444:メイクザリチュアームズ-2
「さて、まずはズワムの鱗を砕いてみましょうか。これの性質次第で、加工の仕方が大きく変わるでしょうし」
『でチュね』
私はまずズワムの鱗を粉砕機にセットして、叩き割ってみようとした。
なお、ザリチュの化身ゴーレムについては、後のサイズ調整を最新状態の化身ゴーレムに合わせる都合上、一度破棄している。
『化身』は基本的には同形同ステータスの化身ゴーレムが作成されるのだが、私のレベルアップに応じた強化を施されるのは作り直した時と言うのもある。
「……。普通に割るのは無理ね」
『無理でチュね』
話を戻してズワムの鱗だが……粉砕機では割れなかった。
正確には、表面がちょっと割れたのだが、目に見えるスピードで再生していき、傷は無くなってしまった。
耐久度の消費も……ちょっと割れた程度では変化がないようだった。
フレーバーテキストを見る限り、堅さ、軽さ、火炎、乾燥に対して自信があるようだが、一番の特徴はこの再生能力かもしれない。
「でも、飛び散った破片は……ああなるほど。鱗の何処でもいいから近づければ、取り込んで一つになると」
『加工は出来そうでチュか?』
「そうね。何とかはなると思うわ」
その後も火に焙ったり、毒を浴びせてみたり、呪詛属性で攻撃を仕掛けたり、乾燥させたりしたところ、どうやらある程度以上の温度にまで加熱した上で、周囲の湿度が十分に低く、その上で呪詛の操作に手慣れたものなら、ある程度は自由に成型できるようだ。
「デンプレロの甲殻は……普通に加熱すればいいみたいね」
デンプレロの甲殻については、普通に加熱すれば金属のように扱えるようなので、普通に扱うとしよう。
うん、ズワム素材と違って素直なようだ。
「さて、前の分のコストは回復したし、本格的に始めるわよ。『化身』」
「分かったでチュ」
では作り直した化身ゴーレムを採寸。
身長、肩幅、胸囲、腰回りだけでなく、腕の太さや足の長さなど、あらゆる部分を測定して、記録していく。
ちなみにザリチュの化身ゴーレムの胸部装甲は、身動きする分にはあってもなくても変わらない部位だが、カスダメに伴って失われた体の砂を補充するためのストックになっているらしい。
「えーと、こんな感じかしらね?」
作業を本格化させる。
早速使う事になった空調機能で、室温50度、湿度0%に部屋の中を調整。
鍛冶道具一式の炉の炎によってズワムの鱗を加熱。
『飢渇の邪眼・1』によって乾燥を促進。
腕ゴーレムと協力して柔らくなった鱗を引き裂き、周囲の呪詛を操作する事で鱗が不意にくっつかないようにしつつ、棒状あるいは帯状に成形。
出来たパーツに適度な曲がりを付けつつ組み合わせ、くっつけていく。
そうして出来上がったのは、化身ゴーレムの腕に合わせて作られた、鎧の腕部分。
ただし、腕全てを覆うような形ではなく、今身に着けている包帯服と同じように、腕に絡みつき、部分的に守る形。
見た目としては、複数本の長さが異なる螺旋が腕に絡みついているような形だろうか。
斬撃や打撃からは身を守れるが、刺突には弱そうな見た目になっている。
しかしこれで問題はない。
「問題ないでチュ。これなら、動くのに邪魔にならない重さと防御性能が噛み合うでチュ」
何せ使うのは人間ではなくザリチュ操る化身ゴーレム。
化身ゴーレムにとって刺突は殆ど効果のない攻撃であり、打撃も脅威度は低い。
つまり、怖いのは細い部分を狙って切り離す事で、その先の部位が丸ごと失われることになる斬撃。
だから、斬撃への防御性能と、軽さを併せ持つこの構造が良いのだ。
「デンプレロの甲殻は重要部位付近に少しずつ使ってと」
と言う訳で、肉抜きが施された全身鎧とでも呼ぶべき鎧をパーツごとに作成。
各パーツの大部分はズワムの鱗で出来ているが、一部についてはデンプレロの甲殻が持つ周囲の乾燥を進めることが出来る力に期待して、細かく引き裂いたデンプレロの甲殻を少しずつ埋め込んでいる。
パーツは……手の甲、前腕、二の腕、胸部、腹部、首、後頭部、太もも、脛、足……全部合わせて10種16個となった。
「ズワムの柔皮でパーツを繋いでっと」
こうして出来たパーツをズワムの柔皮を使って繋いでいく。
ズワムの柔皮ならば、高い柔軟性と物理攻撃への耐久性を持つので、時には360度以上回転させる事もある関節部を覆うと共に、一つの鎧である事を示すように各パーツを繋げる役目を果たせる。
なお、ズワムの柔皮を留めるのには、ズワムの鱗を細かくした物を使っている。
きちんと処理すれば一体化してくれるので、結合部の強度が低くなるとかは考えなくていいようだ。
「んー……翼のせいで背中側の守りはやっぱり薄くなるでチュね」
「それは仕方がないわよ。それに胴体を守る必要は他の部位に比べたら薄いじゃない」
「それはそうなんでチュけどね」
そうして出来上がった鎧を化身ゴーレムに砂の体の柔軟性を生かして着用してもらう。
全て身に着けた状態は……何と言うか、SF物に出て来るような戦闘用ガイノイドと言う感じか。
曲線を多用しているデザイン、胸のふくらみ、へそ回りなどの普通の人間の装備なら隠して当然の部位を隠していないからだろうか?
