446:現実世界にて-16
「あ、やっぱりデンプレロの弱体化手段はあったんですね」
「ええ、ちゃんとあったわ……」
月曜日。
『CNP』にログイン……ではなく、先週と同じように大学に来て雑談である。
と言う訳で『CNP』についての雑談なのだが、ザリア……芹亜は早速両腕を机の上で伸ばしつつ、顔を伏せて、脱力している。
「詳細は聞いても?」
「大丈夫よ。早い話が、経験値稼ぎや素材の回収だけだと行かない、けれどあからさまではない、と言う感じでギミックが隠されていたと言う話だから。まあ、中には『岩山駆ける鉄の箱』のように、レールから外れて長時間歩かないとたどり着けないような、罠の起動を前提とした場所に隠されているのもあったけど」
「なるほど。つまりは調査不足だったと」
「端的にまとめればそうなるわ……。ちなみに『かませ狐』たちがデンプレロを地上に出すためのギミックも似た感じで隠されていたみたい。つまり、砂漠組は終始『かませ狐』たちに踊らされていたことになるわね……」
まあ、自分たちは最前線組としてダンジョンをきちんと攻略していたと思っていたら、本当に重要な要素だけは悉く見逃していた。
そんなことになれば脱力の一つや二つぐらいしたくなっても当然か。
とりあえずせっかく買ったアイスが溶けてしまうので、食べよう。
うん、甘くて美味しい。
「ちなみに弱体化したデンプレロの実力は?」
「弱くはなる。けれど楽勝ではないわね。ある程度の質を持った集団が必要になると言う基本的な部分に変わりはないわ」
「なるほど。となるとソロ討伐は厳しそうですね」
「まず無理でしょうね。ブラクロが挑んでみたけど、第二形態から湧き続ける事になる演奏の蠍呪の処理が間に合わないらしいわ。でも、羽衣ならワンチャンあるんじゃないかしら。ゴーレムもあるわけだし」
デンプレロのソロ討伐は厳しい、と。
仮に私がやるなら……大量の回復アイテムに眼球ゴーレムは当たり前として、取り巻きの蠍呪たちをオートで処理できるぐらいのゴーレムは欲しいところか。
「デンプレロ素材には今のところ困っていないので、わざわざ行く理由もないですけどね」
「あらそうなの? 生産組の話を聞く感じ、結構な難物で数が欲しいって聞いているんだけど」
「難物?」
芹亜の言葉に私は思わず首を傾げる。
「ええ、上手く加工が出来なくて、素材を無駄にしてしまったと言う話はそれなりに聞くわよ。私はそういう話を聞いていて、まだ馴染みの生産職のプレイヤーに渡していないけど……どうかしたの?」
「んー……ちょっとこれを見て貰えますか」
私は芹亜に昨日作ったザリチュの化身ゴーレム用の装備をスクショした物を見せる。
スマホに映されたスクショを見た芹亜は最初に固まり、真剣な顔で読み込み、両手で目を抑えながら天を仰ぎ、それから私の両肩に手を置くとこちらの目を真っ直ぐ見る。
「羽衣。レベルが違い過ぎて笑えない。何も知らずに見せられたら、コラの類を疑うレベルなんだけど。と言うか、デメリット部分が人間お断り過ぎて、作れると知っても真似する気になれない。でもそれはそれとして、何を使ったのかや、どういう作り方をしたのかについては知りたい。でも情報の量が多すぎて、考えがまとまらないから、少し待って」
「まあ、そうですよね」
そして、何と言うか、微妙に絶望した感じの目をしつつ、口を開いた。
では、芹亜が落ち着いたところで情報提供だ。
「使っている素材は主にズワムとデンプレロの素材。素材の推奨レベルは30。私自身のレベルは作成時には28でした」
「相変わらずのレベルね……」
「一人で探索、戦闘、生産、運営までやっているから、これについては仕方がないです」
「まあそうね。とりあえず生産職が上手くいかないのは、レベル不足が原因でないのは確かね」
ちなみに最前線のプレイヤーと付き合いがある生産職のレベルは、現状だと30前後あるらしい。
つまりデンプレロ素材が扱えない原因は他にあると言う事だ。
「となると、素材の扱い方か……環境ですかね?」
「環境?」
「この装備を作る前にデンプレロの棘で、セーフティーエリアの強化をしたんですよね。その結果として、セーフティーエリアの気温と湿度がある程度弄れるようになったんです。確か、気温50度、湿度0%……それと呪詛濃度21の環境で作業はしてましたね」
「気温、湿度、呪詛濃度……確かに関係はありそうね。ちょっと待って。確か掲示板で……」
芹亜が自分のスマホを弄って、何かを調べ始め……一度固まった。
「どうかしましたか?」
「羽衣。羽衣のセーフティーエリアは気温をどれぐらいの範囲で弄れるの?」
「気温ですか。下は零下10度、上は50度まで弄れますね」
「そう。デンプレロの棘で部屋の強化したプレイヤー曰く、部屋を乾燥させること以外は出来ないらしいわよ」
おや、私と他のプレイヤーで、同じデンプレロの棘を使ったのに、強化結果が違うのか。
「そこはまあ、表に出せない技術で色々とやっていますから」
「まあ、そうよね……」
まあ、原因など言うまでもないが。
私はただ灰を塗るのではなく、『呪法・方違詠唱』の法則に基づいて文字を書いている。
それだけでなく、肉を焼く火は『灼熱の邪眼・2』だし、灰を溶く水は『ダマーヴァンド』の毒液、呪いを損なうどころか足しているような作り方になっている。
これだけの差があれば、結果に差が生じるのも当然だろう。
「あ、芹亜。一応言っておきますけど、さっきの装備については……」
「他のプレイヤーに言う気はないわね。言っても人間お断り装備過ぎて、信じて貰えないだろうし。それとお返しになるかは分からないけど、浄化属性は神殿関係で色々とやらないと、入手するのが難しいとも聞くから、そんなに気にしなくても大丈夫だと思うわ」
「へぇ。自前ではどうにか出来ないんですか」
「どうにか出来たと言う話は、現状では聞いた事がないわね」
浄化属性は神殿周りが基本と言う情報は地味にありがたい。
聖女様と敵対しなければ、浄化属性を撃たれることが少ないのであれば、デメリットを集中させる先として使いやすい。
「そう言えば芹亜。最前線の状況は……」
「そうね……」
その後も私と芹亜は雑談と言う形で情報交換をし続け、適当なところで帰宅したのだった。
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