436:バブルワールドシーク-2
△△△△△
泡沫の世界
レベル:25
生存の可否:可
残り時間:06:58:45
▽▽▽▽▽
≪注意! このダンジョンは崩壊直前です! 崩壊に巻き込まれた場合、このダンジョン内で得た全てのものはなかったことになります! 残り時間は06:58:43です≫
△△△△△
臭泡溜まった鍋の底
とても大きな鍋の底。
けれど溜まっているのは誰にも出されなかったもの。
どちらにもなれなかったのだ。
呪詛濃度:13 呪限無-浅層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
≪ダンジョン『臭泡溜まった鍋の底』を認識しました≫
「……」
「気温は85度。普通の人間が長時間居たら、全身に火傷を負って死ぬ環境でチュね。チュー……温度はともかく、湿度が高いから、ざりちゅ的にはきつい環境でチュねぇ」
私は火山エリアで、生存可能な泡沫の世界を発見したので突入した。
広がったのは、煮立ち泡立つ黄色い液体の海と、その海に浮かぶ泥と岩の中間ぐらいな感触のある足場が続く風景。
広さは直径にしておおよそ3キロメートルほどであり、端には垂直な金属の壁が立っている。
高さは200メートルほどで、天井は滑らかな金属製の平面。
動くものは私、ザリチュ、黄色の液体の海を泳ぐ何か、四足獣型の何か、湯気、それくらいか。
名前通りに此処は鍋の底なのだろう。
まあ、そこまではいい。
問題はだ。
「何この酷い臭い」
「まあ、酷い臭いではあるでチュね」
「ザリチュの鼻は……」
「問題ないでチュよ」
鼻が曲がりそうなほどに臭い事だ。
硫黄臭どころではなく、父親の靴下の臭いと言うか、排泄物の臭いと言うか、あるいは屁の臭いと言うか……とにかく酷い臭いがしている。
ザリチュが大丈夫なのは、元がゴーレムだからなのか、ネズミに近しいからなのか、カースだからなのか……とりあえず支障を来たしていないようならいいか。
なお、私自身の嗅覚は完全に死んでいるし、気を付けないと咽そうである。
「とりあえず採取と雑魚モンスターからでチュね」
「まあそうね……」
なんにせよ侵入した以上はアイテムと経験値を出来る限り回収した上で、脱出する事を目指すのみである。
さて、肝心のモンスターは……。
「ポンポポ……パンッ」
「モモモコッコ……ベエェェェ」
「今までで一番精神的にきついかもしれないわね……」
「たるうぃにしては珍しい意見でチュねぇ」
黄色い液体の海を泳いでいたのは、幾つもある突起から黄色い泡を生じさせては弾けさせつつ、その勢いで浮いたり進んだりしているウニモドキの生物。
地上を歩いている四足獣はよく見れば、様々な反芻する動物の頭を繋ぎ合わせて作られた四足獣であり、全身の口から碌でもない気体と液体を吐き出している。
そしてこいつらはマップ内を暫く歩き回り……やがて周囲に自分の肉と強烈な臭いを撒き散らしながら自爆する。
うん、私は未知は好きだし、未知を得るのに必要なら汚物だって扱おうとは思うが、その……流石にこれは不快感が勝る。
「手応えもないし……素材も微妙だし……」
「ハズレダンジョンと言う奴でチュかね?」
「かもしれないわね……」
おまけに戦闘そのものは苦戦も何もせず、邪眼術をちょっと撃ち込むだけで終わる。
そうして得られる素材はレベル20代のどうでもいい感じの素材。
「まあ、不成立ダンジョンになるのは分かるわね……」
元々火山マップに対応するエリアには、泡沫の世界が大量にある。
それはつまり、一つ一つのマップに渡される呪詛の量が少なくなっている可能性があると言う事。
そんな場所で煮炊きの為にエネルギーを、大量の臭う気体の為にエネルギーを、自爆してしまうモンスターの為にエネルギーを、などと言うエネルギーをとにかく使いまくるダンジョンが存在するのは無理がある。
この浪費を補えるだけのエネルギー源を用意できるならともかく、そうでないなら……まあ、成立なんてする訳がない。