まあ、ゴーレムとガイノイドなら割と近似種なので、似通るのは当然なのかもしれないが。
なお、ザリチュの背中から生えている六枚の翼の都合上、肩甲骨の辺りは完全に露出している。
「ある程度動いて動きを確かめたら、一度脱いで。調整とか、塗装とかをするから」
「分かったでチュ」
まだ呪怨台には持っていかない。
化身ゴーレムが脱いだ鎧を預かると、動いた際に引っかかった部分や不具合があった部分を調整していく。
その上で、飢渇の毒砂と熱拍の幼樹呪の赤樹脂の混合物をズワムの柔皮以外の部分に塗り、乾燥させ、やすり掛けをして表面のざらつきをなくすと共に光沢を出していく。
なお、今回の塗料には上手くいけばと言う事で黄色系の花びらを混ぜて着色してみたのだが、見事な金色になった。
褐色の肌、赤色の髪、金色の肉抜きされた鎧……やっぱりガイノイド感が強い気がする。
「問題なしでチュ」
「そう、良かったわ」
なんにせよ、これで鎧そのものは完成。
後は呪怨台に乗せて呪い、アイテムとして完全に成立させるだけである。
「むんっ!」
と言う訳で呪怨台に乗せ、呪詛の霧が集まってきたところで、原始呪術『風化-活性』と『転写-活性』を全力活用。
余計な呪いは削ぎ落し、私の前衛として活躍するザリチュに相応しい物へと作り替わるように念じる。
「チューチュー……」
ザリチュも自分が使う防具と言う事で、私と同じように念じている。
途中、ズワムとデンプレロと言う二体の超大型ボスの素材を使ったためか、呪いが膨れ上がるような気配がしたが、こちらもカース二体で念じている為か、気配は直ぐに萎んで消え去った。
そして霧が晴れ、完成品となる鎧が現れた。
△△△△△
『渇路の曲線鎧』カーブワイヤーメイル
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:19
『路削ぎの蚯蚓呪』ミミチチソーギ・ズワム、『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツ、二種類の危険なカースの素材を主体として用いり、作成された黄金の鎧。
曲線を組み合わせて作られた流麗な見た目と花のように優し気な黄金色の輝きを持つため、普通の人間の目にも美しい物として留まるだろう。
灼熱無効化(30)、灼熱に対して極めて高い耐性、灼熱に対して極めて高い抵抗性を有する。
乾燥無効化(50)、乾燥に対して極めて高い耐性、乾燥に対して極めて高い抵抗性を有する。
凍結無効化(5)、凍結に対する僅かな耐性、凍結に対して僅かな抵抗性を有する。
火炎属性攻撃無効化(小)、火炎属性攻撃に対する極めて高い耐性を有する。
氷結属性に対する僅かな耐性を有する。
呪詛属性に対する耐性を有する。
物理属性攻撃無効化(小)、物理属性攻撃に対する耐性を有する。
周囲の呪詛、エネルギーの一部を吸収する事で耐久度が回復する。
耐久度が0になっても、一定時間経過後に復活する。
身に着けているものの全身に、これらの効果の一部が発揮される。
注意:着用中、着用者の水分は徐々に失われていく(極大)。
注意:着用中、着用者は1分ごとに毒(10)が付与される。
注意:接触者には乾燥と毒の状態異常が付与される。
注意:着用中、浄化属性への耐性が低下する(極大)。
注意:この鎧の周囲の呪詛濃度が10以下の場合、着用者の受けるダメージが増える(極大)。
注意:着用者の異形度が19以下の場合、体の制御権を奪われる。
▽▽▽▽▽
「チュアッ!?」
「うわ、霧みたいに……」
化身ゴーレムが鎧を着用した瞬間、化身ゴーレムの全身から霧のように水分が放出された。
これ、化身ゴーレムだから問題ないが、私が着用したら一瞬にして干物になるのではないだろうか……まあ、化身ゴーレムにとってはデメリットどころか有益な効果でしかないわけだが。
と言うか、説明文の長さも凄まじい。
流石は超大型ボス二体の素材と考えるべきか……。
見た目こそ美しいが、見事に呪いの塊である。
「と、そう言えば重さとかは……」
「問題ないでチュね。たぶんざりちゅにも『超克の呪い人』の効果が出ているんじゃないでチュか?」
「あるいは化身ゴーレムだから。かしらね」
なお、レベル不足については問題ないらしい。
それと丁度今、毒が付与されたが、化身ゴーレムに毒は効かないから、乾燥効果で霧状になって、体外へと排出されるだけだった。
まるで小規模な『呪圏・薬壊れ毒と化す』のようである。
「なんにせよ。無事に完成して何よりね。ちょっと休憩しましょうか」
「結構な長丁場だったでチュからねぇ……」
いずれにしてもこれでザリチュの化身ゴーレムの鎧は出来た。
後は剣と盾、それと可能なら空戦用に槍も作りたいところか。
なんにせよ、中々に時間がかかる作業となったので、私は休憩の為に一度ログアウトをした。
02/28誤字訂正