435:バブルワールドシーク-1
「ログインっと」
「今日は何をするでチュか?」
土曜日。
ログインした私は『ダマーヴァンド』でするいつも通りの作業を終えると、準備を整えた上で結界扉の前に立つ。
「勿論レベル上げよ。出来れば今日中には28にしたいわね」
「でチュか」
「と言う訳で、他のエリアの攻略状況を確認しつつ、泡沫の世界の攻略をするわ」
そして『理法揺凝の呪海』に入った。
「さて……どれにしましょうか?」
「どれも見た目では分からないでチュよねぇ……」
『理法揺凝の呪海』から見た限り、何処のマップも異常はないようだった。
これならば、今日は自分のレベル上げに専念していいだろう。
と言う訳で、砂漠マップに対応するエリアでどの星に入るのかを考えているわけだが……やはり外からでは中の様子は窺えなさそうだ。
となれば、数撃てば当たると言うか、当たれば儲けものと言うか、そういう精神で入るのが妥当な気がする。
「よし、これにしましょうか」
「分かったでチュ」
そうして暫く悩んだ私は一つの星に狙いを付け、触れる事で泡沫の世界の中へと入っていく。
「あ、駄目だこれ」
「詰んだでチュね」
≪注意! このダンジョンは崩壊直前です! 崩壊に巻き込まれた場合、このダンジョン内で得た全てのものはなかったことになります! 残り時間は10:57:32です≫
周囲の光景が切り替わった。
宇宙のような光景から……吹雪が吹き荒れる白銀の空間へと。
どの方向を見ても白しか見えず、水分と冷気、その両方を含む私たちの天敵と言ってもいい気候は、ほんの数秒で化身ゴーレムを破壊し、懐炉札で対抗しようとした私のHPも削り切った。
△△△△△
吹雪く冷凍庫の迷宮
どんなものも新鮮なまま保管しようとした巨大倉庫。
しかし、運び出す先はもうない。
どちらにもなれなかったのだ。
呪詛濃度:13 呪限無-浅層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
≪ダンジョン『吹雪く冷凍庫の迷宮』を認識しました≫
≪ダンジョン内に居る全てのプレイヤーが死亡したため、ダンジョンは崩壊しました。このダンジョン内で得た全てのものはなかったことになりました≫
「うん、無理ゲーだったわね」
『吹雪は駄目でチュよ。吹雪は』
と言う訳で、ダンジョンそのものの鑑定をするのが限界であり、私は『ダマーヴァンド』に戻された。
化身ゴーレムはきっちり壊されているので、消費した時間含めて丸損である。
「しかし、これは何か考えないと拙いわね……」
『吹雪対策をでチュか?』
「そっちはズワム毛皮を加工出来るようになれば、なんとかなるわ」
『そう言えば、低温にも耐性があるとフレーバーに書かれていたでチュね』
極度の低温については、ズワムの毛皮を加工出来るようになれば、何とかなる見込みはある。
超大型ボスの毛皮であるし、同格が放つ冷気でもなければ、何とかはなると思うのだ。
と言うか、何とかなってくれないと、私は雪山の攻略が厳しくなる。
「それよりも、突入前に中の情報を得る手段が欲しいわね。活動すら出来ない環境があるのは流石に想定してなかったわ」
『そっちでチュか』
それよりも問題は泡沫の世界の環境が私の想像以上に厳しいパターンがある事が判明した事だ。
今回は私自身の氷結属性への耐性の低さも原因の一つとしてあるが、それは言い訳に過ぎない。
数撃てば当たるとかも、苦戦はしつつも最低限の行動は出来て、工夫による対処が出来るからこその話。
何も出来ないままに死ぬのは、ただのロスでしかない。
「……。今回は極低温だったけど、もしかしたら気温が数百度の超高温とか、そもそも空気がないとか、有毒性の気体で満たされているとか、あるいはもっと変な状態になっている可能性とかもあり得るかしら」
『ない……とは言えないんでチュよね。泡沫の世界は地上には出てこないでチュし、呪限無として成立もしない。そもそも不安定だからこその泡沫の世界でチュし、その不安定の方向性次第では……と言うのはありそうでチュよね』
うん、早急に何か考える必要がある。
流石に現状であらゆる環境に適応できるように準備を整えてから突入します、と言うのは無理があるし。
そもそも、適応できる環境の幅を広げられるズワムの毛皮を使えるようになるために、挑もうと考えているのだし。
「中を調べる……調べる? あー……ちょっともう一回行ってみましょうか」
『何か気付いた感じでチュか?』
「ええまあ。私が考えた通りなら……まあ、シンプルに時間を無駄遣いしたわね」
私は再び『理法揺凝の呪海』に突入する。
そして砂漠エリアに入ると、泡沫の世界に近づいていく。
が、手は伸ばさず、中に入らないようにする。
「鑑定っと」
『そう言えば試していなかったでチュね』
で、目の前の泡沫の世界に『鑑定のルーペ』を向けて、鑑定をしてみた。
その結果がこれである。
△△△△△
泡沫の世界
レベル:25
生存の可否:不可
残り時間:08:27:11
▽▽▽▽▽
「おおう……鑑定出来た……」
単純な見逃しをしていた事実に私は思わず頭を抱える。
情報量が多いとは口が裂けても言えないが、推奨レベル、中に入って生きていられるかどうか、残り時間が入る前に分かるのはとても大きい。
気になるのは生存の可否の項目がどういう条件で変わるかだが……これについては情報を集めないと分からないか。
環境のどこを見ているのか、私自身のスペックだけか、装備品込みか、消費アイテムや呪術込みか、変化する要因になりそうなものが多すぎる。
なお、デンプレロが居た星や、地上にダンジョンとして出ている星、距離がかなり離れた場所にある星などについては鑑定出来なかった。
どうやら手を伸ばせば触れられるくらいの距離にある泡沫の世界限定で、鑑定が可能になるらしい。
「んー……火山のエリアに行ってみましょうか」
『理由は?』
「あっちなら泡沫の世界でも高温ダンジョンが多いと思うのよね。そこで鑑定結果が生存可能で、実際の環境が高温のダンジョンに入れれば、とりあえず装備品込みのスペックで判断しているのは確定できると思うのよ」
『なるほど。道理でチュね』
「じゃ、一度『ダマーヴァンド』に戻って、化身ゴーレムの再作成をしてから行ってみましょうか」
『分かったでチュ』
と言う訳で、私はとりあえず『ダマーヴァンド』に戻ったのだった。