439:バブルワールドシーク-5
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「「「アドニイイイィィス!」」」
「鑑定っと」
「とりあえず一発ぶん殴るでチュよ」
花のカースは花びらとなった動物たちに叫び声を上げさせつつ、黄色い花粉のような物を周囲にばらまく。
それに対して私は後方に飛びつつ、『鑑定のルーペ』で鑑定。
ザリチュ操る化身ゴーレムは盾を前に出しながら、床を蹴って進む。
鑑定結果は……
△△△△△
伏呪の草呪 レベル25
HP:10,000/10,000
有効:毒、灼熱、気絶、沈黙、出血、干渉力低下、恐怖、暗闇、魅了、石化、質量増大、重力増大
耐性:小人
▽▽▽▽▽
「あ、はい」
うん、これは確実に面倒くさいやつだ。
ボスのはずなのにHPが1万しかないのもおかしいが、それ以上に有効判定になっている状態異常が多すぎる。
明らかに何かしらの罠が仕込まれている。
伏呪と言う名前も……呪いを伏せるならまだしも、伏せられた呪いだと、中々に厄介なことになる気がする。
「チュラッハァ!」
「「「アビュ……」」」
だが攻撃しない事には話が進まない。
だから私と同じ情報を得て、同じような結論を出したであろうザリチュは、化身ゴーレムの足を止めずに、花粉のカーテンを突き抜け、盾で伏呪の草呪の花部分を殴りつける。
そして何枚かの花びらが散った。
「ウモウゥ……」
「アアアァァァ」
「ベエエェェェ」
「うわ、キモイでチュ」
「まあ、そう言う手合いよね……」
散った花は重力に引かれて、床に落ちた。
すると一枚一枚が長さ1メートル以上は優にある花びらは、地面に付くと同時に胴体部分が潰れた動物として、動き出し、こちらへと這い寄ってくる。
その顔に生気はなく、水気もない、明らかにゾンビ化している。
そして伏呪の草呪の散った花弁は、いつの間にか既に再装填されている。
どうやら、今の状況でも、反魂と再誕の暴走は続いているらしい。
「ザリチュ、雑魚は任せるわ。etoditna『毒の邪眼・2』」
「分かったでチュ! あ、弱いでチュね。コイツら」
幸いにして元花びらのゾンビたちの戦闘能力は低いようなので、ザリチュは振り回されるゾンビの両腕と頭を避けて、的確に首と腕を斬っていく。
その間に私は伏呪の草呪本体に『毒の邪眼・2』を『呪法・破壊星』、『呪法・方違詠唱』込みで撃ち込む。
与えた状態異常は毒(1,208)。
これが素直に入るなら、後100秒ほどで伏呪の草呪は倒せるが……。
「「「アアァァドニイィィスウゥゥ……」」」
「ち、やっぱり面倒くさいタイプね」
伏呪の草呪の花びらが一枚落ちる。
その花弁はゾンビ化しようとしたが、這おうとした次の瞬間には動きを止めていた。
そして伏呪の草呪は大したダメージも受けておらず、毒状態も治っていた。
どうやら全ての毒を一枚の花弁に集めて切り離す事で、実質的な解毒をしたらしい。
「たるうぃ、感染蔓の再使用は?」
「後2分か3分ぐらいだったと思うわ」
「「「アドニイィィス!!」」」
恐らくだが、伏呪の草呪に一定値以上のダメージを一度に与えようとすると、その一定値までしかダメージが入らないようにやり過ごされてしまうようだ。
では、こういう敵を倒すのに有効な手段は?