「……。でも推奨レベルは25……。何かは隠れている、か」
「そう言えばそうだったでチュねぇ」
私はモンスターを適当に処理しつつ、改めて呪詛支配圏を広げる事で、妙な変化が生じている場所がないか探る。
脱出を邪魔する何かもまだ見つけていないし、急がないといけない。
「む。なんか変なのが来てるわね」
「変なのでチュか?」
「ええ、鍋の底の方から、呪詛を吸う能力を持ったのが、少しずつこっちに上がって来てる」
私は適当にモンスターを処理する。
すると、鍋の底の方にあったものが少しだけ浮上する。
どうやら、雑魚狩りが必須だったらしい。
放っておいても勝手に自爆するモンスターたちなので、私が感知しているこれも勝手に上がってきそうだが。
残り時間は……邪眼術の使用による短縮もあって4時間ほど。
これならば大丈夫か。
「オベエェェ……」
「来るわよ」
「分かったでチュ」
やがて遠くの方でモンスターが自爆。
それに合わせて、ついに鍋の底から上がってきたものが姿を現わす。
「……。帰りたい……」
「本当に珍しくたるうぃがやる気を削がれているでチュね……」
それは様々な動植物がまとめられた団子状のものであり……出現と同時に周囲のモンスターが全て自爆してしまうほどに臭い塊だった。
「ezeerf『灼熱の邪眼・2』」
とりあえず焼く。
呪詛の流れや感覚からして、モンスターではなく、ただの肉の塊っぽいが、この泡沫の世界の核ではあるらしいので焼く。
焼くと周囲へと更に酷い臭いが立ち込め、正直涙が溢れてきそうになるのだが、それでも焼く。
可燃性の気体が溢れているおかげなのか、火の燃え広がり方がとても良い事だけが救いか。
「これ、破壊したらそのまま泡沫の世界が消えるなんてことはないでチュよね?」
「あるかもしれないわねー……」
残り時間は順調になくなっていく。
しかし、少しずつ火の気も収まっていく。
やがて火が消え、肉の塊があった場所に残されていたのは……。
「何かの植物の種っぽいかしら?」
「でチュねぇ」
大きな梅干しの種っぽい見た目をした何かだった。
臭いの発生源はきちんと燃えたのか、この種からは特に臭いはしない。
今の私の鼻はぶっちゃけ当てにはならないが。
「んー……脱出は出来るようになったみたいだし、脱出しましょうか。鑑定はそれからで」
「分かったでチュ」
なんにせよ、このダンジョンの核は無くなり、ボスは元から居ない。
私の脱出を妨げるものはなく、私は泡沫の世界の外に出た。
そして、種のような何かの鑑定結果は……。
△△△△△
毒泡生みの種
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:15
有毒性の気体を生じさせる呪われた植物の種。
発芽には呪詛、毒気を含まない空気、清浄な水、血抜きされていない動物の肉などを大量に必要とする。
そこにあるだけで周囲に被害をもたらす、正に呪われた植物である。
▽▽▽▽▽
「割って。ザリチュ」
「分かったでチュ。チュアッ!」
ろくでもないものだったので、ザリチュの化身ゴーレムの握力と砂の削り能力によって割り、発芽出来ないようにしておく。
ああでも、割った後のは回収しておく。
発芽させると碌でもないことになるが、発芽しない状態のものであれば、それなりに使い道はあるだろう。
此処で捨てるとあの偽神呪に怒られそうと言うのもあるが。
「しかし泡沫の世界。予想以上に厄介ね……。まさかゴミ山の方が遥かにマシな環境があるだなんて……」
「否定は出来ないでチュねぇ……」
とりあえず今回の探索は経験値含めて碌な成果がなかったと言っていいだろう。
いや、臭くない普通の空気がどれだけ素晴らしい物かを感じる事が今現在出来ているのは、成果なのかもしれないが、そんな成果はちょっと……嫌だ。
「もう一ダンジョン行っておきましょうか」
「次は当たりだといいでチュね」
私とザリチュは自分たちの状態に問題がない事を確認すると、次の泡沫の世界に飛び込んだ。
02/20誤字訂正