442:タルウィブリド・2-2
「今回のお題はドリアン爆弾の解体でチュ」
「ドリアン爆弾」
いつもの精神世界、試練の監督官であるニセムラードの第一声は割と理解しがたいものだった。
確かにドリアンは非常に臭く、まるで爆弾のように扱われもする。
しかし……スパナにマイナスドライバー、六角レンチ、ニッパーと言った工具に加えて、巨大な砂時計が置かれている隣、立派なドリアンが机の上に置かれていると言う光景は、直ぐには理解しがたいものだった。
「クリア条件はドリアン爆弾を解体して無害化する事。失敗条件はドリアン爆弾を爆発させてしまう事。と言っても、時間切れ以外の要因によって爆発させた場合は、二回までは爆発させる直前まで時間が巻き戻されるでチュ」
だがニセムラードの言葉から察するに、あのドリアンが爆弾である事に嘘はないようだ。
果実を装った姿の爆弾を解体する……なんだか昔のゲームの最初の方のステージにそんなものがあったとは思うが……いや、今は関係ないだろうし、気にしないでおこう。
「制限時間は一時間。ドリアン爆弾に触れた瞬間に砂時計が回転し、カウントが始まるでチュ」
それよりも問題はどうやってドリアン爆弾とやらを解体するかだ。
流石に爆弾解体の経験なんてものは私にはない。
そういう意味では未知の経験なので、とても楽しみだが、クリアできるかと言う面では不安しかない。
最終手段として液体窒素が欲しい。
ああでも、最近の爆弾には、通用しないのもあるんだったかな?
「で、これは明言しておくでチュが。このドリアン爆弾には初見殺しや解釈に戸惑うものの類はなく、冷静によく観察すれば、ノーミスで解体する事は可能でチュ」
「あ、それは嬉しいわね」
「羽虫相手なら問題ないと思ったんでチュが、許されなかったんでチュよ」
おっと、説明はきちんと聞かないと。
初見殺し、解釈に迷うものの類がないのは素直に嬉しい。
やり直しができる回数が限られている中で、それらを警戒して進めるのは、素人である私では幾らなんでも無理だし。
「では始めるでチュよ」
「分かったわ」
そうしてニセムラードは消え去り、私は工具の一つとして用意された虫眼鏡を手に取る。
いきなりドリアン爆弾に触れたりはしない。
まずは触れずに分かる範囲の観察だ。
「ふむ……」
どうやら私の行動は『CNP』側も想定しているらしい。
砂時計は回っていないが、ドリアン爆弾を中央で水平に切る形で切れ込みが見える。
また、幾つかの棘の根元にも切れ込みが見え、こちらは恐らくだが回転させて外す事が出来るのではなかろうか?
「じゃあ行きましょうか」
では解体開始。
ドリアン爆弾に触れると同時に、巨大砂時計が回転して、カウントが始まる。
私はそれに目もやらず、切れ込みがあった棘の一つをつまむと、軽く捻る。
すると少しだけ緩む感覚があった。
引っかかりの類はなかったので、そのまま緩められるだけ緩め……外す。
「ネジね。つまりは……」
外れた棘によって隠されていたのは、極普通のネジ。
他の根元に切り込みがあった棘も同様に外せると共に、ネジが隠れていた。
ドリアン全体については、中央にある水平の切れ込みに沿って回したり、上げたりしても動かない。
なので私はドライバーを使って、ネジを素早く外していく。
そうして全てのネジを外したところで、ドリアン全体を軽く捻ったところ、上半分を外す事が出来た。
なお、私はこの時点で構造的におかしいんじゃないかと言う疑問の類を抱く事を止めた。
『CNP』に呪いがある時点で、マトモな構造であることを気にするだけ無駄であるし、爆弾解体ゲームにそういう正しさを求めるのは野暮だと思ったからだ。
重要なのは、爆弾の解体である。
「……」
はい、と言う訳でドリアンの上半分を外した先にあったのは、0~9までの数字が振られた10個の導線。
順当に行けば、これを切ればいいのだろう。
配線が張られているのが金属製のパーツで、端に電源付きの蝶番が見える事から、正しく切れば、蝶番が動いて、開けられるのだろう。
ただ、切る場所を間違えたら爆発するのだろうけど。
「えーと……」
当然だが、全部の組み合わせを試す運ゲーなどやっていられる訳がない。
と言う訳で、ヒント探し。
ヒントは……直ぐにあった。
外したドリアンの上半分に『Cut 4639』と、小さく文字と数字が書かれている。
おまけに数字の上には右方向への矢印付き。
「4、6、3、9、と」
つまりこの順番に切れと言う事だろう。
なので私は4、6、3、9の順に切る。
すると、電子音と共に金属製のパーツが跳ね上がって、その先にある物が扱える位置にまで上がってきた。
「まずはケースを外してっと」
六角レンチとドライバーを使って、上がってきたそれの一番外側、透明のケースを外す。
中に入っていたのは、黒い球体に白の髑髏が描かれた見るからに爆弾ですと言う物体に、白と黒の二色の導線、電子タイマーが付いている電源装置を一つにまとめたものだ。
順当に行けばどちらかの導線を切る事で、爆弾を無力化、解体完了となるのだろう。
しかし、ノーヒントでよくて5割の勝負に挑む気などないので、まずは観察だ。
「油断ならないわね……」
そうしたら案の定だった。
電源装置に小さく浅い穴があって、その奥にボタンがあった。
そのボタンは手持ちの工具類では押せないようになっているが、最初に外した棘ならば押せる。
と言う訳で押してみたところ……。
≪呪術『出血の邪眼・2』を習得しました≫
