433:ドライセルイール-1
「ログインっと」
『あれ? ログインするんでチュね。てっきり今日はもう終わりと思っていたでチュ』
「ログインするわよ。デンプレロを倒しただけじゃ、今日のログイン時間が流石に勿体ないわ」
リアルで夕方ごろ、私は『CNP』に再ログインした。
では、早速デンプレロの報酬確認から。
報酬は……
・デンプレロの棘と言う名の1メートル近い円錐状の物体が2本
・デンプレロの甲殻が2枚
・デンプレロの毒腺が1つ
・デンプレロの肉が少量
・演奏の蠍呪の壊れた楽器が3つほど(ギター3本)
「んー、少な目な気がするわね」
『でチュかね? 数は変わらないと思うんでチュけど』
「ああ、言われてみれば確かに。数は変わらないわね。種類が少ないのか」
カロエ・シマイルナムンの時は6種類各1個で、ほぼ間違いなく私が一番活躍していたこともあってか、心臓と言うレア素材っぽいのが含まれていた。
ズワムの時は単騎討伐と言う事もあってか、全ての素材が限界量で出ていたように思える。
となると今回のは……もしかして、普通ぐらいの報酬になるのだろうか?
掲示板を少し探ってみた感じ、報酬が少ないと騒いでいる声はなさそうだった。
いやでも、やっぱり少ない可能性もありそうだ。
他の部位については運で済ませてもいいと思うが、肉の量が少ない気がするし、とりあえず合わない感じがある。
それにデンプレロ戦に至るまでの経緯なども含めれば、報酬が引かれる理由は十分あると思うし、少ないと思っておこう。
「あるいは……デンプレロへの攻撃よりも、取り巻きへの攻撃の方が貢献度が高く設定されている可能性もあるわね」
『取り巻き……ああ、演奏の蠍呪とかは放置していると酷いことになるそうでチュね』
貢献度の割り振りが私の勝手な想像とはずれている可能性もあるか。
ザリチュの言ったとおり、取り巻きの一種である演奏の蠍呪は放置していると、恐ろしい強度のバフデバフを重ねて行くようになると聞いている。
そんな取り巻きがマップの至る所に護衛付きで湧いていたのがデンプレロ戦なのだし、デンプレロ本体よりも取り巻きの処理の方が重要視されていてもおかしくはないか。
たぶんだが、弱体化したデンプレロとの戦いでも、重要なのはデンプレロ自身への対応ではなく、取り巻きの処理が滞りなく行われる事だろうし。
「まあ、この辺はいずれ検証班が出してくれるか」
私は目録の中身を実体化させず、目録のままで、置いておくことにしておく。
『実体化させないんでチュか?』
「少し悩むところだけど、後回しにするわ。ズワムのレベルが30で、素材のレベルも30だった。となればデンプレロの素材も同様のレベルだと考えられる。今実体化させても扱いきれない可能性があるから、止めておくわ」
『具体的には何時まで放置でチュか?』
「んー……今、レベル27なのよね。出来ればもう1レベルは欲しいわね。一応、今の状態でもギリギリ扱えるとは思っているけど……数が少ないから、無駄にはしたくないのよ。特に毒腺とかはね」
『でチュか』
うん、やっぱりレベル不足が響いている気がする。
となると何処でレベルを上げるかだが……おや? 『ダマーヴァンド』と言うか『熱樹渇泥の呪界』に関する掲示板に妙な記述がある。
飢渇の泥呪の海の中に、電光系の感じで光り輝く何かが居ると。
出現時期は私が『気絶の邪眼・2』を習得した頃からっぽい。
「これ、変電の鰻呪かしら?」
『チュー? ああ、そんな感じがあるでチュね。でも、誰も倒せていないから、正体は不明みたいでチュね』
一応、『ダマーヴァンド』及び『熱樹渇泥の呪界』の呪詛量に異常がないかを確認。
もしも変電の鰻呪がそのまま出現していた場合、呪詛が幾らあっても足りなくなる可能性があるからだ。
結果は問題なし。
目撃報告の数からしてガセネタではないようだが、変電の鰻呪がそのまま出現しているわけではないらしい。
じゃあ、変電の鰻呪モドキとかそんな感じか?
「そうね。折角だからこれを狩りに行ってみましょうか。簡単に調べられないものならまだしも、そうではなさそうだし、丁度いいわ」
『分かったでチュ』
では早速出陣。
飢渇の泥呪が舞う中でも戦えるように装備を整え、ザリチュも化身ゴーレムを操って『熱樹渇泥の呪界』へと向かう。
「流石に人が少ないわね」
「デンプレロにかなりの量が流れていたはずでチュからねぇ」
『熱樹渇泥の呪界』に居る人の数は少ない。
まあ、他のプレイヤーが居ても居なくても、私のやる事には変わりないのだが。
「んー……上からだとちょっと見えないわね」
「呪詛の霧では無く、物理的な砂嵐による視覚阻害でチュからねぇ」
他のプレイヤー向けの足場から離れた私は、適当に『熱樹渇泥の呪界』の中を飛びつつ、目撃証言にある電光を探す。
しかし、件の電光の持ち主は飢渇の泥呪の海の中でも下の方に居るらしく、飢渇の泥呪が飛んで来ないような位置では、姿が見えないようだ。
「よし、ダイブするわよ」
「分かったでチュ」
なので私はゆっくりと降下していく。
飢渇の泥呪たちが跳ねて来る高さに降り……変化なし。
全方位が飢渇の泥呪に埋め尽くされる高さに降り……変化なし。
油断していると飢渇の泥呪の波に飲まれかねない高さにまで降り……一瞬電光が見えた気がした。
やはり何かは居るようだ。
では、喉枯れの縛蔓呪と飢渇の泥呪の波に気を付けつつ、電光を追ってみよう。
あ、折角だから動画配信もしておこう。
「居た」
「でチュね」
「デデチュ……デデチュ……」
そうして私が見つけたのは、飢渇の泥呪の中を電気を纏った状態で這い回っている、ネズミの頭と前足を持った鰻だった。
だが、変電の鰻呪と違って実体はあるらしく、電光の下には黒っぽい体は見えている。
「鑑定っと」
私は『鑑定のルーペ』を向けて、鑑定した。
△△△△△
乾電の鰻呪 レベル23
HP:12,537/12,537
有効:なし
耐性:気絶、乾燥、石化
▽▽▽▽▽
「デデチュアアァァ!」
「もしかしなくても乾電池?」
「いや、たるうぃ? 敵が来るでチュからね?」
鑑定直後、乾電の鰻呪は大きく口を開き、前歯を剥き出しにして、私へと襲い掛かってきた。
02/17誤字訂正