448:ヒートビートDウッド-2
「『禁忌・虹色の狂眼』」
『呪法・方違詠唱』、『呪法・貫通槍』を乗せた『禁忌・虹色の狂眼』が熱拍の幼樹呪に向けて放たれる。
虹色の閃光が飛び散り、炎と闇が溢れ、それらが一度落ち着いた直後に爆発して、状態異常が重なっていく。
「さて来るわ……」
そうして爆発による粉塵が収まったところで、熱拍の幼樹呪から変異し、熱拍の変異樹呪となったカースが姿を現わす。
「あ、不味いわね。これ」
「でチュね」
「ーーーーー……」
そして、熱拍の変異樹呪の姿が見えたところで、私もザリチュも悟った。
真面目にやらないと返り討ちにあうと。
何故ならば、『禁忌・虹色の狂眼』を耐えて変異した熱拍の変異樹呪の姿は、4分の1ほど欠けた熱拍の幼樹呪の部分から、人の頭、6枚の翅、鋭い爪と堅そうな鱗を持つトカゲの手を生やしただけでなく、体の各部に埋まる樹脂が虹色の輝きを放つようになり、呪詛濃度にして25程度の呪詛を纏うようになっていたからだ。
明らかにただの変異では済まないレベルで強化されている。
「ーーーーー!」
「鑑定っと」
私は相手が咆哮を上げ、視界に映る範囲に居た蜻蛉呪たちが一斉に逃げ出すのを認識しつつ、『鑑定のルーペ』を向けて鑑定する。
△△△△△
熱拍の竜樹呪 レベル30
HP:134,327/134,327
有効:なし
耐性:毒、灼熱、気絶、沈黙、出血、小人、干渉力低下、恐怖、乾燥、暗闇、魅了、石化、質量増大、重力増大
▽▽▽▽▽
「あっ、はい」
耐性については予定通りだからいいのだが、名称が熱拍の変異樹呪ではなく、熱拍の竜樹呪になっている。
こうなった原因については間違いなく『悪創の偽神呪』から授かった『禁忌・虹色の狂眼』であるし、そうなると『悪創の偽神呪』が普段見せていた姿は蜥蜴ではなくドラゴンだったのかもしれない。
まあ、それよりも問題なのは、レベル30にHP10万超えという、変電の鰻呪以上の化け物である点か。
単体のボスとして見るなら、今までで一番の強敵になるだろう。
恐ろしい事に、システム上はただのボスになるのだろうけど。
「ーーーーー!」
「チュラッハァ!」
私がそんなことを考えている間に化身ゴーレムが接敵。
熱拍の竜樹呪は手を振り下ろして化身ゴーレムを攻撃しようとするが、化身ゴーレムはそれを小さく旋回して避けると、ズワムロンソの呪詛の刃部分で切りつける。
効果は……『暗闇の邪眼・2』で呪詛属性耐性を得ているので、薄そうだ。
殆ど刃が通っていない。
「ーーー!」
「うおっ、ブレスでチュか!?」
熱拍の竜樹呪の人の頭から、虹色の炎が放たれる。
化身ゴーレムは素早く離れる事で炎を避けたが、僅かに掠っていたらしく、ダメージと……状態異常を受ける。
それもスタック値こそ一桁台ではあるが、毒、灼熱、恐怖、暗闇と、複数種類の状態異常だ。
どうやら、あの炎は『呪法・貫通槍』の強制変換と、劣化『禁忌・虹色の狂眼』のような効果を合わせ持っているらしい。
「せいっ!」
私も攻撃を仕掛ける。
『禁忌・虹色の狂眼』のCTはまだ明けていないので、背後から素早く忍び寄り、ネツミテをフルスイングして、熱拍の竜樹呪の後頭部を殴りつける。
効果は……やはり薄そうだ。
だが、先ほどの化身ゴーレムの呪詛の刃による一撃よりは通っているように思える。
「ーーー……」
「げっ」
目が合った、とでも表現すればいいのだろうか。
熱拍の竜樹呪の各部についている虹色の樹脂が私を見ているような気配があった。
