441:タルウィブリド・2-1
「さて、早速作業を始めましょうか」
「でチュね」
残りの必要な材料はネズミゴーレムに集めて貰ったので、作業を開始する。
まずは『ダマーヴァンド』の毒液、刻んだ伏呪の草呪の胚珠、良く磨り潰した毒泡生みの種をミキサーに投入して、ドロドロの液体にする。
「うーん、今までに比べて本当に楽ね」
「文明の利器ってやつでチュねぇ……」
「文明は文明でも、この世界的には既に滅んだ文明だけどね」
そうして出来た液体を鍋に移して、加熱。
十分に温まったところで、適度な大きさに刻んだ出血毒草、『ダマーヴァンド』の赤豆、余っていた炎視の目玉呪のゼラチンを投入して、更に煮込む。
「etoditna『毒の邪眼・2』」
十分煮たところで、『呪法・貫通槍』による強制変換付きの『毒の邪眼・2』を撃ち込んで、鍋の中にあるものを一様に溶かしていく。
その上で更に加熱し、沸騰したところで火を切る。
これで中に注ぐ物は出来た。
「そう言えば、今回は録画しないんでチュね」
「出来上がるであろうものの性質からして、わざわざ表に出す必要はないと思うのよね。そういう訳で、今回は掲示板に上げる気がないの。だから録画も必要ないと判断したわ」
そして、この間に喉枯れの縛蔓呪の球根を加工して、中に液体を注げるようにすると共に、熱拍の幼樹呪の木材による栓、垂れ肉華シダの蔓も準備しておく。
「作成工程が『死退灰帰』に似ているでチュね」
「そうね。と言うか、ほぼ同一じゃないかしら」
鍋の中身がある程度冷えていることを確認。
球根の中へと注ぎ込んでいく。
で、十分な量が入ったところで栓をして、葉が付いたままの垂れ肉華シダの蔓を巻きつけて、固定をする。
「これでよし」
そうして蔓の固定が終わったところで、恒温振盪槽……一定の温度を保ちつつ、設定した動きでセットした物を揺らしてくれる装置へと、球根をセットする。
「チュ? 呪怨台で呪わないんでチュか?」
「今回のこれは、リアルで言うなら発酵の類であると考えているわ。で、発酵を効率よく進めるのなら、静置ではなく、ある程度動かした方がいい。だから、この装置を使うの。ただ、それでも発酵には時間がかかる。呪い……と言うよりゲームの仕様によってある程度は簡単かつ高速で進行するようにはなっているでしょうけど、リアルで6時間から8時間、ゲーム内では18時間から一日は必要であると考えているわ。で、『死退灰帰』の件から考えて、発酵が完全に終わってから呪怨台で呪った方が、私が目的としている物体の作成が簡単になると考えられるから、呪怨台で呪うのは発酵が終わってからになるわね」
「長いでチュ。まとめるでチュ」
「一回ログアウトしてから呪います」
「最初からそう言えばいいじゃないでチュか……」
装置は問題なく動き出した。
では、緊急案件も現状ないので、一度ログアウトしよう。
----------
「はいログインっと」
「お帰りでチュー」
リアルで7時間ちょっと経ったところで再ログインした。
さて、球根の状態は……。
「……。あー、炭酸発酵?」
「蔓が栓ごと抑えているから大丈夫みたいでチュけど、そうでなかったら、吹き飛んでいそうな気がするでチュね」
きっちり入れたはずの栓が少しだけ浮いていた。
どうやら球根の中の液体がガスの類を発生させたために、栓が浮いてしまったようだ。
「酒の類にはなっていないのよね」
「そういう匂いはしないでチュね。まあ、あの毒液が酒になるのは色々と無理があるでチュよ」
「そうかしら?」
「そうでチュよ」
球根を軽く振ってみる。
固形物がある感じはしない。
どうやら、きちんと全部溶け切ったようだ。
では呪怨台で呪うとしよう。
「私は第一の位階より、第二の位階に踏み入る事を求めている」
呪怨台に球根を乗せると共に、呪詛の霧が集まって来る。
なので、原始呪術の『転写-活性』を発動すると共に、『七つの大呪』への干渉をしていく。
「私は、私がこれまでに積み重ねてきた結果生まれてきたもの、出血を扱う生ける呪いの力、それらを知る事で歩を進めたいと願っている」
風化で余分な成分を飛ばし、蠱毒で飛ばした成分を有益な物に変え、転写によってこれらを効率的に行っていく。
伏呪の草呪の胚珠の影響か、反魂と再誕がやけに出張ってきている感じがあるので、これは幾らか抑える。
魔物と不老不死は……まあ、気にしなくていいか。
「私の出血をもたらす蘇芳の眼に変質の時よ来たれ。望む力を得るために私は爆弾を食らう。我が身を以って与える傷を知り、喰らい、己の力とする」
霧が蘇芳色に変化すると共に、幾何学模様が生じる。
小さな泡が幾つも生じて弾けるような音、時計が時を刻むような音、何かがゆっくりと裂けるような音も小さくだが聞こえてくる。
「どうか私に機会を。相手を内から切り裂くだけでなく、切り裂き得た血を以って更なる災いを招く。輝きは変わらずとも禍々しき出血の邪眼を手にする機会を。citpyts『出血の邪眼・1』」
最後の言葉と共に、球根の中身を対象とした『呪法・感染蔓』込みの『出血の邪眼・1』を撃ち込む。
それに合わせて呪怨台周囲の霧が球根の中に吸い込まれて行き、球根が変形していく。
そうして霧が晴れた後に現れたのは……ワイングラスに似た容器に入った蘇芳色の液体だった。
「出来たわね」
「でチュね」
容器には蔓のような精緻な模様が描かれており、これ単品でも何かに使えそうな気がするが……たぶん、中身を飲み干したら消えてしまうのだろう。
まあ、とりあえず鑑定。
△△△△△
呪術『出血の邪眼・2』の杯
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:17
呪われた毒の液体が注がれた杯。
覚悟が出来たならば飲み干すといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、試されるのは覚悟だけではなく、君自身の器もである。
さあ、頭を良く冷やしてから挑むといい。
▽▽▽▽▽
「ふうん……」
これは……謎解き系が来そうな気がする。
なんか冷静になってから挑めと書かれているように思えるし。
「じゃあ、ちょっと挑んでくるわ」
「分かったでチュ」
まあ、どんな課題が出て来るにせよ、挑む以外の選択肢は私にはない。
そう考えつつ私は液体に口を付け、苦味や渋みを感じつつ、一気に飲み干した。
直後、私は精神世界へと移動した。