわね」
「ふうん。そうでチュか」
やがて繊維の取り出しが終わったので、毎度おなじみな垂れ肉華シダの蔓の繊維と撚り合わせて糸を作り出す。
では、此処からが本番である。
「さて、服のアップデートと行きましょうか」
「やっぱりそれが目的でチュよねぇ」
私は身に着けている包帯服を脱ぐと、包帯服を引き裂き始めた。