私はその事に嫌な気配を感じ、熱拍の竜樹呪の腕がない方……右手側に移動しつつ距離を取る。
直後、虹色の樹脂から虹色のビームが放たれる。
その威力は……偶々軌道上に居てしまった、1キロ近く離れた場所に居るプレイヤーの体を貫通、死に戻りさせるほどだった。
流石に熱拍の樹呪の樹皮は貫けない様だが、恐ろしい貫通性能である。
「たるうぃ! コイツを逃がしたら大変なことになるでチュよ!」
「分かってるわ! 最悪『ダマーヴァンド』の乗っ取りまであるわね! これ!」
「ーーーーー!」
熱拍の竜樹呪の底部から、虹色の炎で作られた尾が出現し、周囲を薙ぎ払う。
そして、それを避けるべく飛び回っている私と化身ゴーレムを狙って、腕が振るわれ、ブレスが放たれ、ビームが撃ち込まれる。
デンプレロ戦とズワム戦の経験があるおかげで、これほど激しい攻撃であっても回避し続ける事が出来るが、こちらの動きを学習しているのか、ビームに少しずつ偏差射撃が混ざり始めている。
「はははははっ! ちょっとテンション上がって来たわ! etoditna『毒の邪眼・2』」
「ちょっ、これで上がっているんでチュか!?」
「ーーー!?」
それでも私は隙を見つけ、『禁忌・虹色の狂眼』のCTも終わったので、『呪法・増幅剣』と『呪法・方違詠唱』を乗せた『毒の邪眼・2』を熱拍の竜樹呪の胴体に斉射した。
与えた状態異常は……毒(53)。
「凄い耐性ね! 耐性貫通耐性でも持っているのを疑いたくなるわ!」
少ない。
とても少ない。
まるで『毒の魔眼・1』だった頃の私が与えるような毒だ。
殆ど通っていないと言ってもいい。
「ーーーーー!」
「ザリチュ!」
「言われなくても分かっているでチュよ!」
それでも、毒を与えられたことが不快だったのか、熱拍の竜樹呪は私を撃墜するべく攻撃を仕掛けてくる。
だが私は炎を避け、腕を化身ゴーレムに弾いてもらい、ビームを体に掠らせ、毒と灼熱の状態異常を受けつつも、距離を取る。
そして、そのまま化身ゴーレムに足止めを任せ、十分な距離を取った上で次の攻撃を加える。
「じゃあ、こっちはどうかしら? etoditna『毒の邪眼・2』」
「ー!?」
撃ち込んだのは『毒の邪眼・2』。
ただし、先ほどと違い、乗せたのは『呪法・貫通槍』だ。
肝心の状態異常は……毒(230)、撃つ前から180ほど増えたことになるか。
やはり少なくはあるが……ちゃんと通ったと言える。
「さあ、ガンガン行きましょうか!」
「やってやるでチュよ!」
「ーーーーー!」
これならば倒せる。
私とザリチュはそう認識して、回避を主体にして熱拍の竜樹呪へと攻撃を仕掛けていく。
私は『呪法・貫通槍』付きの邪眼術を撃ち込み続け、化身ゴーレムはズワムロンソの伸びた刃で相手を切り裂く。
様々な状態異常が撒き散らされ、当たり方によっては即死もあり得る攻撃を、私と化身ゴーレムは潜り抜けていく。
時折、飛行能力持ちのプレイヤーがこちらに来ては、熱拍の竜樹呪の攻撃に巻き込まれて落ちて行くが、そちらは肉盾ありがとうとだけ思って、無視する。
「ーーーーー……」
「ようやく終わったわね……」
「でチュねぇ……もうざりちゅはボロボロでチュよ……」
そうして戦い続ける事3時間。
掠りダメージの積み重ねによって化身ゴーレムの残りHPが100もない頃になって、ようやく熱拍の竜樹呪のHPは尽き、浮遊力を失って落ち始め、私はその死体を毛皮袋の中へと回収した。
「装備、更新しておいてよかったわね」
「本当でチュよ」
そして、一息吐いてから、私たちはセーフティーエリアへと移動した。