「解体成功みたいね……」
試練終了のアナウンスと共に、私の精神は通常の空間へと引き戻された。
「あ、戻ってきたでチュね。どうだったでチュか?」
「ドリアン爆弾だったわ」
「チュア?」
さて、ザリチュに『何を言っているんだコイツは』的な目を向けられたが、それに構わず私は習得した『出血の邪眼・2』のスペックを確認する。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル28
HP:895/1,270 (-375)
満腹度:97/150 (-45)
干渉力:127
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の達人』、『灼熱の名手』、『沈黙の名手』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖の名手』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『魅了使い』、『重力使い(増)』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『3rdナイトメアメダル-赤』、『七つの大呪を利する者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『偽神呪との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』、『いずれも選ばなかったもの』、『呪海渡りの呪人』、『泡沫の世界の探索者』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・2』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・2』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『重石の邪眼・2』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・原始呪術:
『不老不死-活性』、『不老不死-抑制』、『風化-活性』、『転写-活性』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』、『化身』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール、呪詛貯蓄ツール×5設置
システム強化
呪怨台参式・呪詛の枝、BGM再生機能、回復の水-2、結界扉-2、セーフティ-2
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『出血の邪眼・2』
レベル:25
干渉力:120
CT:4s-4s
トリガー:[詠唱キー][動作キー]
効果:対象周囲の呪詛濃度×1.5(小数点以下切り捨て)+1の出血を与える
伏呪
トリガー:[詠唱キー]
効果:この呪術の効果によって生じたダメージを受けたものに毒(与ダメージの25%)、灼熱(与ダメージの25%)を与える。
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りの内に直接傷を潜ませ、別の傷が刻まれた時に開くのだから。
そして開かれた傷は更なる傷を近くに居るものへともたらすのだから。
注意:使用する度に満腹度が1減少。
注意:伏呪使用時には更に満腹度が1減少。
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「伏呪は……ああなるほど。いい感じの効果ね。詠唱キー変化も特に問題なし、と」
一番の強化ポイントは、やはり伏呪の部分だろう。
出血で与えたダメージに応じて毒と灼熱を与えられる効果は、考えて使えば、極めて有効な一撃になるだろう。
発動の際に必要な詠唱キーの変化については、具体的に言えば、『出血の邪眼・2』から『出血の邪眼・2』になる。
マスタードの部分は変更不可であり、タルウィブリドの部分を変えると、自動的にタルウィブリドマスタードの方にも変更が及ぶようになっている。
マスタードの由来は……たぶん化学兵器のマスタードガスだろう。
「伏呪を入れないように出来るのは強いでチュね」
「ええ、撃ち分けが出来るのは便利で良いわ」
だが、最も素晴らしいのは、必要に応じて伏呪込みと伏呪無しで撃ち分けられる事か。
これまで通りの使い方も出来るのは、邪眼術を生産に使う事もある私としては非常に嬉しい事である。
「さて、今日はそろそろログアウトするわ」
「明日からはどうするでチュか?」
「そうね……」
と言う訳で確認終了。
これならば、今後の活躍を大いに期待できそうだ。
で、明日からの予定だが……私はザリチュの操る化身ゴーレム、間に合わせで作った装備を身に着けているそれへと目を向ける。
「まずは化身ゴーレムの装備。そこから行きましょうか」
「おおっ、遂にズワム素材解禁でチュね!」
「そういう事ね」
私のレベルは28。
これだけあれば、ズワム素材、デンプレロ素材でも扱えるはずだ。
なので、明日からはこの二種のカース素材を使った装備品、アイテム、それに……『毒の邪眼・3』を目指してみるとしよう。
鈴木
02/27誤字訂正