429:デンプレロ・ムカッケツ-7
本日一話目です。
「ーーーーー!!」
これまでにない勢いで暴れ始めた『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツ及びその取り巻きたちとの戦いは長期戦となった。
長期戦となった以上はこちらの被害も当然のように増していく。
足で踏まれたり、鋏で潰されて、粉砕される者。
電撃で動きを止められたところを砂の弾丸で撃ち抜かれて息絶える者。
取り巻きに囲まれて押し潰されて死ぬ者。
私とザリチュを狙う紫色のビームに巻き込まれて消し飛んだ者。
戦場を動き回る砂の竜巻、ザリチュを狙った後の側撃雷、自由落下する巨大氷塊、大爆発する火球、音もなく忍び寄って飲み込んでくる蟻地獄、これらの攻撃によって倒れた者の数に至っては、もはや数えるのも馬鹿らしいくらいである。
「諦めんじゃねぇ! アオオオォォォン!!」
「ええそうね! 此処まで来て諦めるなんてないわ!」
「出し惜しみは無しだ! ガンガン攻めていけ!!」
だが、プレイヤーとは不老不死の呪いを受けた人間である。
故に何度倒れても立ち上がる。
立ち上がって、湧いて来た取り巻きを潰し、デンプレロを囲って攻撃を叩き込む。
デンプレロの蜃気楼化による防御すら、呼吸を整える時間にはなれど、足止めにはなっていない。
プレイヤーが死ぬ度に天井に開き始めた呪限無の穴は少しずつ広がっているが、そのスペースは遅々としたものであり、デンプレロが通れるほどになるのはまだ先だろう。
「ーーーーー!!」
「「「っ!?」」」
「さて……来たわね」
「でチュね」
デンプレロに変化が生じた。
デンプレロから衝撃波のような物と共に大量の呪詛が放出され、近くに居たプレイヤーたちは強制的に吹き飛ばされる。
それと同時に呪詛濃度が22に上昇。
加えて気温も零下30度の状態から70度にまで、一気に100度上昇した。
取り巻きもマップ各所に、一集団20体ほど、4種類が混在する形で出現する。
そして、デンプレロの右鋏から炎が、左鋏から吹雪が噴き出し……
「ーーーーー!!」
これが最終局面である事を告げるようにマップ中に雷鳴が轟き、閃光が瞬いた。
「全員突っ込むぞ! これでラストだ!」
「全員行きましょうか! 此処を乗り切れば勝利よ!」
だが今更この程度に怯むプレイヤーではないし、呪詛濃度22の環境も70度の高温環境にも適応済み。
だからプレイヤーたちは体勢を立て直すと、デンプレロへ向かって行き始める。
「ーーー……」
「「「っ!?」」」
「へえ、そう来るの……」
対してデンプレロはその場で暴れた。
八本の脚を上下動させ、二本の鋏を振り回し、ビームと砂の弾丸を当たるを幸いに撃ち続け、これまでのヘイトなど関係なく、近寄ったプレイヤーを片っ端から薙ぎ払っていく。
そして遠距離攻撃が迫ってくれば自分の目を鋏で守った上で、これまでの超音速鋏攻撃と同じ要領で突進して攻撃を避ける。
超音速の突進は巻き込まれれば当然タダではすまないし、近くに居るだけでも被害が甚大な物となり、現に私のHPも2割ほど削られている。
「っ!?」
「うおっしゃああぁぁ! 追いかけろ!」
「ぶっ潰してやらぁ!!」
「逃がすか! このエアコン蠍!」
しかし、超音速の突進を長距離するとなれば、前方の確認やカーブすると言った行為が出来ないのだろう。
デンプレロはこのマップに何本もある岩の柱に正面衝突し、派手な音を鳴り響かせながら停止、何度かたたらを踏んでから……
「ーーー!」
「げっ!?」
「野郎! 逃げ出す気か!!」
「誰か叩き落せ!!」
岩の柱にしがみ付いて昇り始めた。