当然だが、多段攻撃である。
そして、私が有する中で最もヒット数が多い攻撃と言えば、やはり『呪法・感染蔓』になる。
が、この場に辿り着くのに一度使ってしまったので、次に使用できるようになるまではもう少しかかる。
「む……花粉が……」
流石に部屋中にまんべんなく散らされた花粉を避けることは出来ない。
伏呪の草呪が放った花粉に私は触れてしまう。
だが、ダメージもなければ、状態異常の表示もない。
しかし、効果量が少なすぎて、防具で完全にシャットアウトしてしまった可能性よりも、何にかかったか理解しなければ、表示されないタイプの状態異常にかかった可能性を追うべきだろう。
「『灼熱の邪眼・2』」
「「「ーーー!?」」」
私は四つの目それぞれで、伏呪の草呪の花びら四枚を狙って『灼熱の邪眼・2』を放つ。
すると四枚の伏呪の草呪の花びらが燃えて、地面に着き、ゾンビになることなく、そのまま燃え尽きた。
それと同時に、私の全身から血が噴き出し、HPが100ほど削れる。
と同時に、『灼熱の邪眼・2』のコストではない形で、灼熱の状態異常が50程度だが付与された。
「これは……」
何が起きたのか?
『灼熱の邪眼・2』の発動と同時……いや、出血の発動と同時に付与されたのは間違いない。
だが、こちらが攻撃した瞬間に伏呪の草呪が動いた様子は見られなかった。
であるならば、出血の付与と同時に、密かに付与されて、出血の効果が露わになると同時に、こちらも露わになったと踏むべきか。
「『出血の邪眼・1』」
「ちょっ、何やっているんでチュか。たるうぃ!?」
「ちょっとした検証よ」
私は自分に目一つ分の出血を付与した。
自分で付与した物なので、通常は見えない、22と言う出血の状態異常のスタック値も見ることが出来ている。
そして、その状態で伏呪の草呪の花粉に触れたが、カウントは微動だにせず。
だが、適当に『灼熱の邪眼・2』を放って条件を満たすと、伏呪の草呪から付与された分も含めて、全ての出血がきちんと効果を発揮した。
「アドニイイィィス!!」
「なるほどね。これが伏呪と言う奴なのかしら。面白いわね」
「感心している場合じゃないと思うんでチュけど!?」
この結果からして、効果そのものは同じ出血であっても、別の状態異常としてスタック値が貯まると言う扱いをされているらしい。
うん、私が使えるようになれば、色々と悪用出来そうな気はする。
「分かっているわよザリチュ。そろそろ仕留めるわ」
「頼むでチュ!」
なお、私がこんなことをしている間にも伏呪の草呪は行動しており、槍のような根っこを地面から引きずり出すと、それによる突き攻撃をザリチュに仕掛け始めていた。
が、ザリチュの実力なら単純な槍での攻撃を捌くのは難しくはなく、花粉についても化身ゴーレムの身には出血は効果がない。
そして、出血が入らなければ、それに連鎖して発動する灼熱も入らないと言う事で、何の問題もなく対処は出来ている。
では、フェアリースケルズできちんと回復してから、反撃である。
「ezeerf『灼熱の邪眼・2』!」
「「「!?」」」
三つの呪法を乗せた13の目による『灼熱の邪眼・2』が伏呪の草呪の花弁に命中。
伏呪の草呪は直ぐに火が点いた花弁を切り離すが、切り離された花弁は地面に着くよりも早く伏呪の草呪に向けて蔓を伸ばし、次の火を点ける。
伏呪の草呪はその部分もまた切り離そうとするが……と言う事で、以下ループとなって、伏呪の草呪の全身へと火が燃え移っていき、その身も周囲の花粉も焼いていく。
「一気に攻めるでチュよぉ!」
「言われなくても」
「「「ーーーーー!?」」」
そうして燃え上がった伏呪の草呪に向けて私とザリチュは接近。
花びらと言うダメージを肩代わりしてくれる部位がなくなった伏呪の草呪に向けて、それぞれの武器を叩きつけ、HPを削り取っていく。
「アドニイィィスウゥゥ……」
やがて伏呪の草呪の体は崩れ落ち、『理法揺凝の呪海』に通じる門が開かれた。