天井の呪限無の穴から逃げ出すのか、それとも高所から一方的に攻めかかる気なのか、どちらにせよ逃がすと面倒なことになりそうな気配がある。
では、こうしよう。
「『重石の邪眼・2』」
「……!」
私の目が三つ、灰色に光る。
その瞬間にデンプレロの体が霞み、私の『重石の邪眼・2』は予想通りすかされた。
そう、予想通りだ。
デンプレロの蜃気楼化による攻撃回避はこれまでの戦闘でほぼ全ての性質が割れている。
使用出来る間隔が15分おきである事や、効果時間が3秒間しかない事、発動中はあらゆる攻撃を受けない代わりにデンプレロも移動と攻撃が出来ない事などだ。
で、最も厄介な性質が、蜃気楼化はある程度以上の威力を持つ攻撃の命中が確定すると同時に発動するために、フェイントの類が通用せず、私の邪眼術ですら回避してしまう事となる。
だが、それならば有効打となる攻撃を多段階に分けて撃ち込むだけの事。
他のプレイヤーならともかく、私にとってそれは容易な事だ。
「thgil rethgil tsethgil ylf pmuj taolf『重石の邪眼・2』」
と言う訳で、チャージの開始タイミングをずらす事で、発動のタイミングもずらした『重石の邪眼・2』を10の目で発動する。
『呪法・破壊星』、『呪法・方違詠唱』も勿論乗せる。
「!?」
私の目論見は成功。
与えた状態異常は質量増大(10)に、重力増大(318)。
その巨体故に膨大な質量を持つデンプレロに質量増大は大して効果はないだろうが、岩の柱にしがみ付いていると言う不安定な状態で、自重が4倍になれば?
その結果はすぐに示された。
「ーーーーー!?」
岩の柱にしがみ付くデンプレロの足元を煌めく何かが通過した直後、デンプレロは背中から砂地に向かって落ち、叩きつけられ、桁違いの衝撃故にか身動きが取れなくなった。
「うおっしゃああああぁぁぁ!!」
「ヒャッハアアァァ! 攻めこめぇ!!」
「ナイスタアアァァル!!」
この隙を見逃すようなプレイヤーたちではない。
デンプレロに接近すると、一気呵成に攻めかかり、これで最後だと言わんばかりに持てる力の全てをデンプレロの体へと叩き込んでいく。
「ーーーーー!?」
「無かったことになったがサクリベスの仇じゃああぁぁ!」
「悪創、微妙に目障りだし、気になって仕方がないんだよ!!」
「電撃、火炎、氷結、何でも出来て羨ましいんじゃアアァァ!!」
時折変な叫びが聞こえるのは置いておく。
それはそれとして、これまでの攻撃によるダメージによるものだろうか。
遂にデンプレロの体の表面を覆う甲殻や突起が砕け始め、痛みを訴えるようにもだえ苦しみ始める。
この分で行けば攻め切れるか?
いや、微妙に間に合わないかもしれない。
「さて、しまらない事になる可能性もあるかもだけど、私も最後の攻撃と行きましょうか」
では、私も最大火力を出すとしよう。
私の呪詛支配範囲を最大まで拡大し、その範囲内にある呪詛を『風化-活性』の上で支配。
私の手元に集めて、呪詛の種と呪詛の星を生み出して飛ばす。
「『inumutiiuy a eno』」
左手を胸元に当て、右手を手のひらを地面に向けた状態で前へと伸ばす。
右手だけでなく喉にも呪詛を集めて、歌うように声を発して、周囲の呪詛を震わせる。
「『yks nihuse』」
右手を反転。
すると手のひらの上だけでなく、私の呪詛支配領域にある地面や壁からも、虹色に輝く彼岸花のような物が現れる。
「『sokoni taolf』」
手のひらの上の彼岸花を握り潰すと、周囲の彼岸花も散る。
だが私はそのことを気にする事もなく、右手を胸元に持ってくると、全ての目を一度瞑る。
「『nevaeh esir』」
思うのは?
如何なる思いをこの呪術に込めるかだ。
サクリベス崩壊の怨み? 勿論ある。
聖女ハルワ殺害に対する復讐? 勿論ある。
今回の件を起こしたプレイヤーたちへの怒り? 勿論ある。
己への不甲斐なさ? 勿論ある。
重さや質はともかくとして、あらゆる負の感情が私の中にはちゃんとある。
だからそれは込める。
その上で、これらの想いの核とするのは……熱だ。
「『higanhe og ton od』」
私の名の起源に相応しき熱を込める。
悍ましく、痛々しく、疎ましく、相手の体の上で這い回る蛇のような熱、相手に食らいつき貪る獣のような熱、針を突き立て苦しめる毒虫のような熱。
見れたかもしれない未知を奪われた憤怒への熱、今回の流れだからこそ見れた未知に対して興奮するような熱、誰かから理解される必要はない私だけが分かっていればいい熱。
目を開くと同時に、私の想いの丈がそのまま炎の丈となるように、伸ばした右手の人差し指と中指に蘇芳色の刃が生じる。
「『禁忌・虹色の狂眼』」
そして、左手の手首を切り裂きつつ両腕を広げ、私の呪詛支配領域中に虹色の花びらを撒き散らす私の13の目は、ようやく体勢を立て直した『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツへと向けられる。
音速に等しい早さで飛びつつ虹色に輝く呪詛の星と種がデンプレロの頭に重なると同時に、私の目から虹色の輝きが放たれる。
「!?」
「「「っ!?」」」
デンプレロの頭から虹色の閃光が放たれる。
「ーーーーー!?」
「「「うおおおおぉぉぉぉいい!?」」」
「「「てった、てったあああぁぁあ!?」」」
「「「巻き込まれるぞおおぉぉぉ!?」」」
直後、まるで13匹の蛇のような蔓がデンプレロの頭から生じ、デンプレロの体に絡みつき、食らいつき、貪り、蘇芳色の不吉なエフェクトを撒き散らし、また新たな頭を生やしながら別の部位へと向かって行く。
デンプレロはこれまで以上の勢いで暴れ狂い、蔓を自分の体から引き剥がさそうとするが、実体のない虹色の蔓を掴む事など出来るはずもなく、それどころか鋏と尾で己の体を傷つけていく。
「『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツ。色々と見せても貰ったから、多くは言わないわ。そう、私から言うのはほんの少しよ。虹色の蔓に沈んで……死ね」
「ーーーーー……」
やがてデンプレロの全身は繁茂した虹色の蔓に覆い尽くされ、動きを止める。
≪超大型ボス『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツが討伐されました。共同戦闘を終了します。報酬はメッセージに添付してお送りいたします≫
≪呪術『転写-活性』を習得しました≫
≪称号『沈黙の名手』、『重力使い(増)』を獲得しました≫
≪称号『悪創:変圧の蠍呪Lv.0』が条件を満たしたため、消滅しました≫
≪タルのレベルが27に上がった≫
そして、討伐を告げるアナウンスと共に虹色の蔓は砕け散り、後に残されたのはまるで全身が消し炭のようになったデンプレロの死体であり、その死体もまた、自重に耐え切れず、直ぐに崩れ落ちた。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル27
HP:232/1,260 (-375)
満腹度:21/150 (-45)
干渉力:126
異形度:21 (+3)
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓、(死退灰帰)
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の達人』、『灼熱の名手』、『沈黙の名手』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖の名手』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『魅了使い』、『重力使い(増)』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『3rdナイトメアメダル-赤』、『七つの大呪を利する者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『偽神呪との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』、『いずれも選ばなかったもの』、『呪海渡りの呪人』、『泡沫の世界の探索者』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・2』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『重石の邪眼・2』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・原始呪術:
『不老不死-活性』、『不老不死-抑制』、『風化-活性』、『転写-活性』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』、『化身』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール、呪詛貯蓄ツール×5設置
システム強化
呪怨台参式・呪詛の枝、BGM再生機能、回復の水-2、結界扉-2、セーフティ-2
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